第30話 投票結果

 演説会終了後、会長候補三人はテレビの取材を受け、復帰したのは放課後だった。

 俺はその間トイレの個室にこもり続けた。


「もうだめだもうだめだ」


 完全に恥を晒した俺は、教室から生徒がいなくなった頃を見計らい、姫さまたちと合流した。

 あれがテレビに使われないように二号さんに交渉に行かせるべきだったのに、それすら忘れる始末。放送されたら本当に生きていく自信がなくなる。


「姫様! 見事な演説、私感動いたしました! これで勝利間違いありません!」


「そうであろう、そうであろう」


「他の二名など姫様の足元にも及ばない幼稚な演説。住む世界がそもそも違うのです!」


 負けるなんてことがあれば全部俺のせいって言い張れるほどのすごい演説だったのは間違いない。生徒たちの心はかなり動いたはずだ。


 でも投票日までの残された時間で、全校生徒から俺の演説の記憶も魔法(金)で解決してくれませんかね二号さん。


「一号」


「は、はひっ」


 不意に呼ばれ、身体が強ばる。


「ご苦労だった。今宵は貴様の好物を食べようではないか」


「え……」


「ステージに立つこと、なにも聞いておらんかったのじゃろう? この二号から聞いた。あとで説教しておくからの」


 あー、半べそかいてるのそのせいか。


「大舞台に立つこと、妾は初めてではない。今日立った者たちも、なにかしら経験がある。そんな中で貴様は勇気を出し語ったのだ。恥じることはない」


「ひ、姫さま……」


「なあに、ちょっと貴様の面白い顔が学校の皆に広まっただけのこと。これからずっと妾の横におるならば、自然とそうなったじゃろ」


 さらっとひどいことを言う。

 まあ、こんなことがなければ俺もこの学校で埋もれたままだったはずだ。姫さまに感謝しなければ。


 不良として振る舞っていたことがまったくの無駄だった件についてはあとで泣くとして、今は頑張ってポジティブに考えよう。


 投票日まで残り少ない。これだけのことをやったんだ。せめて後悔のないように過ごしたいものだ。


「では、帰るぞ二人共」


「「はい」」


 ――そしてついに投票日を迎える。


     ■□■


 投票は一限の前に、体育館で行なわれる。

 一応不正のないように、入口でクラスと名前を告げて用紙を貰うことになっている。

 投票当日は候補者の活動は禁止。俺たちは教室で待機だ。


「ついにやってまいりました姫様! 昨日は握手会も行いましたし、人気が戻っていることも確証いたしました! いけます!」


「ああ、間違いないの! はっはっはー」


 生徒でもない二号さんを交えて、急遽行なった握手会をした時の話で盛り上がっている。

 転校当初の盛況さとまではいかなかったけれど、姫さまの手に触れられるということを聞きつけた生徒が一〇〇人ほど集まった。そして何故か大統領も参加していた!


 男子票は多く得られそうだけど、昨日来た人が全員姫さまに入れるとは限らないし、女子は誰に入れるのかが俺にはさっぱりわからない。


 高校なんかであるかは知らないが、組織票というものが存在するのはわかっている。それに大統領や赤月さんは、みんなに慕われるリーダー的存在だし、仲のいい生徒は多い。特に大統領は任期の途中で降ろされそうになっている可哀想な人だ。三年生の多くが大統領に入れるだろう。


 ため息をついてはいけないとは思いながらも、息をゆっくりと吐き出してしまう。

 でもこの一〇日間、仲間がいない状況でよくここまでやってきたものだ。


「それでは出席をとりまーす」


 いつの間にか投票を終えた生徒たちが戻り、授業開始の時間になっていた。


「それでは姫様、また放課後に参ります」


 二号さんはそう言って教室をあとにした。

 結果は放課後、放送で行なわれる。たぶんそれまで授業に集中できないだろう。




 今日最後の授業が終わるとすぐに担任がやってきて、そのまま席で待機するように促された。


「もう少しで放送されますので、ちょっと待ってくださいね。それとカメラが来てますのであまり騒がないようにー」


 先日と同じテレビ局の人たちが教室にやってきている。一台のカメラは姫さま、もう一台は赤月さんのすぐ横に配置している。結果を知った時の表情を撮るつもりなんだろう。


 赤月さんは少し緊張しているのか、隣の席の女子から名前を呼ばれているのに気づいていない。そういえば赤月さんとはあれから話してないな。

 俺も緊張しながら数分待つと、ついに放送が始まった。


『これより生徒会長選挙の結果を発表します』


 ざわついていた教室内が一気に静まる。そして続く言葉を待つ。


『生徒総数二九六名。まず、欠席者等の無効票は二票となります。よって本日は二九四名からの投票が行われました』


 いきなり一人目で大きな数が出れば、それで確定してしまう。大統領と赤月さんは一〇〇票以内になっていてもらわなければならない。


 中間のアンケートでは、大統領が一五六票という圧倒的な数字を叩き出した。

 さて、どうなる?


『小浜茉莉奈さん。九八票』


 おお、っというみんなの驚きの声。

 かなり下がったな。大統領が一〇〇票以内となると、次で大方の予測ができる。

 前回少し離されて二位になった赤月さんはどうか。


『赤月緋音さん。九八票』


「同票!? マジ?」


「ラ、ランスセールさんは!?」


『クリア・ランスセールさん…………九八票』


 な……。


「「「えええええええ――――!?」」」


 さ、三人同じ投票数だって? まさかそんなことが。


「え、え? どうなるんですか先生?」


「これすごくない?」


 各々が驚きの声を上げる中、赤月さんはポカーンとし、姫さまは不満そうな表情をしている。


「どういうことじゃ、圧倒的妾の勝利と思っていたのじゃぞ」


「い、いやでも、すごいですよ姫さま。あの二人にここまで……」


 姫さまは中間支持率発表を見ていないため、どれだけ自分が二人を追い詰めたのかわかっていない。


「姫様!」


 教室に勢いよく二号さんが入ってくると、姫さまの横で片膝をついて頭を下げた。


「わ、私が正式に生徒であったならもう一票入っておりました! この結果はすべて私のせい……ここはやはり首を斬って詫びを!」


「い、いやいや、だからまだ、決まってないから」


 剣を抜くのを止めようとしたその時、続く放送が流れる。


『会長候補三人が同票となったため、これより体育館で最終決戦を行なっていただきます』


 最終決戦……だと? それも今から?


「面白い! 今はっきりさせようではないかレッド!」


「うう……」


 赤月さん、自分がまだ生徒会長になる可能性があるからか、あからさまに嫌な表情を見せている。もう諦めろよ……。

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