第3話

水咲には歳の離れた兄がいる。

両親の記憶はない。水咲が物心つく前に他界してしまった。写真でしか知らない父親と母親はいつも幸せそうで、その腕に抱かれている幼い自分は嬉しそうに笑っていた。

兄、竜樹たつきとずっと二人暮らしだが、中学まで水咲は施設で育った。そのせいかもしれない。家族だけれど家族じゃない。そんな感覚に襲われる時がある。

優しくて自慢の兄なのにどうしてだろう。

どうして、こんなに胸が痛いんだろう。


どうして、泣きたくなるんだろう。



「着いたよ、お姫さま」

水咲はヘルメットの中でおそるおそる目を開けた。

ほとんど無理矢理バイクに乗せられて何処に行くか告げられないまま、ずっと大地の背中にしがみついていた。

「……?」

狭い視界に入ったのは、こちらを面白そうに覗き込んでいる大地の顔だった。

「怖かった?」

なんだか、頭がくらくらする。怖かった、のだろうか。

ぼんやりしている水咲に大地がくすくす笑いながら言った。

「俺としてはこのままでもずっと構わないんだけどなぁ」

このまま?

なにを言っているんだろう。

首をかしげてふと、目線を下に落とす。見えたのは大地の背中と、その服を掴む自分の手。

「?」

なんだろう。なにかおかしい。

なにが?

じっと自分の手を見る。大地はくすくす笑うばかりで答えを教える気はないらしい。

緊張で大地の服を掴んだままだ。

服を――掴む――

「――!!」

ようやく水咲は気付いた。が、慌てて手を離した反動で身体がバイクから落ちそうになった。

「あっ」

「おっと」

咄嗟に大地が腕を出して水咲を受け止める。

「大丈夫?」

「う、あ、ありがとう……ございます……」

しどろもどろにお礼を言う。

「どういたしまして。あ、ヘルメット苦しいだろ。外すよ」

そう言って大地は慣れた手付きでヘルメットを外してくれた。

圧迫感から開放されて視界が広くなり、水咲はほっとした。

と、ここでようやく気付く。

「あの、ここって……」

「ん?ああ、俺のガレージ」

ガレージ?ここが?水咲の思っているガレージと全然違う。なんだかお洒落な部屋に見えるのは気のせいだろうか。でもバイクの他に車が1台ある。

「さ、行こうか。こっち」

奥に扉があり、大地は手招きして扉を開けた。すると中におそらく大地より年下?らしき青年が立っていた。


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