第33話 姫さま、やっちまった・・・
そして二分後。
「ふんぬうううううう!」
「脱げないいいいいいい!」
「あか――――――――――――――――――ん!」
未だに決着がつかずにいた。
悲鳴にも似た叫びは、時には耳を塞ぎたくなるほどの音を奏で、俺の心を不安にさせる。
「せっかく密室生徒会室で女の子といちゃこらできてたんやから、その権利を奪われたないいいいいい! 日和子愛してる――――! ランスセールさんも結構好き――――!」
「会長なんてなりたくないなりたくない、なるなら楽そうな書記いいいいいいい!」
色々と本音や願望をゲロっちゃっているんですが、放送大丈夫でしょうか。生徒たちには応援で聞こえていないみたいだけど。てか今までの大統領の意味深な姫さまへの視線、そういうことですか!? ポスター貰っていったり握手会来てたのもそういうことですか!?
『おおお! 三人共徐々にストッキングが破れてきました! これはもう時間の問題でしょう!』
「ここが……勝負どころ、じゃ!」
『なんとランスセール選手、走り出したああああっ』
赤月さんと大統領は転びそうになるのを堪えたが、徐々に後退し始める。
『全員顔が大変なことになってますが、安心してください! 中身は美少女です!』
「オバマよ貴様、女ハーレムを作りたいのか?」
「……な、なぜそれを」
今さっき思いっきり言ってました。
「今一度申すが、妾に仕えよ。貴様の願い、きっと叶うぞ」
「な……!」
「言ったであろう。妾の野望はチキューの皆と友になることじゃと。そのあかつきには貴様に数億の女を紹介してやろう」
「ごほっ」
喀血する大統領。ストッキング内が血まみれになりもはや誰だかわからない。
「そ、そんな誘いにわたくしが乗るとでも?」
「なら、貴様の言うことをひとつ聞いてやろう。なんでもよいぞ」
「く……では貴方と一緒にお風呂とか、ありですの?」
「週一でありじゃ」
「ホンマにっ?」
弾む声で大統領は喜ぶ。だが血まみれで怖い。
「それが本当だと……信じてますわ」
大統領は呟くと、両手でストッキングを掴んだ。そして、
『破ったああああ! 小浜選手、自らストッキングを破り捨てたああああ!』
「わたくし、一生貴方に付いていきますわ! 世界征服、やりましょう!」
ええええええええ!?
『これで小浜選手一ポイント獲得で計二ポイント! 負けが確定してしまったああ!』
「ちょいちょいちょーい、大統領!? あなた一体なにを!?」
「すみませんが赤月さん。わたくし、女ハーレム、作ります!」
「はい――――――――っ!?」
今の流れで「じゃあわたしも負ける!」としたかったのか、赤月さんは自分のストッキングに手をかけたが、今まで分散されていた観客とカメラの視線が一気に自分に集められて諦めたようだ。
「レッドよ、諦めるなら今のうちじゃ。無様に負ける姿を晒したくなければ、いっそ棄権してしまうがよい」
「はあ!?」
「見栄を張るでない。妾と肩を並べたい気持ちはわかるがの、貴様には今のガッキュウイインチョーとやらがよう似合っておるぞ。貴様には三〇人程度をまとめるのが精一杯じゃろう。無理して争う必要などない」
「カッチーン」
その擬音言葉に出す人初めて見た。
「なんでわたしがあんたの下にいることになってんのよ! あんたこそわたしの人気に嫉妬してんじゃないの、絶対そうよ!」
「なんじゃと!? 妾のほうが顔も良いスタイルも良い。貴様に劣っている箇所などないぞ! もう少し乳を育ててからものを言えレッドめ!」
「くぅ……もう、いっつもわたしの邪魔して、このダメ姫!」
「ダメ姫じゃと? なら貴様はダメレッドじゃ」
「なんのひねりもない返しね、つまんなーい」
「うぎゃ~」
子どものケンカかよ。
今や互いに体力は尽きかけ、もはや気力で立っている状態だ。二人は最後の力を振り絞り、一歩ずつ前進する。
ストッキングがこれほどまでに頑丈だったことに驚きを隠せない俺だが、頑丈ゆえに長時間晒されることになったブサイク顔はご愁傷様としか言いようがない。
