第2話

高校に入ってから始発のバスで登校するようになった。部活をしているわけではないのに、いつからかそれが癖になり、そんな生活を続けて気付けば高校もあと少しとなっていた。

「行ってきます」

水咲みさきはキッチンにいる兄に声をかけて玄関に向かう。

「行ってらっしゃい。気を付けてな」

「うん」

返事をして水咲は家を出た。そして、玄関のドアを閉めてから大きくため息をつく。

毎朝交わされる何気ない会話。けれど、水咲にとってはすごく緊張する時間だ。

胸の鼓動が早くなっているのを自覚しながら水咲は早足でマンションのエレベーターに向かった。

1階のエントランスに出ると、入り口に人影が見えた。時々、マンションの住民と出会うこともあるので、挨拶しようとして――足が止まった。

「お、水咲ちゃん。おはよ」

「おはよう……ございます」

名前を呼ばれて水咲はびくりと身体を強張らせる。

「へえ、今から学校?」

「は、はい」

「ふーん」

現れた青年はマンションの住民ではなく、兄の親友だった。正直、水咲は彼を苦手としていた。ちょくちょくこうやって兄を訪ねてくるのだが、水咲にとってはあまり関わりたくないタイプだ。誰が見ても遊んでいそう、と思うような外見だし、真面目な兄とまるっきり正反対でどこに共通点があって親友になったのかさっぱり分からない。

水咲は早くこの場から立ち去りたくてウズウズしていたが、青年が入り口に立ち塞がっているのでどうにもならなかった。

「あ、の……」

「なに?」

こちらの気持ちを知ってか知らずか、青年の声が面白がっているのが分かった。

「私、学校に行かなきゃ……」

「まだ遅刻する時間じゃないよ」

即答される。

「それに」

青年がだんだん水咲との距離を縮めてくる。思わず後ずさりするが逃げられない。

「こーやって水咲ちゃんと話出来る機会なんてそうそうないしなー。邪魔者いないし」

なにを言ってるのだろう、この人は。

と。

「……?」

青年の面白がっている目が水咲をマジマジと見始めた。口元に手を当ててなにかを考えているような、いたずらっ子が面白いことを思い付いたような、そんな顔になった。

「よし」

「!?」

突然、ぐいっと手を引っ張られる。

「じゃ、行こうか」

「えっ?」

唖然とする暇もなく水咲の手を握って入り口に向かう青年になんとか声を振り絞る。

「あ、あの!」

「1日くらいサボったって大丈夫」

そういう問題ではない。というか、明らかに水咲をどこかに連れ出そうとしている。

水咲は青年の名前を叫んだ。

「大地さん!」

「なに?」

「ど、どこへ――」

マンションを出て向かったのは駐車場だ。そこに見慣れない大きな黒いバイクが停めてあった。

ここで青年――大地は足を止めてくるりと振り返ったと思ったら、

「よいしょ」

「きゃあ!」

水咲を唐突に抱き上げた。

「どこってもちろん。俺とデートに決まってるじゃん」

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