才子5

 室内はやたら甘い匂いが充満していて、毒々しいまでにピンクや赤の家具で彩られていた。某有名なキャラクターのグッズがそこかしこにある。この手の女性からイメージされる部屋そのものだった。

「そこ、座って」

 指定されたのはベッドだったが、僕に興味もなさそうだしそれは僕の方も同じで、間違いは起こりようがないだろうと思っていた。だから警戒心も遠慮もなくベッドに座らせてもらった。

 瑠璃子は部屋中に溢れているキャラクターのクッションを胸に抱いて僕の隣に座った。

「で、外の話だっけ。何が聞きたいワケ?」

「ああ。まずは外に出られる条件と、外がどうなっているか、具体的にどういう経路で外に出るのかだな。この館には出口らしきものが無いみたいなのにどうやって出てるのか……」

 不明な点が多すぎて質問がわらわらと口を突いて出てくる。

「ちょっと待って、一度に言われてもわかんないからさぁ。ああもう……えっとね、外への経路っていうのはナイ。強いて言えば夢?」

「夢?」

「そう。寝て起きたら外に居るんだよねぇ。寝るっていうか、ぶっ倒れるんだけど。で、目が覚めたら館の外ってワケ」

「それって自力では出られないってことか?」

「うん、まぁそういうコトになるよ。タイミングも選べないし、急に頭がぐるぐるーってなってバターンって」

 思っていたのとは違うが、これで館に出口がないのに外に出る人間がいる理由は分かった、が。

「それって外に出てるんじゃなくて夢を見てるんじゃないか?」

「そうかもね。ま、あたしにもよくわかんないケド、外に出る人はみんな同じだからたまたまっていうワケでもないでしょ」

 言われてみればそうか。更に聞けば複数人で外での体験を話し合っても合致しているので単純に夢だとも言い切れないのだそうだ。

「いつも同じ。白い廊下。それはここと同じだけどね、窓があって木が見えるんだよね。ヨッシーが松だって言ってた」

 吉田さんは瑠璃子にはヨッシーと呼ばれているらしい。まぁ、今はどうでもいいのだが二人の間の交流は少し見てみたいような気もする。

「で、その建物の外に出ようとすると何か知らない人がすごい止めに来るの。だから外って言ってもこの館から出られてるってだけだよ。出たところで特に何もないしつまんないよ? あんた、何で外に出たいワケ?」

 何でって……この空間は異常じゃないか。外に出れば世界は正常に動いているはずで、きっと帰らなければいけない場所や会わなくちゃいけない人だっているはずだ。僕には記憶がないから思い出せないけれど。

「瑠璃子は、いつからここに居るんだ?」

「さぁ? いつからだったかなぁ。覚えてないよ。時間の経過とか感じにくいしさ」

 僕は昨日放り込まれてまだ二日目だから日にちの感覚があるが、確かにカレンダーも時計もないこの館内に長期滞在していたら今が何日目かなど意識しなくなるのかもしれない。

「じゃあ、順番は? 才子が一番古いっていうのは聞いたけど残りの人はどうなんだ?」

「ヨッシーとジジイはあたしより後だね。あたしより前は知らない。後から来て先に消えた人も居たしさ。そういうのは才子に聞いた方がいいんじゃない?」

 消える。

 人が消えるのを何でもないように言うのだから驚く。しかも本当に特に何も感じていない風なのだ。『消える』とは寂しいとも、めでたいとも思わないようなことなのだろうか。

「さてと、話は終わりでいいよね?」

「あ、ああ。聞きたいことは大体聞けたかな。消えた人間についても聞きたいところだけど」

「えー、もういいじゃん。話するの飽きてきたし。楽しいことしようよ」

 楽しいことって? 聞き返そうとした瞬間、瑠璃子が立ち上がって覆いかぶさってきた。瞬きを数回する。目を閉じた瑠璃子の瞼や眉間が見える。唇に何か当たっている。

 瑠璃子は僕に興味なんて無さそうだったのに、僕の唇を奪ったのだった。


「今のメンバーって」

 唇を離して瑠璃子が語り出す。力が入らずにそのままベッドに押し倒される。

「悟くらいしか相手になんなかったからさ、退屈してたんだよね」

「瑠璃子、お前何言ってるんだ?」

「何よ、分かってるクセに。ねぇ? あたしは欲深いんだよ」

 急に色っぽい声と表情になって迫ってくる。いや、待て。この状況もそうだが、瑠璃子は悟ともこういう事をしてるっていう事か?頭が追いつかないままに瑠璃子の手が僕の下半身を弄り始めた。

「いやいや、待て待てって。まずいだろう」

「何が? まずいことないよ。あたしいつも欲求不満なの。話に付き合ってやったんだから相手してくれるよね?」

 慣れた手つきで弄られ、否が応にも反応してしまう自分が情けない。そのままなすがままに瑠璃子のペースに飲まれ、上に乗られて腰を揺さぶられ、瑠璃子の気が済む頃には身体はボロボロになっていた。

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