第2話 知られざる契

「お呼びですが、帝釈天様。」


大きな扉からが出てきたのは銀髪の初年だった。

その顔立ちは外国の血が混じっているかのように

美しく幼いにも関わらず男らしい顔立ちをしていた。


「うむ。 阿修羅王の妃が子を身籠っている。

その子供は阿修羅王となりになる者だ。カルロス、お主にその子を

として知恵と武術を学ばせ、育てることを命ずる。」


帝釈天は優雅に椅子に横たわり果実をほおばりながら言い放った。


「御意。仰せのままに。」


銀髪の少年は会釈し、帝釈天の部屋を後にした。









(っあー。たりーな、ガキの面倒なんて。)

カルロスはめんどくさそうに頭を掻き、あくびを洩らした。

帝釈天の側近であると同時にカルロスは帝釈天の奴隷でもある。

その帝釈天の命は絶対なのである。


そこに、小柄な少年がカルロスに近づき耳もとでささやいた。

「カルロス様、が終わりました。」


「もうか?早いな。」


「拒絶反応が強く、子が死んでしまう前に術式を施したため、

籠りが早く完了したのです。」


カルロスはその言葉に反応し、眉をひそめた。


「術式?女と子は無事なのか?」


「仮にも星見ほしみの女。衰弱はしていますが死んではおりません。子も無事です。」



小柄な少年は不敵な笑み浮かべながらカルロスを部屋へと案内した。



「こちらが星見の女の、子の部屋となっております。」


「おう、めんどくせぇが一応顔を拝見しておくかー、さるみたいな顔してんだろーなぁ、ははッ」


そう言うと扉を開き、健やかに眠りに入っている子の顔を覗き込んだ。


そのとき、 まるで体の隅々まで電流が走るような感覚に襲われた。


その子が大人になった姿が脳裏に浮かんだ。その姿はとても美しかった。


色白の肌にまるで血のように赤い唇。瞳はなにもかも見透かされているかのような

黄金の瞳。抱きしめてしまえば折れてしまいそうな体。風になびくきれいな黒髪。


その光景はすぐにかき消された。けれどもその姿がこの子の未来の姿だと確信した。




欲しい。




カルロスはそう思った。



欲しい。この子供を、 この女性が欲しい。



「・・カルロス様? ご気分でも害されたのですか?」


小柄な少年は心配そうにカルロスの顔を覗き込んだ。


「アレン。 帝釈天様に会いに行ってくる。この子供を後の妃にしてもらいに。」


カルロスはそう言うと帝釈天の部屋に足進めた。


「・・・え?えぇええ!?、カ、カルロス様ッ!?」

アレンと呼ばれた少年は困惑した表情で出て行ったカルロスの背中を見つめた。





コンコンッ!

「帝釈天様! お話があります。」


カルロスは返事も待たずに帝釈天のいる部屋へと入った。そこには

帝釈天の妃の舎脂しゃしが帝釈天の体に重なりあっていた。


「カルロス。返事も待たず入るとは無礼だぞ。舎脂に失礼だ。」


帝釈天は近くにあった布を舎脂の体に纏わせた。


「帝釈天様、また後ほど来ますわ。お楽しみはまた今度・・・」


舎脂は帝釈天に口づけし、布を自分の体に巻き付け部屋を出て行った。



「はぁ、甘美な時間を台無しにしてくれたなぁ。どんな要件だ。」


帝釈天は乱れた服を直すことなくカルロスに向かい合った。


「無礼をお許しを。けれどもどうしてもお話ししたいことがありまして。」


カルロスは頭を下げ許しを乞いた。


「まあいい。で、なんだ?」


「はい。後のになる者、つまりは星見の女の子を後の妃にしていただけ

ないでしょうか」


「後の妃?、おまえはまだ子供だぞ?」


帝釈天は怪訝な顔でカルロスを見た。


「破れない契として。として知恵と武術を学ばせ、育てる。その褒美に妃として迎え入れたいのです。」


カルロスは真剣な顔立ちで帝釈天の瞳を見つめた。


帝釈天はそのカルロスの強い瞳を見て真剣だと感じた。


「フン。よかろう。面白そうだ。として育てる。その褒美に妃に迎え入れることを許そう。」



帝釈天は自分の指を噛み、流れる血で空中に文字を書き始めた。


カルロスも自分の指を噛み、空中に自分の名前を書いた。


空中に血で書かれた文字は混じり合い、帝釈天とカルロスの体内に半分ずつ

元に戻っていった。



帝釈天とカルロスの、知られざるちぎりが交わされた。





-知られざる契-終









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