才子14
慌てて満咲ちゃんを抱き起こす。いつもなら触れるのも嫌がるであろう。しかしもう息をしていないように見える。ぬるりとした粘性のある赤色が腕に纏わりつく。
「お前ら……何を……」
武装した男女は、ゴーグル越しに満咲ちゃんを眺めている。
「まだ居るな」
「皆殺しね」
そんな急に物騒な。しかし奴らは本気らしく、こちらに銃口を向けてくる。僕と悟は飛び上がって、この緊急事態を他のメンバーに知らせて避難させることを最優先としなければならなくなった。
可哀相な満咲ちゃんを腕に抱え、猛烈に走る。パシパシと鋭い銃弾が僕たちの足元を掠めて行った。満咲ちゃんの身体からは血が噴き出て止まらず、しかし止血しその生死を確かめる余裕は最早なかった。
白い廊下に点々と赤い水滴で円を描きながら僕たちは広間に向かうと、内側からロックを掛けた。
ゼイハアと息を荒げている僕ら二人と、血だらけの満咲ちゃんを見てGさんは酷く慌てた。
「こりゃ一体何があったんじゃ!?」
「わ、分かりません……新しい人が二人、男女で、武装していて、恐らく満咲ちゃんは撃たれました。僕らも逃げている最中に何度も発砲されて……」
僕がGさんに説明していると悟はランプの乗ったコーヒーテーブルの下からダイヤル式の古めかしい電話機を取り出した。
「内線で才子に報告する」
僕とは対照的に既に冷静になったと見える悟はダイヤルを回し始めた。
Gさんは着ている服を引きちぎると、満咲ちゃんの止血を始めていた。
「駄目かもしれんな……血を流し過ぎておる……」
言葉ではそう言いながらも、必死で患部の近くを締め上げ、心臓マッサージを行っている。Gさんは諦めないでいてくれる。
悟の方は才子と連絡が付いたようで、包帯などの治療具と応戦のための武器を求めているところだった。
こうしている間にも奴らは迫ってきている。満咲ちゃんの血を辿ればゴールは簡単に見つかってしまう。
「止血でき次第、場所を移しましょう。瑠璃子とスティーブにも状況を知らせなくてはいけないし」
最中だろうが、この際問題ではない。命の方が大事である。
満咲ちゃんを上着で覆い、ロックを外すと一目散に瑠璃子の部屋に向かう。
瑠璃子は最初気怠げに、邪魔をするなというような言い草だったが、満咲ちゃんを見るや急いで部屋に入れてくれた。
「これは……一体どうして!?」
スティーブも気が動転しているようだった。
「分からない……。いつも通り、新しい人が来たと言って満咲ちゃんが迎えに出て行った。そうしたら悲鳴が聞こえて、行ったら武装した男女がいて、満咲ちゃんが血塗れになって倒れていた」
ありのままを伝える。
「何それやばくない? そんな攻撃的なの今まで来たことないよ。才子は?」
「連絡済みだ。治療具を持って来させる」
ぞっとしたような瑠璃子の肩をスティーブが抱える。随分親しい仲になったようだ。
Gさんが満咲ちゃんの蘇生を試みていると、ドアがノックされる。一瞬戦慄が走ったが、「私よ」という聞きなれた声が聞こえると僕たちは安堵の息を吐いて扉を開けた。
「これは……ひどいわね。何故よりにもよって満咲を……」
才子が怒りに震えた声で話す。付き合いは一番長いはずだ。それに、最年少で就学年齢に達するかどうかの子供相手にこのやりようである。
「手当てするわ。こういう時こそ看護婦でも居たらいいのにね」
それは過去には居たということだろうか。考える余裕はない。才子は麻酔らしきものを満咲ちゃんに打つと、冷静に銃弾を抜き、大量のガーゼで溢れ出る血を抑えていた。
「満咲……消える前に死ぬのは無しだからね」
才子が声を掛けても満咲ちゃんからは何の返事もなかった。
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