psycho6
「サイコはともかくとして、雅を出すことは出来ないのかね」
「あの様子じゃ無理そうだな。証言はサイコに頼むのが得策だろう」
「雅に会ってみたいんだがな」
「会ったっていいことないさ。一言もしゃべらない」
「人格同士でもか」
「変わらないんだろう、外の人間と」
「悟もしゃべらないというか、無関心だったけれども、それの上を行くのか、お前らの本体は」
「連帯責任みたいに言うな」
「そいつは悪かったな。同じ人間の中の人格と言っても仲良しこよしとはいかないわけか」
「雅が来る前に居たメンバーではそれなりに仲良くしていたみたいなんだけれどな」
「それも雅が記録を読んだだけで全消去の憂き目にあったわけか」
「何の感情も湧かないんだけれどね。覚えていないから。記録上、そういう人格が居たと理解するだけさ」
「記録人格と言っても不完全だって医者も言ってたな」
「そうなのか……。面目ないことだな」
「サイコが戻ったら、今度こそ文也は消えるのかな」
「伝えることが最終任務だろうから、恐らくは」
「世話になったな」
「こちらこそだ」
「お前が居なかったら分からなかったことが多い。サイコが性的虐待に遭っていることも、お前が伝えることがSOSの現れだったんだろう」
「知らずに任されたのかな」
「だろうな。苦しまないわけはない」
「僕は雅に――才子に、何かしてやれただろうか」
「してやれたさ」
「そうだといい。消えゆく中ででも、もう一度会いたかったな、才子に」
「随分ご執心だな」
「たぶん、惚れてたんだ」
「お熱いことで」
「君は? 誘拐という犯罪行為に問われかねない真似をしてまで助けようとしているのはサイコに思い入れがあるからじゃないのか?」
「王子様願望かもな」
高校生は自嘲した。
「昔、こうして秘密基地を持っててさ、クラスの女の子を賭けて男同士で木の棒で殴り合ってた」
「勝てたのか?」
「全然駄目だ。運動神経が良かったわけじゃないし。好奇心だけで育ってきたようなものだ。でも、そうだな、今度は勝ちたい」
「救えるお姫様でも求めてたのか?」
「……かもしれないな」
二人はけらけらと笑った。一頻り笑うと
「こうやって普通に会話も出来るのにな。この身体は僕のじゃなくて、サイコのでもなくて、雅のなんだよな」
「サイコも雅も居なければ文也と話すこともなかったんだよな」
「変な感じだ」
「女の格好したお前と話してるこっちの方が変な感じだ」
「女装癖みたいに言うなよ」
「悪かったな。じゃあ何て言えばいいんだ?」
「それは……さぁ、わからないけれども」
文也は答えに窮する。自分というのは一体何なのだろう。消えゆく宿命の中で、最期に抗えることは何なんだろう。どうすれば最期に才子に会える?
「才子のこと考えてるのか?」
「ああ」
「会いたいか」
「会いたいな」
「何処に行ってしまったんだかな」
「雅なら分かるかと思ったんだけどな。雅も分からないらしい」
「完全に消えちまったのかね」
「そうでないことを祈るよ。僕が消えても才子には居てほしい。雅のためにもね。あの館は一人で過ごすには広すぎるから」
「文也が消えても俺が覚えておくさ。お前が居たことは幻でも何でもない。事実だ。人格って言ったって個を持ってる。多重人格者とその他の人間の境界だって怪しいものだ。人はペルソナを被って過ごしている。人間関係の中で少しくらい演技もする。それが意図的かどうか、自分のどの面を曝け出すかの選択が出来るかどうかの違いだ。雅はやはり不器用なんだとは思うけれど、根本的なところで俺たちと大きく変わるものでもない。違いっていうのは誰にでもあって、雅はちょっと極端なだけだ。拒絶して我慢して分裂してコントロールを失ってる。でもさ、コントロールできるかどうかの違いだけで人は誰しもがいくつもの人格を使い分けてるんだよな」
文也は難しそうな顔をした。彼は他面性を持っていないのだ。一人格がどういうものか、ここに来て自覚できそうな気がした。
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