第2劇 ビギナーズラプソディー

 シティーフォート、それは移民者を乗せ開拓惑星に降下した都市型開拓移動要塞である。

 開拓地に新たな都市を建造しながら移動し支配領域を広げていく。やがて国として機能するようになると根を下ろし、首都機能を果たすキャピタルフォートへとクラスチェンジするのだ。

 しかし国を作るために移動せず、他の都市や企業からのクエストを開拓者パスファインダーに斡旋するだけのシティーフォートが存在する。エルドラードもその一つで、この惑星アマリリスで最大規模を誇る中立交易都市である。

 フリーのパスファインダー達にとって、そこは夢と希望を叶えるためのスタート地点であるが、同時に闇も抱えるアウトロー達の裏取引場でもある。素人から玄人まで、少女からおじいさんまで実に様々な人間が出入りし、犯罪に巻き込まれる者も多い。

 ここで信じられるのは自分だけ。特に胡散臭い話と夜のエルドラードにはご用心。




 俺の名はリューク・カサハラ。人生のパートナーを募集中のフリーパスファインダーさ。

 今日も今日とて出会いを求め、夜のエルドラードを徘徊する。どこかに行き倒れた美少女が落ちてないだろうか。

 人気のない広場や路地裏を見て回る。転がってるのは野良猫と酔っぱらいのおっさんばかり。

 えぇい、センチメンタルな出会いはもうこの世に存在しないのか!

 悲観しながら歩いていると狭い路地の角で人とぶつかった。ぶるるんと豪快に揺れたのはおっぱいではなくたるんだ腹。その腹の持ち主のおっさんは相当急いでいるようで、何も言わず逃げるように去って行った。

 今のが巨乳の美少女だったら良かったのに。

 そんな妄想をしながら角を曲がると人が倒れていた。地面に赤い液体が広がっている。


「サスペンスな出会いはいらねぇよ!」


 俺は思わず自分の置かれた状況に全力で突っ込んでいた。




「ありがとうございます! この御恩は一生忘れません!」


 彼女は二日ぶりだと言う食事にがっついていた。ここは現場から少し離れた小さなレストラン。目の前に座っている美女はさっきまで死体だった人だ。

 空腹のあまり出来心で食料品店から商品を盗んだしまい、さっきすれ違った店主に追いかけられたのだと言う。転んだときに盗んだトマトジュースがぶちまけられ、勘違いした店主は血相を変えて逃げ出した、という荒筋だ。


「なぁに、行き倒れた美女をほっとけなかっただけさ。決して下心で近付いたわけではない、断じて違うからね」


 手遅れかどうかは関係ない、服装から女だと気付いた俺は取り敢えず人工呼吸を――と抱き上げたところでネタバレしたのである。まさか本当に行き倒れた美少女に出会えるとは。

 さすが欲望の街、エルドラード。夜な夜な徘徊していて正解だったぜ!

 彼女はペチャパイだったが、タイトスカートから覗く黒タイツに包まれた脚線美はグンバツだった。スレンダーな美人といった感じか。質素だが行き倒れにしては綺麗な衣装で生地もしっかりしている。倒れていた時はフードでよく分からなかったが、サラサラロングストレートの金髪美女で高貴な感じがした。家出したお嬢様だろうか。

 たださっきからトマト料理ばかり食べている。どんだけトマト好きなんだ。


「ご馳走様でした。御礼をしたいのですがお察しの通りお金は持ち合わせておりません。一応パスファインダーのライセンスだけは持っているのですが、右も左も分からない初心者で……」


 なんて都合のいい展開。これを運命と言わずして何と表現しようか!


「俺が手取り足取りレクチャーしてあげよう。何を隠そう、俺は通りすがりのベテランパスファインダーだ!」

「本当ですか!?」


 ガタッと身を乗り出して立ち上がり、両手で握手を求める彼女。


「申し遅れました。私、ノアと言います。不束者ですがよろしくお願いします!」


 よし、そうと決まれば今夜は我が家へお持ち帰りだ。レクチャーは明日からとする!




 シティーフォート内のモータープールはセキュリティー対策されているが、スペースが限られており滞在料金もごっそり取られるのでマイフォートは外の空き地に停めてある。

 俺達以外にも外に停める開拓者は多く、大小様々なフォートレスがあちこちに並んでちょっとした集落を形成している。中には露店を始める者、キャンプ気分でバーベキューを始める者、賭博を始める者まで居る。

