帰り道

塾の帰り道。

電灯があまり立ち並んでいない道を、1人で歩く。

電灯はないにしても、住宅街なので家々の明かりで道が照らされている。

朝、クローゼットから出したばかりのマフラーを口元まで引き上げ、寒さを少しでも和らげた。

音楽も聞かず、携帯も触らず、

こうして1人で歩いて帰るのが 私は好きだ。

この時間はただ歩くだけでいいから、

私の頭の中は自由になる。

自由になった頭の中は、まるで夢のように

色んなことが駆け巡る。

だけど、ひとつだけ。

たったひとつだけ、私の頭の中から離れないものがあるのだ。


────ブブブッ

ポケットに入れていた携帯が震えた。

すぐさまポケットに手を入れ、それを確認すると、画面には お母さんからのメッセージが映っていた。

はぁ、とあからさまに溜息が漏れる。

なんだ、小野寺さんじゃないのか。

メッセージにすぐに返信をし、またポケットに携帯を押し込んだ。


小野寺さんは1つ上の先輩で、高校は一緒ではない。家も 私の家から一駅程離れた所にあり、私は1度もそこへ訪ねたことがない。

彼との接点といえば 私のよく行くカフェのみ。

彼はそこでバイトをしている。

そのカフェは 中高生がよく集まるようなお洒落で華やかな所ではなく、マスターが1人で切り盛りしている昔からあるような落ち着いたカフェだ。

私が足しげくそこに通うようになったのもほぼ彼がきっかけなのだが、今となってはマスターともとても仲良くさせてもらっていて、彼のバイトが入っていない日でも 私はそこに通っている。


ふと時間が気になり、腕時計を顔に近づけると

午後9時を回っていた。マフラーをまた整えて、少しだけ歩を速める。

はやく帰って 明日の準備をしなくては。

明日は 小野寺さんと出かける予定があるのだ。

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