味あわせる(正しくは「味わわせる」になるのだけど……)

 「味わわせる」が「味あわせる」と書かれている文章を見ることがあります。

 「味わう」を「味あう」と書かれるのと比べて、頻度は計り知れない差が有ることでしょう。


 「味わわせる」はワ行五段活用(ワア行五段活用)の「味わう」の未然形に助動詞「せる」が付いた語です。

 語幹は「味わ」なので、ここが「味あ」に変化することはありません。


 それで何故「味わわせる」に間違いが多いのかを想像するに、恐らくは耳で聞いた時の違和感の差でしょう。

 「味あわせる」は「味あう」に比べて違和感が少ないか、違和感が無いに等しいものです。

 また、「わわ」の部分が発音しにくく、発音する時に「あわ」になりがちなのも影響していることでしょう。

 音読の際に「味わわせる」と読んだつもりで「味あわせる」と発音してしまい、その発音で憶えてしまうなんてこともあるのではないかと思われます。



※追記


 上記が現代仮名遣いを前提にしたものだったのですが、歴史的仮名遣いに目を向けると少し見方が変わります。


 歴史的仮名遣いは、案外と大本の発音と、そこからの音便の変化に対応したもののように思います。

 本来形の発音は歴史的仮名遣いの通りで、実際の発音になったら穏便変化しているのかも知れません。


 現代仮名遣いでも「えい」の発音を標準語、つまり山手方言では「エー」と発音します。

 これは本来「エイ」で発音するべきものが穏便変化しているだけです。そうでなければ「ねえさん」と言う「ええ」になる言葉の存在が説明できません。


 翻って、「味わう」の歴史的仮名遣いは「あぢはふ」とのことです。

 本来の発音がそのまま「アヂハフ」で穏便変化したものが「アジワウ」だとすると、「あぢはわせる」の時の「は」は穏便変化せずにそのまま「ハ」と発音することになりはしないでしょうか。

 「アジハワセル」です。


 この「アジハワセル」が現代仮名遣いの影響で「アジアワセル」になったとは考えられないでしょうか。

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