第13話 予想外の再会
そんなわけで、引き続き商店街を徘徊する俺と姫さま。
さっきは探していたはずの大統領に会えたはずなのに、結局姫さまは最後まで姿を現すことはなかった。
「ク……。妾の情報を手に入れようとしているとは、なんということじゃ。国家の代表となると、やはりあなどれん」
「そ、それで出てこられなかったんですね」
「うむ。あの日、不用意に顔を出したのがまずかったな。これではあまりおおっぴらに動けんぞ。妾があやつを狙っているということが周囲に認知されれば、ますます動き辛くなるな。いつ兵が妾を暗殺しにくるかもわからん。しかしこのままずっと姿を隠しているのも妾のプライドが。ああっ……」
警戒の仕方がもはや賞金首レベルだ。まあこの容姿でこの町をオープンに歩き回れると、小さな町だ、すぐに話題になる。俺的にはこれでいい。
「そ、それにしても、いませんね。下僕候補」
「そうじゃな。そろそろここは切り上げて、あそこへ征くか」
■□■
姫さまに案内され着いた先は、この町の多くの人が住む住宅街だった。といっても都会のように家が隣接しているわけではなく、一件一件の距離は遠い。
「ここじゃ」
「え?」
俺の住むアパート全体より遥かに大きな土地。お洒落なレンガの塀、高級車がとまってそうな立派なシャッター付きガレージもある。そしてなにより驚いたことは、三階建てということ。俺が去年まで住んでいた地元ではそこまで驚くことではないのだが、この辺りではおそらくこの家だけだろう。一体どんな悪いことして買った家なんだ。
「ふんっ。このボタンを押せばよいのか? 一号、あとは頼む」
「ボタン……チャイム……て、えええ! 押しちゃったんですか!」
俺がキョロキョロしている時にそれっぽい電子音聞こえたけどさ、どうすればいいの? 俺になにをしろと? てか誰の家? 人の家のチャイムなんて俺、押したことねえっす。
『はい』
「う……え……」
やばいやばい。家の人出たああ! インターフォンのカメラが俺を見ているううう!
「あ、ああ、あの俺。俺……」
『……て、一号くん?』
「ぅえ? 誰?」
『誰て君……誰の家のチャイム押したのよ?』
この声は……。
少し冷静になり、少し視線を右にずらすと、『AKATSUKI』と書かれた表札があった。
『ちょっと待ってて、今行くから』
すると三〇秒ほどで、玄関からふわりとしたショートボブの少女が姿を現した。
「どうしたの突然?」
「あ、いや……」
俺は少し見とれていた。学校で見る凛々しい姿とはまた違うこの一面に。
部屋着はとてもシンプルで、白い薄手のセーターに黒いホットパンツ。きっと他の男どもは赤月さんのこんな姿見たことないだろう。この優越感はたまらん。
「喜ぶがよいレッド、妾が来てやったぞはっはっはー」
「いや別に呼んでないけど。来るなら来るで連絡……ああそうか、わたし一号くんの連絡先知らなかったわね。あとで教えてもらえる?」
「よよ、よろこんで」
やばい、女子のアドレス連続二件追加とかマジすごいんですけど。
てゆーか俺、一号って呼ばれるの決定事項? 大統領と日名子さんも呼んでたし。
「と、ところで。すごい、大きな家だね」
「んー、いやらしい話だけど、両親が公務員でね。土地も都会に比べて大分安いし、多少お金があったらしくて」
ほへぇ、と思わず声が出た。大きな家だとは聞いていたが、まさかこんなだとは。
「立ち話もなんだし、上がっていく?」
「あ、え。いいの?」
「お母さんは出かけたし、お父さんは仕事でいないから暇してたの」
公務員なのに祝日出勤? そんな疑問はあえて口に出さない。プライベートなことに深く突っ込んで嫌われてもイヤだしな。
それにしても俺氏。クラスメートの家に上がらせてもらうなんて小学校時代以来だ。それも女子の家となると人生初。心臓がバクバクだ。
「なにをやっている一号。征くぞ」
「あ、はい」
この人がいなければもっと最高だったが。
「適当にくつろいでて。今飲み物用意するから。あー、確かジュースのストックが違う部屋に……今持ってくるわね」
「お、お構いなく」
「クリア・ランスセール。すぐ戻るからおとなしくしてなさいよね」
「ふん」
俺の部屋の三倍以上ある広大なリビングに通され、革のソファーに腰掛けた。
人の家に入るのなんて久しいし、なによりこんなに綺麗な家の中を見ることができるのは感動だ。俺のなんちゃっておしゃれ部屋とは格が違う。モダンな家具がおしゃれさを際立たせている。
ジロジロと部屋を見るのは少し気が引けるので、立ち上がって動くことは避けておこう。
それから一分。そういえば姫さまがおとなしい。
振り返ってみると、姫さまは何故か服を脱ぎ始めていた。
「て、ちょッ。姫さまぁっ!?」
「貴様の家の風呂は、いくらなんでも狭すぎるからの。ここの方が何倍もマシじゃ」
「で、でも、さすがに勝手に……それに朝入っ……」
「やめさせたいなら脱ぎかけた服を着せるがよい。ほうら、もう下着じゃぞー。妾の裸を想像して気絶するような貴様にできるのか? んん?」
「うう……」
俺には服を着させる高等技術はない。脱がせるのより何倍も難しいのだ。
んなことはどうでもいい。
これではあとで赤月さんとのバトルがあることは必至。どうする俺。
考えているうちに、姫さまの姿がリビングから消えた。脱ぎ捨てられた服や下着類があちこちに散乱している。赤月さんに見つかる前に片付けておこう。
俺はなるべく見ないように姫さまの衣類をかき集め、浴室前に置こうと廊下へ出るドアへ手をかけた。
すると、俺が掴んだはずのドアノブが、自分が動かす前に動かされたのに気付いた。
やば、赤月さん戻って――。
こんなものを持っているところを見られたら、色々とまずい。
だが、隠す暇なくドアは開け放たれた。
「おーい緋音ー。帰ったぞー」
「ごあっ」
勢いよく開いたドアは、俺の鼻頭を直撃した。
高々と舞う下着。
俺は、鼻血を吹き出しながら後ろへずっこけた。
「……あん?」
俺の正面に立っていたのは、ジュースを取りに行った少女ではなく、おっさんだった。
それも、見覚えがあった。忘れるはずもない、あの人だ。
「お前は……」
一週間前、姫さまが俺の前に現れた次の日に職質をしてきた、あの人だ。
「お、おお、俺は……」
下着が俺の頭に不時着する。
「お前……」
「ひぃぃぃ」
なんであの人がここに。まずい、こんなところまで俺を捕まえにきたのか。
刑事のおっさん!
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