才子15
結局、満咲ちゃんの意識は戻らなかった。生きてるか死んでるかも分からないとのことだった。呼吸や、心臓の音で分かりそうなものだけれど、それでも分からないのだという。
「新しい人間か侵入者かは不明だわ」
戸締りした広間の真ん中で才子は言う。右往左往しながら、今後の計画を述べているのだった。
「恐らくは新しく招かれた者たちね。二人同時に攻撃的な者が現れるとは厄介だわ。言ってしまうけれど、今まで無かったわけじゃないの。ただ、外部圧力によってそういった者は優先的に『消される』。それまで私たちは生き延びましょう」
才子は調達してきた銃を並べる。
「使い方が分かる者は……居ないわね。撃ったって当たりゃしないわ。中身は麻酔銃よ。殺すわけじゃないから臆さないで」
そう言ったって……先程まで満咲ちゃんが遊んでいた崩れた積み木に目を遣る。奴らを許せそうになかった。例え当たらなくとも麻酔銃ではなく実弾でいいくらいだ。
「冷静になりなさい。あなたたちは殺人者になりにここに来たわけではないわ。怒りに身を任せないで。さもなければ飲み込まれてしまう。くれぐれも平静を保つこと、いいわね?」
才子の戦闘指南は続いていたが
「才子」
珍しく悟が口を開いた。
「『上位存在』と何を話した?」
「黙秘します」
「この状況の原因になるような話をしたんじゃないか?」
「黙秘」
「口は割らないか」
才子は何か知っているのだろうか。しかしその後も悟からの質問には黙秘を貫いていた。
僕は、もし僕が死んだ場合、誰かが消えた場合に備えてこのことを記録していた。やや空気を読まない行動ではあるけれど、必要なことだと思ったからだ。
今朝から、今まで、スティーブと瑠璃子、満咲ちゃんの積み木、監獄実験、二人の襲撃者、満咲ちゃんが撃たれたこと、Gさんと才子がそれぞれ止血と蘇生を試みたこと、麻酔銃、才子の黙秘、『上位存在』と面会したという疑惑。
いつかこれら全ては線で結ばれるのだろうか。
「行くわよ」
才子が先陣を切る。防護服に身を包んだ僕らは、麻酔銃を片手に襲撃者を探し始めた。
遠くで銃声が聞こえる。恐らくマシンガンで扉という扉をぶち抜いているのだろう。この分だと僕の部屋ももうやられていることだろう。
「三手に別れましょう」
Gさんと悟、瑠璃子とスティーブ、それに、僕と才子の3グループに分かれる。誰かしらが敵を発見したら無理をせずに救援を呼ぶようにと才子からの指示があった。連絡にはトランシーバーを使うと言って、三組それぞれに配られた。
長とは言え才子も女性だ。なるべくなら僕が守らなければならない。
才子と二人、赤い点の続く廊下を行く。もう褐色掛かっていたが、どこか薔薇の花弁を思わせる。満咲ちゃん……。無邪気な幼女の姿がまぶたの裏に浮かぶ。
「――今」
才子が立ち止まる。
「物音がしたわ」
言われて耳を澄ませる。その瞬間
「見つけたぜ!ほう……二人か」
「一人ずつなぶり殺し、果ては全滅だよ!」
ぶち抜いた扉の先の一室を漁っていたらしい奴らが現れた。男の方は銃の他に鎖らしきものもブンブンと振り回している。
「こっちに来なさい。廊下には隠れるものが無い」
才子に腕を掴まれ、一室に連れ込まれる。その瞬間、僕はネームプレートを見た。
――才子、と書かれた――。
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