ハロウィン短篇SP:カボチャの馬車

Hetero (へてろ)

ハロウィンの素敵な夜に

 10月31日の朝、彼女が何時もよりかなり時間掛けて化粧していて、

 部屋に籠もってるなぁと思っていたら、

 独特な除光液とかの匂いがほのかにしてたからまぁ想像は付いてたんだけど、

「じゃーん、ほらみてタクヤ、ハロウィン仕様だよー」

 細い綺麗な指を反らせてその爪先を見せびらかしてきた。

 オリーブグリーン色と、イエローオレンジ色が交互に並んだ綺麗な爪は、

 なるほどカボチャのイメージの色だったようだ。

「なるほど、それで時間掛けてたのか。似合うよユカ」

「えっ、ホントにっ!? ありがとー」

 子供みたいににこにこ笑ってくれて、朝から良い雰囲気で家を出掛けられた。

 俺たちは付き合って一年目で同棲してからは半年で、

 住まいは小さな分譲マンションの一室だけど、お互いの職場も近いし、

 割と充実した生活を送っていた。


 その日の夕方、彼女から携帯に今晩何がいい? と晩飯のおかずのリクエストが来た時、

 丁度朝見せて貰った綺麗な爪が過ぎって、

 折角だし、落とさせたりしたら可哀想だからと、

『あ、今晩オレが作るよ。カボチャのシチューでいいかな』と返した。

『え!? ほんとにっ!? ありがとー』と大喜びの顔文字付きで返信が来たので、

 安心してシチュー作りの材料をクックパッドで調べつつ、

 材料を買い集めながら家に帰った。


 丁度都合良く、

 八百屋に売っていたのがハロウィンかぼちゃと言う黄色い例のカタチのカボチャで、

 少し小さめだったから買ってきて。

 下ごしらえの前にと、

 綺麗に包丁とスプーンで中身をくりぬいて、厚めに残した皮の部分を別けてみた。

「たっくん器用ー、私何か手伝うことある?」

「ううん、シチューの方はオレが作るから良いよ、あ、ユカはこれあげるからさ、

 あのテレビとかでやってるランタンみたいになるように作ってみたら?

 えっと、確かこの辺に新しく買った果物ナイフが――」

 ひょいと中身がくりぬかれた黄色いカボチャを渡されたユカは、

「えー、あんなの素人が綺麗に作れるのかなぁー、でも面白そうよね。

 折角ハロウィンだしやってみようかなー」

「うん、頼んだ!」

「はい、頼まれた!」

 二人でにこりと微笑み合ってから、タクヤはキッチンでシチューを作り、

 ユカは食卓でカボチャの皮との格闘を始めた。

 しばらくして、

「あー!」

 ユカが叫んだので、タクヤは指でも切ったのかとビックリしてキッチンから飛び出してきて、

「ユカっ、大丈夫? 手切った?」

「えっ? ううん、ちがうの、眼の抜き方に失敗しちゃって、ほら見て、

 左の方が大きくなっちゃった」

 とギザギザの口の上に空いた不揃いの丸い眼の穴を見せてくれる。

「ごめんね、たっくんみたいに器用じゃないなぁあたし」

「いや、それはそれで愛嬌があって良いんじゃないか?」

「そっかなぁー。ぶちゃいくカボチャくんになっちゃったねぇキミー」

 なんて言いながらカボチャを覗き込んでいる姿が可愛くて、

「はは、でも良くできてるよ、ありがとう。シチューももうすぐできるから待っててね」

「うん。食器くらいは用意させてね」

「おねがい」

 ぶちゃいくカボチャくんを食卓の真ん中に据えてハロウィンの晩餐の用意をする。


「はい、お待たせ」

 白いお皿にカボチャたっぷりのシチューを載せてユカの前にタクヤが出すと、

「わ、すごい、本格的だねぇ」

 ユカが褒めてくれるので彼も鼻高々で。

「レシピのおかげでもあるけど、ブロッコリと鶏肉入れて、スープ用の溶かすカボチャと、

 固形で残しとくカボチャを分けといたのがポイントです」

 レシピの説明をして自分の分も配り席に着く。

「今日はありがとね。それじゃあ、いただきます」

「うん、いえいえ、いただきます」

 シチューの味も上出来で、食べているうちに身体が温まってきて、

 少し冷えた今日には丁度良かった。

「ほんとに美味しい。今日はありがとねタクヤ。

 ねぇ、そういえば今日って特別な日でも無かったのに、どうして夕飯作ってくれたの?」

 シチューを食べながらユカがなんとなく質問する。

「ああ、その爪、折角綺麗にしてたからさ、ご飯作って貰うには忍びなくて」

「ああ、なんだ、これかぁ。えへへ、そうかぁ気にしてくれたんだ。ありがと」

 左手を可愛く丸めて指先を見ている彼女がとても綺麗に見えて、タクヤは少しドキリとする。

「――あー、なんちゅうか、その、爪、ネイルか、やるの好きじゃん」

「うん」

「でもオレちゃんと褒めたこと無かったかなぁ、なんてちょっと思ってさ、

 たまのハロウィンだし。夕飯ぐらいは作らなきゃなってそれで」

 指先からタクヤの顔に視線を移して、照れてるタクヤが可愛くて自分まで恥ずかしく

 なってきながら彼女は、

「そっか。ありがと。ネイル褒めて貰えるのも嬉しいけど、そういう所がもっと嬉しいよー」

 堪らなくなって机の下でストッキングの脚で彼の向こう脛をちょんとつつく。

「ふふ。ま、たまには格好いいとこみせないとね!」

 タクヤは威張り顔で言った。

「あ、そうだそのカボチャだけどさ、

 確か災害用のろうそくがどっかそこらにしまってあったとおもうからさ、

 後で、キャンドルっぽくしてみよっか?」

 タクヤは彼女が頑張って造ってくれたぶちゃいくカボチャくんを見てそう言う。

「うん、やってみよう」

 ユカも笑顔で応じた。

 ご飯を片付けて、二人とも今日はカボチャのシチューのおかげでほっこり暖まったのもあって、

 テレビを付けたりもせず、カボチャくんに向き合っていた。

「よっし、あった。これこれ。点けるよー」

 タクヤが背の低い丸いろうそくを出してきてカボチャに入れる。

「あ、良い感じー、ちょっと電気暗くしても良い?」

「うん」

 ユカが電気を落とすと、暖かく柔らかいろうそくの炎の灯が二人のささやかな食卓を包んだ。

 頭と、眼と、口から漏れる光はまぁたしかにぶちゃいくだったけれど、

 炎の綺麗な揺らめきに雰囲気があってとても綺麗だった。

「綺麗ね」

「うん、ユカだって上出来じゃないか。ぶちゃいくカボチャくん」

「ふふふ、そうねー」

 といって下から柔らかい光で照らされたユカの微笑みは

 なかなか見たことが無いくらい良い笑顔だった。

 彼女はぼんやり部屋を見渡して、ぽつりと、

「カボチャの光が部屋を包んでて、なんか部屋がカボチャの馬車になったみたいね」と呟く。

「そしたら、シンデレラはユカか」

 そっと息を吐いてから、思わせぶりに彼女が、

「なれるかなー、シンデレラ」と聞き取れるギリギリの声音で言うので。

 ここは聞き漏らしてはいけないところだとタクヤは思って、

「近いうちになれるよう、頑張ります」

 少し声を張って、彼女を見つめて答えた。

 プロポーズ? だったらこういうのも素敵かも知れない、

 今年のハロウィンはちょっと思い出深い物になった。


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