psycho2

 二人の高校生と一人の黒ずくめの女はうんうんと唸っていた。彼らだけでしかもすぐに解決できるような問題ではないのだけれど、居ても立っても居られないのだ。

「『悟』はここに出てきて自分が雅の別人格だと理解したことで『消えた』んだよな?」

「恐らくは。自分はもう用済みだと言っていたからな、ただ厳密に中で消えたのと人格交代したのとが時間的にどう相関するのか確かめる術はないのだけれども」

「そうならば僕も『消える』のかな」

「どうなんだろうな? 中には過去に何度か外に出てる人格も居たんだろう? 人格交代一回くらいでは消えなくて、悟の場合は副人格だと理解していなかったのが理解したことがきっかけなんじゃないだろうか」

「元々知っていた場合はセーフなんだろうか」

「やっぱり消えたくないか」

「こんなこと言うと妙だけど、僕はもう一度才子に会って話したいんだ」

「何の話を? 雅か」

「それもあるけど、何ていうか、才子は一人で色んなものを背負ってきていたと思うんだ。その荷物を少しでも減らしてやりたい」

「なんだ、惚れてるのか」

「はっ? べ、別にそういう訳では……」

 年長の高校生は赤くなる文也の様子を見て楽しげに笑っていた。

「才子は」

 一転、真顔になると

「才子は、自分が居るべきか消えるべきか考えてたみたいなんだよな。『唯一絶対の理解者』とまで言われるほどに強く必要とされているのを分かっているし、だからこそ雅の成長を阻害しているんじゃないかって言ってた。でももし人格のサイコが雅の演技だとしたら」

 文也は高校生二人の顔を見回す。

「別の理解者の可能性を外に見出したのかもしれない。それで才子は身を引いたのかもしれない」

「僕たちが才子さんを消した、ということですか」

「確証はないけれど。でも、それって雅にとっては喜ぶべきことで、引いては才子にとってもそうなんだろうなって思うんだ。頭では」

「でもやっぱり会いたい、か」

「ずっと一緒に生活してたし。ああ、さっきの当たりなのかな。僕は才子に憧れていたんだと思う」

 文也は照れているように頭を掻いた。

「でも、僕も君たちに記録の内容を全て話し終えたら役目は終わりになるのだと思う。僕の役目はきっと記録係で、中の人格のことを雅に伝えるのが最終的な目的に設定されていたように思えるから」

「まだ伝えてないことがあるのか?」

「いくらでも。ここでは一瞬だったのかもしれないけど、中での生活はそれなりに長かったからね。『消えた』人からの話も含めて、記録していた分は読んで記憶に残っているから。まずは」

 文也は、直前に悟の残していったメモの名前の下に新たに名前を付け加えていった。身体は同じでも筆跡は違い、高校生二人に多重人格とはこういうものかと思わせた。

『才子、満咲、悟、瑠璃子、吉田さん、Gさん、文也、スティーブ、武装した男女、エミリー』

「僕が館内で出会った人物は以上……らしい。っていうのは、全員を覚えているわけじゃなくて、忘れてしまった人もいるから、記録上に残っていた人物だ」

「忘れるっていうのは?」

「『消える』と、その人の名前も容姿も性別も何もかも忘れる。武装した男女とは銃撃戦まで起こして、満咲ちゃんが一度死んだようになったらしい。それすら忘れてる。たぶん本体に鎮静剤を打って拘束帯で縛り上げたはずだけど」

「自分がここに来てからはそんなことは起きてないな。サイコとナルコにしか会っていない」

「じゃあ、君たちがここに来る前になるのかな、たぶん。その時に、才子から時間の流れが違うという話も聞いていたみたいだ。満咲ちゃんは、何故か忘れられることもなく、再来訪した」

「満咲っていうのは、テロの記憶を持ってるっていう幼女だよな。ナルコから聞いたんだが」

「そうみたいだ。館内の銃撃戦とは別に赤い血の記憶を持っているらしくて、後になって才子から満咲ちゃんとテロについての話を聞いた」

「酷い話ですよね」

「いつ頃から人格が分裂したのかは分からないが、満咲については理由がはっきりしているし分裂するのも理解できる。他には?」

 高校生が促すと、文也は話を続ける。







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