第19話 ダメ、絶対王政
ストレスで眠れぬ夜を連日過ごし、俺の体力は底を尽きかけていた。
そろそろ薬でも処方してもらったほうがいいのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は姫さまと共に校門をくぐり抜けた。
「どういうことよ!? なんでわたしまで巻き込まれちゃってるの!?」
教室に入ると、待ってましたと言わんばかりに、赤月さんが俺たちに突撃してきた。
美少女がすぐ近くまで寄ってくれるのは、疲れた俺にとって最高の薬だ。
「妾がこの学校を征服する日は近い」
「永遠に来なくていいわよそんなのっ」
校内の掲示板には、誰が作ったのか、一〇日後に行われる生徒会長再選出についてのポスターが何枚も貼られていた。生徒たちも今朝はその話題でもちきりだ。
赤月さんも突然の次期生徒会長候補として選出されて、いい迷惑だろう。
姫さまは席に着くと、脚を組み、戸惑う赤月さんを見て鼻で笑った。
「それでどうするの? 一号くん」
「え……なんで、俺?」
「君がどうするかで結果が変わってくるはずだから」
「そそ、そんなことない、でしょ」
「この無知女が一人でどうこうできるとも思わない。協力者がいなければ勝つことはないわ」
そりゃそうかもしれないけど。
でも俺が非協力的になれば、姫さまの逆鱗に触れる。なにをされるかわかったもんじゃない。ダメ、絶対王政。
「わたしは半ば強制的に参加することになっちゃったけど、今回は大統領の任期継続を応援するから」
「ふん、勝手にするがよい。妾が勝つがの」
「この学校のことをろくに知らないあんたが勝てるわけないでしょう?」
「まあ見ているがよい。はっはっはー」
火花を散らす二人。
大統領は今日から動くはず。彼女のプライドが高そうな性格からして、不正は絶対に行わないだろうが、確実に勝てる方法をとってくるはずだ。そしていくら姫さまだろうと敵を甘く見ることもしないだろう。さあ俺はどうするべきか。
俺たちがとりあえず行えることといえば、姫さまの認知度を上げることだ。
ただでさえ転校生が珍しいこの学校に銀髪美少女が来たのだから、正直昨日の時点で姫さまの存在を知らない者は、休んだ生徒だけだろう。
それでも徹底的に全校生徒たちに顔を売るのだ。
だがこちらから出向く前に、生徒たちは休み時間ごとに姫さまの姿を見ようと教室までやってきた。そこらの売れてるアイドルよりも遥かに顔がいいのは確かだし、まあわかる。握手会でもやれば男は全員こっちに流れてくるんじゃないか、もしかして。
昼休みには、
「生徒会長になるってマジ?」
「応援します!」
「結婚してください!」
生徒たちからの質問や応援(一部求婚)の嵐。姫さまは最初はふんぞり返りながらテンション高く答えていたのだが、疲れてきたのか、だんだんとイライラとした表情が見え始めて来た。
この辺が引き際か。
しかし未だ絶えない姫さまを取り囲む集団は、姫さまイジリをやめようとしない。俺の力ではその間を引き離すことなんて不可能なわけで。
姫さまがキレる前になんとかせねば。
教室内をキョロキョロ見回すと、こちらの方を赤月さんがしかめっ面で見ていた。
そして目が合う。
俺は目をそらす。
もう一度見ると、赤月さんは立ち上がり教室の外へ行ってしまった。
これはまずい。なんだか赤月さんの俺に対する評価が下がっている気がする。
俺は姫さまにバレないようにゆっくりと席を立ち、赤月さんのあとを追った。
姿勢の良い凛とした後ろ姿は、俺が廊下に出たあともまだ見えていた。
声を掛けたいけど、できない。いくらあっちが俺に話しかけることがあっても、自分から話しかけることは大きな勇気がいる。
俺はあくまで姫さまの下僕であり、おまけみたいなもの。大統領と同じく、俺に話しかてくれるのはすべて姫さまがいてのことだ。思い返してみても、俺個人の関心が払われたことなんてない気がする。
やはり俺って、ここでもそんな存在なんだろうか。
「……」
階段を上り、俺は立ち止まる。赤月さんは三階の一年生の教室を目指していたようだ。
廊下には、大統領と現生徒会のメンバーが勢ぞろいしていた。初めて見る顔もある。
「わたくしは、みなさん全員がより良き学校生活を送れるよう――」
一年生への演説みたいなものだろうか。言っては悪いが、まさにテンプレートのような言葉が並べられているだけだった。校長の言っていたことがわかる気がする。
それでも大統領の支持者は多いようだ。たくさんの応援の言葉を投げかけられていた。
「ありがとう、ありがとう」
握手までしている。アイドルかよ。
演説が終わり、見ていた生徒たちが離れていく。
「おほほほほほほほほほほほ。わたくしに負けなどありえませんわ~」
という奇妙な大統領の笑い声が不気味だったが、なにか変なことを企んでいるという感じではなくて安心した。あくまで正々堂々、そういう人なんだと思う。
赤月さんはというと、俺の少し前のほうで演説を見ていたようだった。
そのまま大統領の元へ向かうんだろうと安心していたのもつかの間、赤月さんはくるりと身体を方向転換した。
「あ……」
「一号くん?」
「そ、そそ、その」
「あの女は? 一人?」
俺は頷く。
「そっか、そういえば、二人きりで話すのもあの時以来かもしれないわね」
「そう、だね」
確かにそうだ。あの屋上での出来事があった日以来、俺の隣には姫さまがいたんだ。
「少し、付き合ってくれない?」
「え?」
「わたしの愚痴に付き合ってちょうだいって言ってるの」
「……わ、わかった」
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