psycho7
放課後、後輩がやってきて調達した食料を差し入れする。
「二人分って結構な量になりますね」
財布の中を見ながらとほほと言った具合で言う。
「悪いな」
「遠慮なくいただくよ」
「ううん、折角ならサイコさんに食べてほしかったな」
「僕で悪かったね。身体は一緒なんだから同じことだろう」
「気持ちの問題です」
後輩が泣き言を言う前に二人はコンビニ袋を漁って各々食べだした。
「味がする」
「味覚が無かったのか?」
「単一の食品以外は。僕の場合は普通のごはんの味しかしなかった。定食みたいな。だから珈琲を飲んでも味はしなかったよ。果物でもなんでも。才子は果物ばかり食べてたな」
「何かにつけ才子だな、お前」
「もう隠し立てする必要もないだろう。惚れてるんだから」
「えっ才子さんのこと好きなんですか? 何かもう関係性がこんがらがり過ぎてよく分からないことになってますね……」
「中で付き合ってるようなものだった奴らもいたみたいだからな。まだ中に残っているはずのスティーブと、『瑠璃子』っていう。『瑠璃子』には僕も襲われたみたいだけど、才子が『瑠璃子』は性的虐待での成り代わり願望の現れだと言っていたみたいだな」
「瑠璃子は瑠璃子で雅を守っていたのか」
「全部の人格が恐らくそうだった。雅の重荷を全員で分担していたんだろう」
「それって今は雅さんが全部の重荷を背負ってるということになりませんか?」
「そうだな。でも生きるってそういうことだろ。俺たちみたいに何でもない奴からしたら」
「雅さんは何でもないわけではないと思いますけど。小さい頃から大変な目に遭ってきたわけで」
「荷物の重さは人それぞれ違って、雅の場合は特別に重いだろうなとは思うよ。でもいつか乗り越えなきゃいけないことだろう」
「それが今だったのかな。あの記録を見せたことは正しかったんだろうか」
「あんまり気に病むな。後戻りはできないし、俺は文也の選択が間違いだったとは思わない。記録人格として為すべきことをやり遂げたんだと思う。歴代の記録人格にはできなかったことを、な」
「そう言われると救われるな」
「何か、お二人、僕が居ない間に仲良くなってません?」
「まぁ、時間もあったしそれなりに色々話したからな」
「夜も一緒なんですよね」
「お前は帰れよ? 怪しまれるから」
「仲間外れにされた気分です」
「そういうつもりもないんだけれども」
萎んだ後輩を二人で宥め賺し、何とか帰宅の途に立たせると、二人きりの夜がやって来た。
「なぁ」
高校生が声を掛ける。
「何?」
「雅は才子に意識の中で会ってたんだよな」
「そういう話だな」
「じゃあ、お前、今その身体でなら才子に会えるんじゃないか?」
「!」
文也には思いもよらぬ提言だった。方法なんかは分からない。しかしやるだけやってみよう。
相手はイマジナリーフレンドだ。覚醒したままで可能だろう。文也は意識を集中させた。才子に会いたい。会って話がしたい。呼べば答えるのだろうか。雅にやり方を聞いておくんだった。
後悔もありながらも、恐らくもうこの身体にも館にも戻っては来られない。ラストチャンスだ。
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