第18話 校長権限強すぎね?

「許可しましょう」


「いま、なんと」


「許可すると言ったのよ、小浜さん」


「んなアホな……ッ」


「大統領、言葉が乱れてます」


 日名子さんの指摘が入り、咳払いする大統領。


「そんなこと、前代未聞ですわ。わたくし、なにかしまして?」


「いいえなにも」


「ではなぜ?」


 カーテンの隙間から差し込む夕日が校長室内を包み込み、野球部が走る声が部屋を賑やかす。


「生徒たちのあなたへの信頼は、今日転校してきた生徒よりも劣ることはないでしょう。しかし、あなたの仕事は前生徒会長の真似事なのです。面白みが足りません」


「面白み? 生徒会の仕事に面白みが必要でしょうか」


 大統領の拳がきゅっと握られるのを、俺は見逃さなかった。

 確かに俺は生徒会の仕事というものに疎いが、去年やった体育祭とかすんごいつまらなかったし(ぼっちだったからかもしれん)、学園祭みたいなのも展示とか発表会ばかりでつまんなかったし(ぼっちだったからかもしれん)。ここはワイワイできるイベントがほとんどない学校なのだ(俺的にはラッキー)。


「小浜さん。決してあなたの仕事がダメだと言っているわけじゃないんですよ? ただ、もう少し生徒たちに華やかな学校生活を送らせてあげてはいかがかしら。こんな小さな町ですしね。なにか案を出すのも生徒会長の仕事の一つですよ?」


 可哀想な大統領。この姫が変なこと言わなければ生徒会の安泰は保てたのだろうが。


「流石話がわかるの、コウチョ―」


 大統領の隣で聞いていた姫さまが満足そうに微笑む。


「ランスセールさん。あなたに一度チャンスを与えましょう」


「チャンス?」


「一〇日後、あなたと小浜さん、生徒たちにどちらを支持をするか決めてもらうのです」


 なな、なんだそれは。


「赤月さんも参加させてみましょうか。そうね、次の選挙を早めるという体でいきましょう」


「……そんな」


「もし大統……小浜さんが負けたらどうなるんですか」


 日名子さんが震える声で問う。


「新生徒会長の補佐的な立場になってもらうでしょう」


 その校長からの案を聞き、姫さま以外の生徒は目を丸くした。もちろん俺もだ。

 そしてしばしの沈黙が流れる。

 野球部たちの声も静まり、俺は時間が止まったような感覚に陥った。


「一〇日……わたくしたちは、具体的にその期間でなにをすればよろしいのでしょうか」


「もう一度、あなたの理想の学校像を生徒たちに伝えるのです。半年前、あなたが掲げたマニュフェスト、見直してもらっても構いません」


「マニュフェスト……」


 よく覚えてはいない。会長候補は二人いた気がするけど、どちらの演説もテンプレートというか、堅苦しい感じしかしなかったはずだ。俺は投票なんてしなかったけど、正直生徒会長なんて、みんな顔で選んでると思う。男子と女子の二人だったら女子、女子二人だったら可愛い方みたいな。


「要は人気取りか、任せるがよい」


 少し違うが、でも人気が結果を左右させるのは、生徒会長選出ではあながち間違ってはいないのかもしれない。キム○クがドラマで総理大臣になれたのも絶対そのおかげだ。


「この学校をどうしたいのか、どんなことをしたいのか。よく考える良い場になると思います」


「……はい。わかりましたわ。まあ、わたくしが負けるはずありませんのでそれで結構です」


 前代未聞。まさにその通りだ。

 一〇日後、大統領は会長職から下ろされ、代わりに姫さまが会長になるという可能性が出てきたのだ。


 そんな権限校長が持っているのかは知らないが、マジでやめてほしい。


「それだけあれば問題ないの。一号、貴様の活躍、期待しておるからの」


「は、はい……」


 全校生徒が少ないこの学校で、現在かなりの支持を得ている大統領に勝つのは果たして可能なのだろうか。いくらビジュアルで優っていても、中身がこれだ。全部俺任せにしようとする。


「では、楽しみにしています二人とも。赤月さんにはわたしから伝えておきましょう」


「わかりましたわ」


「ああ」


 強ばった表情の大統領と、口角が上がっている姫さま。

 二人に続き日名子さんと退室しようとした俺は、出口であるものに気付いた。

 ドアの上部、そこに横並びで掛けられた歴代校長先生の顔写真の額。

 黒くなんの変哲もない額縁だ。

 しかしその一番右。


 現校長先生の額縁だけが、黄金に輝いていた。


 俺は思わず立ち止まり、昨日ここに入った時のことを思い返す。

 こんな異質なもの、あっただろうか。いや、ない。俺のキョロキョロ癖をもってして、気付かないはずがない。


「あら、気付きましたか」


「――ッ」


 いつの間にか背後に立っている校長。顔は不気味なほどニヤけている。

「いいものでしょう。純金なんですよ」


「ははは、はひ」


 机脇の銅像に引き続き、金の額縁。どこでそんなもの売ってんの?


「おお、おか、お金持ちなんですね」


「そんなことはないんですよ? ただ、臨時収入がありましてね、ふふ」


 臨時収入? どこかで聞いたワードだ。


 色々聞きたいことはあるが、俺は未だにニヤけている校長が怖くなり、すぐに退室した。


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