第31話 最終決戦

 俺たちは先生に誘導されて体育館へ向かうことになった。

 全校生徒は整列して座り、会長候補はステージへ集まった。


「校長先生、わたくしたちはどうなるんですの? 最終決戦とは一体」


「どうしても今決めるんですか?」


「テレビ局の方がわざわざ東京から結果を撮りにいらしたので、あなたたちには申し訳ないですが、今日この場で決めたいと思います」


 テレビなんて呼ぶからこうなる。


「方法はどうするんですの? 一般の選挙では同票の場合、くじになるなんてことを聞いたことがありますけれど」


「みなさんはそれで納得がいくかしら?」


 確率は三分の一。真面目に会長を狙っている姫さまと大統領にしてみれば、くじなんかで決められたらたまったもんじゃないだろう。赤月さんも別の意味で困るはず。


「貴方はどう? クリア・ランスセールさん」


「くじなど邪道。なにかの勝負にするぞ」


 大統領の問いに、姫さまはなにかの対決で解決しようと提案する。


「なら、ここまでわたくしたちを追い詰めた貴方に勝負内容を決めていただきましょう。赤月さんもそれでいいかしら?」


「はい、それでいいです」


 校長先生も頷く。


「なんでもよいか?」


「ええ、なんでもよろしくってよ」


「うむ。なら、そうじゃな……」


 腕組みして考え込む姫さま。姫さまになにか得意分野などあるんだろうか。腕力がすごいのは知ってるけど。


 十秒考え、姫さまは口を開いた。その対決方法とは――。



「ストッキング相撲じゃ!!」



「「な」」


 なんだってー!!


「すすす、ストッキング相撲って、あれよね」


「おお、お顔に、ストッキングを被って引っ張り合うという……」


 理解が早い二人を見て姫さまはにっこりすると、


「おお、さすがこのチキュー伝統の競技じゃ!」


 伝統じゃねーし。やったことのある地球人ひと握りだし。

 思い出したけど、確か例のストッキング事件の発端は、姫さまがテレビでストッキング相撲を見たからなんだよな。


「みなさん、それでよろしいですか?」


「え、いや……わたくしは……」


「これテレビ……映……ってお父さんまた来てるしどうなってんのよおおお!」


 バッチリカメラ向いてますよ二人共! てかおっさんまた職場放棄か。


「では始めよう、よいな二人共」


「ええ、ちょ……あんたこれ全国放送よ? 考え直す気ない? ドアップで映るのよ!?」


「伝統競技を断る理由がわからんのじゃが。それになんでもよいと言ったはずじゃ」


「ぐ……それは」


 全国放送でストッキングを顔に被せられる女子高生の画は、番組にとってかなりおいしんだろう。スタッフたちが全力で首を縦に振っている。


「仕方ありませんわ赤月さん。やりましょう」


「大統領!?」


「これも生徒会長として、生徒を楽しませるひとつの手。今までわたくしができなかったこと、今実現させずにいつさせるのかしら。今でしょう!」


「いやわたしは別に……」


 なにを血迷ったか大統領はやる気満々だ。燃え出した彼女は誰も止めることはできない。


 赤月さんは観念したのか、ため息をつくとしぶしぶ頷いた。

 姫さまはステージのマイクを掴むと、


「この中でストッキングを履いている者よ。勝負に使う、脱げ」


 な、なんだと?


「色はなるべく薄いもの。一〇デニールのものを所望する! 六名分じゃ!」


 二回戦するのかな?


「一号、早く準備しろ」


「へ」


「二人ひと組じゃ。急げ」


「ど、どういう」


「数が多い方が面白いじゃろ。六人によるポイント制にしよう」


 いやいやいや俺にストッキング被せて全国の皆様が喜ぶわけないでしょうが。

 しかし校長はそれを承諾し、


「それでは先日の演説会のペアでいきましょう。推薦者はステージに上がってください」


「行きますわよ、日和子」


「え……」


 さすがの日名子さんも動揺している。まさかこんなにもあっさりと道連れにされるとは思わなかったんだろう。

 赤月さんも嫌がる推薦者、縁園さんを無理矢理ステージに引っ張り上げている。


「ルールはこうじゃ。六人で一斉に引っ張り合い、装着したストッキングが脱げるか破れるかで退場とする。まず推薦者のうち最後まで残った者一人に一ポイントを、そしてカイチョー候補のうち最後まで残った者を一位とし三ポイント、二位二ポイント、三位一ポイントとする。チーム二人のポイントを足し、より多いチームが勝ちとなる。同点になる場合もあるが、その時は一騎打ちで決めよう」


「一位になったからといって会長になれるわけじゃないってことね。わかったわ(ならすぐに負けないと……!)」


「二人がいかに恥を捨てるか。それが勝負のかぎですわね。頼みますわ日和子」


「は、はい」


 くっ。恥ずかしいから早々に脱落してしまおうと思ったのに、これじゃそうもいかないじゃないか。なんてことを考えてくれるんだ姫さま!


「姫様! ストッキング五名分集まりました。あとは私のをお使いください」


「うむ、よくやった」


 ストッキング回収に行っていたらしい二号さんは姫さまにストッキングを渡すと、自らのストッキングを脱ぎだした。てか履いてたんだ。


「一号はこれを被れ」


「ぬあっ」


 姫さまは二号さんからストッキングを受け取ると、すぐにそれを俺の顔に被せてきた。

 おおお……っと男子生徒の羨む声が聞こえてくる。羨ましかろう、脱ぎたてホヤホヤは暖かいぞ。それにほのかに二号さんの香りも……。別にストッキング属性があるわけじゃないけど、なんかハマってしまいそうで怖い。


 すると初めに装着した俺の目の前にカメラが迫る。


「ええ……あんなに近くによるの?」


「それもライト当たりまくりですわ」


 そしてついに赤月さんと大統領、その推薦者たちにストッキングが。最後に姫さまの顔に装着される。俺は最初に被ったせいで他の人たちの姿が見えない。こうなったらオンエアを録画してやる。


 最後に並び方をランダムで決め、俺の右に赤月さん、姫さま、大統領、縁園さん、日名子さんの並びで円を作った。それからストッキングの脚部分を結び合わせると、校長は体育館内を静めさせた。


「これより、相泉高校生徒会長選出、ストッキング相撲を開始します! 審判はわたしが務めさせていただきます」


 俺は深呼吸する。もうこのわけわからん勝負で生徒会長を決めることに疑問を抱いていないアホな人たちにツッこむことはやめておこう。



 さあ始めよう。俺たちの戦いを。

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