第27話 す、推薦者演説??
生徒会長選演説会は、五限に行なわれる予定になっている。
その前の昼休み。生徒会長候補の三名と関係者は体育館ステージ裏に集められ、先生に流れの説明を受けている。
会長候補の演説時間はそれぞれ三分。生徒からの質疑応答が五分となっているらしい。
「三分か」
意味深に呟く姫さま。
そして気になる演説の順番だが。
「わたくしはいつでも。別に最初でも構いませんわ」
「わたしは真ん中くらいがいいわね」
「妾はトリがよい」
特にくじ引きなどで決めることなく、あっさりと順番が決定する。
「候補者の演説のあとですが――」
「一号様! 一号様!」
先生が続きを話そうとしたところで、横から二号さんが俺を呼ぶ。
ほとんど聞いたし、あとは聞かなくても大丈夫だろう。
「す、すみません。ちょっと抜けます」
「こちらです一号様」
ステージ前に呼ばれた俺は、愕然とした。
「…………なななな」
「私が校長に頼み、来ていただきました」
「これも我が校を全国に知ってもらうよい機会です」
二号さんと校長は、満足そうにこの光景を見ているが、俺にはその余裕がどこから来ているのか理解できなかった。
大きなビデオカメラを抱えた男、音声マイクを握る男が数名ずつ。そしてそれに関係するであろう男女が大勢いる。
「ててて、テレ、ビ」
よく見ると東京のテレビ局じゃないか!
「姫様のことを多くの人に知ってもらうことは、我々の目的でもありますから!」
「いやそれは、そう、ですけど」
時期はずれに行なう生徒会長のみの再選出選挙は、面白いニュースなんだろう。
それも美少女ぞろいだ。ミスコンみたいな感じに思われているのかも。
姫さまがカメラごときで緊張するとは思えないけど、なんか心配だな。
そんなわけで数十分が経ち、生徒たちが自分の椅子を抱えてぞろぞろと体育館に移動してくる。
「わ、わたくしの演説が、テレビで流れる……あかん」
「ちょ、なにあれ! カメラ!? なんでよ聞いてないわよ! てかなんでお父さんがいるのよおおおおおおお!」
赤月さんと大統領が舞台袖から覗き込んでなにやら言っている。さすがに動揺するか。
てかおっさん、今日は授業参観じゃないぞ! 仕事はどうした!
おっさんは教員たちに退場させられそうになっているが、警察手帳を振りかざして反抗している。職権濫用すぎるだろ。
姫さまは……まあ特に動じていないみたいだけど、口元が細かく動き、ぶつぶつ言っている。なにをしてるんだろう。
生徒たちの整列が終わると、司会の女子生徒がステージ脇に立ち、まず演説会の流れを生徒たちに説明する。そしてその説明通り進行していく。
ちなみに俺たちはステージの下手に用意された席に座った。二列になっていて、前列は会長候補、その後ろが俺のような役割の人で、日名子さんと、赤月さんの手伝いをしていた縁園さんという人が座っている。
『それでは。現生徒会長、小浜茉莉奈さん。よろしくお願いします!』
「はい!」
髪を手でファサッとさせて、見栄えよく中央の演壇へ歩く大統領。カメラもそれを追う。
生徒たちが静まるのと同時に、大統領は口を開く。
「みなさま、おはようございます。現生徒会長、小浜茉莉奈です」
何台ものカメラに注目されながらのトップバッターだったけれど、先程までの緊張はさほどなさそうだった。
「このたびひゃっ――」
気のせいだった。
このあとも、少し噛みながらだけど、生徒たちに伝えたいことを熱弁した。
「――学校行事に関しては、今までの内容と大幅に違う路線でやっていきたいと思っております。簡潔に申し上げますと、学園祭での展示及び発表会の廃止ですわ。人数は少ないですが、この地域であることをを活かした学園祭、その他のイベントを増やしていきたいのです。例えば商店街を利用させていただいてなにかするのも面白そうですわね。高校生活は三年間しかありません。留年するのなら別ですけど、おほほほほ」
校長に言われた通り、堅苦しい今までの真似事ではなくて、自分のやりたいことを訴えている。
「――以上ですわ。ご静聴ありがとうございました」
『小浜さん、ありがとうございました』
さすが大統領。緊張は最初だけだったようだ。でも正直個人的には本物の大統領ネタブッ込んで欲しかった。
『続いては――推薦者、日名子日和子さんよろしくお願いします』
「はい」
ん?
大統領は数歩後ろに下がり、代わりに日名子さんが登場した。
「小浜茉莉奈さんを推薦いたしました、三年二組日名子日和子です。わたしは現在生徒会で書記をさせていただいております。小浜さんは――」
なにを、やっているんだい君?
『ありがとうございました! 続いては質疑応答です。質問のある方は挙手してください』
日名子さんはなにやら二分くらい演壇で話すと、大統領と場所を入れ替えた。
そして生徒たちによる五分間の質疑応答が行われ、無事終了した。
「少ーし、緊張しましたわ。日和子もありがとう」
「いえ」
席に帰ると、大統領は扇子で顔を仰いでいた。
『続いて赤月緋音さん、よろしくお願いします』
大きな返事をして、演壇へ向かう赤月さん。いやいややっているそうだけど、そうは見えない堂々とした態度で演説を始めた。
しかし。
俺にはその演説が、一言も耳に入ることはなかった。
『続いては――〝推薦者〟縁園緑さん――』
これである。
俺 は 聞 い て い な い 。
(に、二号……さん?)
もしかしてと思い、舞台袖にいる二号さんにアイコンタクトを試みる。
(あれれ、す、推薦者の演説もあるのでsこ@kじ………………申し訳ございませんでしたああッ。 またもやお伝えするのを忘れておりましたあああ!)
じゃねえよ二号!
(おお、おれ、もしかして俺、が喋、るの)
(はい、残念ながら)
(無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理、絶対無理! 二号さん出て!)
全力で首を振る。振ってやった!
(そう言われましても、私は制服を着ているだけの部外者ですから。貴方しかおりません!)
そうだったああああ! ああああああああっ。
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