俺等は間違ってゆく
第31話「マジで損な橋」
悪の秘密結社、アトラクシア。
純粋なる『悪』そのものを自称する、エンプレス・ドリームが率いる組織だ。その目的は『一人を除く全てのヒーローを抹殺すること』である。
そして、
エンプレス・ドリームこと
そんな彼女に、連児は恋をしている。
「ってか、もう恋人? 愛し合ってる? みたいな。ヘヘッ、愛は俺を強くするぜ……!」
能天気な連児は今日も、アトラクシアの戦闘員として集合場所に来ていた。
その漆黒のスーツを裏返す時、彼は燃える初恋の化身となるのだ。
だが、今はアルバイトで集められた戦闘員の一人にすぎない。
「おーし、全員揃ったな! 今日の仕事を始めっぞ!」
中肉中背のチームリーダー、戦闘員1号が野太い声を張り上げる。
今日のシフトでは、10人前後の戦闘員が集まっていた。
因みに連児は、28号である。
普段は、ただのモブ……名もなき戦闘員28号だ。
周囲では買い物帰りの主婦や、近所の子供達が見ている。ここは、まほろば町の
用水路よりは大きいが、
小川は今日も、綺麗な
なんてことはない、まほろば町の一角に広がる普通の光景だ。
「リーダー、すんませーん! なんか、18号が来てないんですけどー!」
仲間から声があがって、太っちょの1号が向き直る。
皆、顔は黒ずくめのマスクだ。
でも、バイト仲間で同じチームだからすぐに表情が読み取れる。
確か、今日は新人の18号が一緒に参加する
やれやれと
「困ったもんだな、最近の若い奴ときたら……確か18号はバイトの女子高生だったな。遅刻、あるいは欠勤、と……あとで
こう見えても、1号は
そして連児は知っている。
悪の
その彼が、18号を待つのを諦め喋り出す。
「じゃあ仕事を始めるか。今日はだな……ロンドン橋だ」
「なんスか、リーダー」
「あー、それって歌のやつ? ロンドン橋落ちた、落ちた、落ちた……ってやつ」
「それ知ってるぜ、ヘルシングだろ! ロンドン橋は? 落とせ、歌のように! っての」
連児達が立ってるこの橋は、今も自転車で女子高生が通ったり、
この橋を落とす……それはまさしく、悪だろう。
だが、どうやら事情は少し複雑なようだ。
1号が簡潔に説明してくれる。
「この橋な、耐用年数も切れてる上に耐震構造がダメダメでな。大正時代に作られた橋で、正直言うと……今この瞬間に落ちても、不思議じゃない。老巧化してんだ」
一斉に皆で、橋を走って対岸に逃げた。
連児も迷わず逃げた。
足元が突然崩れたら、無駄に残機が減ってしまう。
因みに今、連児の残機は14機だ。
ここ最近、なんだか冥夜が以前より優しい気がする。
普段より2%ほど、優しさが多い気がする。
だから、何気ない日常でストックが増えたのだ。それでも、無駄に消費するのは嫌だし、復活できても痛いものは痛い。死に方を間違えると、激痛の中で時間を無駄に使ってしまうのだ。
「……ま、そういう訳で安全なうちに誰も巻き込まずに落とす。土建屋が橋を
1号が説明していた、その時である。
向こうの通りからぽてぽてと、
酷く細くてスレンダーで、それでもささやかな胸の膨らみは女性だった。
連児は即座に眼力で察した。
上から、78のA、そして58、80……イェスなスリーサイズである。
恐らく、遅刻してきた18号だろう。
「ういーっす、送れてサーセン。どもどもー」
コンビニ袋を片手に、彼女は輪に加わった。
モデルみたいな八頭身で、自然と顔を隠した中でも目立つ。
1号は即座に説教を始めようとしたが、悪びれぬリアル
「ええい、来ただけいい! そうだな、みんな!」
「サーセン、ほんとサーセン。てゆーか、掃除当番だるくてー」
「わかった。説明を
「りょーかーい。ってか、マジで? へー、なんか戦闘員っぽい」
「そうだろう! この橋はもう寿命だ。長らく市民の架け橋だったが、老巧化で危ない。もう役目を終えてもいいだろう」
そう言って1号は、無言で橋へと手を合わせた。
なんか、一緒に倣って連児も合掌してしまう。周囲の仲間達もそうだったし、やる気ゼロな18号も「なんまんだー」とけだるい声で
ちょっと違う気がするが、まあいいだろう。
「さあ、取り掛かるぞ! ツルハシとか持ってきてるからな! ドリルもある!」
「うーっす、ほんじゃま……ちゃっちゃとやっつけますかねー」
「ちょっとちょっとー、18号ちゃん? 意外とやる気じゃん?」
「俺等だってそうでしょ。悪いことして市民もラッキー、土建屋さんもラッキーでしょ」
「ならもう、悪事じゃなくね? エンプレス・ドリーム様、怒らないかなあ」
「悪事じゃねえんだよ、悪事と悪は違うの! そういう感じなの! ディー・ドリーム!」
かくして、人力による橋の解体作業が始まった。
連児もツルハシを手に、トンテンカンテンとコンクリートの
ご丁寧に、道には工事中の看板を出してあった。
連児には難しいことはわからないが、バイト代も出る。その上、あの冥夜が実行段階まで口を
「ちょっとー、カレシー? そこ、いい? ちょっとどいてー」
「お、おうっ! ど、どした? えっと、18号さん」
「うけるー、18号さんて……キミ、28号だっけ? ハチ繋がりじゃん。どこ
「それ聞いちゃう? 名もなき戦闘員同士なのに?」
気付けば、連児の横に18号がいた。
彼女は意外と器用に、ガラゴロと亀裂を広げてコンクリートを引っ剥がしてゆく。真面目に働くのにも驚いたが、全く
「てゆーか、
「ま、そうだけどな。……因みに俺は、第三中学校だ」
「マジ? へー、
「後輩……え、高校三年生? どこの?」
「それ聞くー? 言えないっしょ。でも、正解。オネーサンを
なんのかんので作業が進む。
18号も周囲の戦闘員達も、バイトやパート、専業戦闘員の差こそあれ、同じウィルス『ニュートラル』の感染者である。身体能力は高く、重機などなくとも橋が徐々に崩されていった。
そんな中で、要領良く働く18号に連児は目を奪われる。
メリハリボディでけしからん乳をしてる冥夜もいいが……しなやかな細身の18号も、いい。そう思える程度には連児もスケベ、ドスケベだった。
「あ、やば」
「ん? どしたんスか。18号さん」
「や、さんはいいって。それより……やばい、落ちる」
「落ちる?」
「ちょっと強く叩き過ぎたかもー? 最近あーし、変な力が出ちゃうんだよねー……橋、落ちるかも。ちょっちヤバイ」
彼女が言った通りだった。
役目を終えて
目的達成とばかりに、1号の号令で皆が橋の左右に逃げる。連児も続いたつもりだったが、遅かった。遅いと思った時にはもう、抱きしめてくる18号と共に川に飛んでいた。
ガラゴロと崩れる橋を背に、連児は見た。
マスクを少しあげて、
ショートカットにピアス、少し化粧……とびきりの美少女が笑っていた。
「無事? だよね? ふふ、さーせん。最近、力の加減ができなくてさ。あーしの顔に
「あ、ああ」
「で? 君はどんな顔してんの。あーしの顔だけ見るの、ずるいっしょ」
勝手に18号は、連児のマスクも少しずらす。
砂煙があがる中、上に仲間達の歓声を聴きながら……素顔の連児は見た。少し
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