汚名挽回(誤用)

 とある学者さんが誤用だと語ったことで誤用とされた「汚名挽回」が別の学者さんによって「誤用とは言えない」とされたのは数年前のことになります。


 誤用かどうかはさておき、類似の言葉に「名誉回復」「名誉挽回」「汚名返上」などが有ります。


 この「名誉~」と「汚名~」の使い分けはどうしたものでしょうか。

 恐らくは「名誉」と言うプラスの状態がゼロ、あるいはマイナスになってしまったのをプラスの状態に戻す場合に「名誉~」を使うのでありましょう。逆にプラス、あるいはゼロの状態がマイナスになってしまったのをプラス、あるいはゼロに戻す場合に「汚名~」を使うのでありましょう。

 プラスに戻す事と、マイナスを打ち消す事のどちらに主眼が置かれているかで使い分けがなされると考えます。


 正しいとされる「汚名返上」もなかなかに奇妙な言葉です。

 「汚名」を一体誰に「返上」するのでしょう。

 「返上」は謙った言い方でもありますから、「汚名」とはどこか上位の存在から貰い受けたものなのでしょうか。


 憶測でしかありませんが、武士の時代に何かの不手際の責任を誰か一人が背負って、「汚名」を着て、処分を受けたりしていたのではないでしょうか。その際の「汚名」は当主、あるいは家老から下げ渡されるものだったと考えられます。

 現代においても、会社の不手際を誰か一人が背負って退職したなんて話が有ります。


 こう考え合わせると、「汚名返上」の言葉そのものは納得できます。

 会社の例があるとは言え、現代においては如何なものかとも思いますが。


 話を戻して、この「名誉挽回」などは別項の「的を射る」同様、多分に暗黙の省略を含みます。

 「名誉挽回」なら「名誉(が損なわれた状態から損なわれていない状態に)挽回(する)」です。


 「汚名挽回」なら「汚名(を着た状態から着ていない状態に)挽回(する)」になります。


 しかしこれ、少しおかしくはないでしょうか。

 おかしくない?

 少し下品になりますが「うんこ(を付けられた状態から付けられていない状態に)挽回(する)」であれば、多くの方がおかしいと感じられるのではないでしょうか。

 「汚名」も「うんこ」も付けられる意味では同じです。


 付いてない状態に戻す、と言う部分に何とも違和感が有ります。


 そう言ったことから、「汚名挽回」はやはり誤りだろうと思います。


 一方、「名誉」も付くものですが、剥がれたものを付け直すのは正しく「挽回」でありましょう。

 だからこちらは正しい。


 それはそれとして思うのです。

 「汚名」って、「返上」するものでも「挽回」するものでもなく、「払拭」するものではありませんか?

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