BGMを流すならスクライドのラストバトルに使われたガチ喧嘩の時のを頼む。
「あんたの、負けよ」
「妾の、勝ちじゃ!」
そしてその数秒後、片方のストッキングが破裂するように弾け飛んだ。
『あ……』
二人同時に倒れたため、少し離れている生徒たちからは見えなかった。
体育館が静寂に包まれる。
勝った方はゆっくりと立ち上がり、未だ顔にまとわりついているストッキングを放り投げた。
『勝者…………ランスセール選手ッ!』
おおおおっ! という歓声が体育館全体を包み込んだ。
『ポイント数を発表します。ランスセールさんチーム三ポイント。小浜さんチーム二ポイント。赤月さんチーム二ポイント。よって新生徒会長は………………クリア・ランスセールさんです!』
「姫様ああああ! やりました! やりましたよ一号様!」
「は、はいっ」
二号さんが俺にダイビングしながら抱きついてきた。
「田舎高校の銀髪生徒会長。悪くない」
「ここまでして生徒会長になるんだ、きっと学校をいい方向へ導いてくれるはずだ!」
姫さまに投票しなかった生徒たちも含んで、この対決を楽しんだ人たち全員が興奮し、姫さまの姿に感激している。
『クリア・ランスセールさん。いえ、生徒会長。こちらで勝者インタビューを』
「ああ」
疲労困憊した姿でも、表情は清々しい。
これで、夢の一歩に繋がりますね、姫さま。
ボサボサになった銀髪をかき上げ、姫さまは実況者からマイクを向けられた。
一度咳払いし、姫さまは口を開いた。
「どうじゃ見たか! 妾こそこの学校を統治するに相応しき人間。当然の結果なのじゃ! はっはっはー」
『なぜストッキング相撲だったんでしょう』
「TVショーで見ただけじゃ。これほどに興味深い競技は見たことがない。将来我が国の国技にしようと思っておる」
『すると今日初めてストッキング相撲をされたわけですね。素晴らしい戦いぶりでした』
「ふん、伊達に毎朝ストッキングを人々に被せていたわけではな……………………………………………………………………あ」
『え……』
今、なにを言いやがりましたか、この人。
ざわつく体育館。
「今、ストッキング被せてたとか言った?」
「それって迷宮入りした、例のストッキング事件のことか?」
「あの凶悪事件……嘘でしょ」
俺の口からは、きっと血が出ていただろう。
「わ、妾が新セイトカイチョー。クリア・バーゲンセールじゃ……じゃ……」
自分の名を間違えるなんて相当焦っているんだろう。姫さまは今まで見せたことがない真っ青な顔で硬直している。
二号さんを見ると、必死に観客の中のおっさんに「2」の数字を指で作って見せている。
首を振るおっさん。
今度は「5」とするが、おっさんは「もう諦めろ」的な表情をして首を振っていた。
なんの数字かは大方予想がつくが、もう、この人数に今の発言を聞かれたら手遅れだ。刑事としての立場は、流石に放棄できないだろう。
赤月さんもため息をついている。
「こんなこともあろうかと、まだ妾には秘策が」
すぅ……っと姿を消した姫さま。おお、この手が残っていたか。
しかし一〇秒後、体育館のど真ん中で姿を現した。
「あ」
一時間分姿を消すと一ヶ月使えなくなるというこの魔法。少し残しておいたはずの力が、これしか残っていなかったらしい。
「悪く思うなよ嬢ちゃん。なるべく早く帰してやる」
「ひ、姫さま……」
「一号、二号。妾、ケーサツに……征く」
夢や希望、努力。そのすべてが、たった一言で見事に崩れ去った。
自滅である。
「姫様ああああああっ」
二号さんの悲痛な叫びも虚しく、事件の重要参考人として、姫さまはおっさんに連れて行かれてしまった。
俺は口を開けて、ただそれを見ていた。
良い子は知らない人にストッキングを被せちゃダメだぞ。
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