 俺はその中で一際異彩を放つキャンピングフォートにノアを案内した。


「師匠は個人でこんな立派なフォートレスを所有しているんですね。凄いです、尊敬します!」


 正確には兄者と二人のだけどね。しかも市販品は高いので兄者がジャンクを集めて自作したものだ。だが決してゴミ屋敷ではない。

 いちおう十人クラスのギルドが所有するくらいのサイズはある。見た目はこのサイズではオーソドックスな六足歩行型だが、秘密が満載の住居兼工房だ。


「兄者、実はカクカクシカジカで」


 「問題ない」と俺と似てない長身のイケメンは、ゴーグルを光らせながらサムズアップで応えた。


「今の説明で分かるんですか?」

「何しろ俺の兄者だからな!」


 兄者はハイスペックだ。ただ無職で引き篭もりなだけだ。紹介を終えたところで、早速我が家を案内する。

 一階は操縦室、武器庫、保管庫など開拓業に関係する部屋が並んでいる。ただ半分は機関室などのメカニックに埋もれているので窮屈な感じだ。

 二階は寝室やリビング、キッチン、バスルームなどの生活スペースが中心となっている。兄者が引き篭もってる研究室は格納庫も兼ね、カタパルトとも繋がっているが今は稼働していない。まだ改造中なのだ。


「ちなみに個室はない! アットホームなフォートレスだからな!」

「着替えるときはどうすれば……」


 気にせず堂々とすればいいよ、と言おうとしたがまだ攻めるのは早い。どこか適当な部屋でこっそり着替えてくれと伝えた。

 久しぶりに安心して寝られると喜び、疲れていたのかベッドに横になるとすぐに彼女は眠りについた。

 俺が側に居るというのになんて無防備な! しかし野獣化するのはまだだ! これからいくらでもチャンスはあるのだから。今日のところはその寝顔だけで満足する。

 大いなる野望に比べたら小さな一歩だが、初めてのムフフ展開に心躍らせながら俺も眠りについた。おやすみマイハニー。




「師匠! 僭越ながら朝食を用意させていただきました!」


 グゥレイトォ! これで俺もタイガーだ。こんな幸せな朝を迎えられたことがあっただろうか。いや、ない(反語)。

 居ないと思ったらエプロン姿のノアがキッチンに立っていた。目が覚めたら全部夢でしたという悪夢も吹っ飛び、俺はリア充気分を味わいながら席についた。


「お口に合うかどうか分かりませんが……」


 照れながら差し出されたのは、ハーフカットのトマトに囲まれた十段重ねの目玉焼きタワーだった。

 ダ……ダイナミック!

 まぁ……冷蔵庫にはまともな食材が入ってないからな。あとは主食にしてるブロックヌードルくらいだ。後で一緒に夕飯のお買い物に行こう。


「兄者さんは起こさない方がいいのでしょうか?」

「兄者は昼に起きて朝に寝るんだ」


 ダメな人のように聞こえるが研究熱心でいつの間にか朝になっているだけだ。


「では冷蔵庫に入れておきますね」


 ラップをしてタワーをしまおうとするが、なかなか上手く収納できず苦戦している。どうしてもタワーを崩したくないようだ。

 冷蔵庫前で無防備に突き出されて踊るヒップにムラムラする。静まれ、俺のビーストモードよ……。




「開拓者心得その1、まずは己を知ること!」


 朝食を終えて俺とノアは街へ繰り出した。

 最初に向かった先はパスファインダー御用達の武器屋。何はともあれまずは自分の身を守る力が必要だ。とりあえず初心者にも優しい若者向けの量販店をチョイスした。


「まず武器には大きく分けて近接武器、弾薬を消費する射撃武器、そしてETSイーティーエス(エレメンタルトランスシフト)を発動させるトランスレイターがある」


 近接武器の基本は刃物だ。誰でも感覚的に使いやすく、壊れない限り無制限に使用出来るのがメリット。ただ接近する必要があるということは、相手からも攻撃されるリスクがあるということ。飛び道具を持たない敵はいても近接攻撃出来ない敵は居ない。よほど腕に自信があればそれだけでも構わないが初心者にはオススメ出来ない。

 射撃武器は万人にオススメのメインウェポンだ。ただし常に弾切れというリスクが付き纏い、無駄弾を使っていると弾薬費が大変なことになる。状況に応じて使用する弾丸を変えられるのも利点の一つだ。もちろん武器と弾丸の規格が合わないと撃てないので注意。下手なうちは接近して撃つ必要があるが、近接武器よりは優位に立てるだろう。

 最後にETSを起動させるトランスレイターだが、こいつも弾薬の代わりにMANAマナ(マギオンアクセスネットワークアクチュエータ)が詰まったシリンダーを消費する。シリンダー自体は安いがMANAを充填する際、使用したいETS専用の充填器を使用しなければならない。この充填器であるETSチャージャーが非常に高額なのだ。

 ただETSは武器以外にも利用出来る便利なものだ。お金が貯まれば戦闘用でなくても買っておきたいところである。チャージャー自体は高いが、使い捨てのシリンダーはETSスタンドで買える。フォートレス持ちや裕福な移民者でもなければ、チャージャー自体を所有する者は少ない。


「私の武器はこれだけです」


 小型のハンドガンだ。軽いし扱いやすいので初心者にはちょうどいい。ただあくまで護身用だ。開拓業と言っても活動内容は多岐に渡る。そのため汎用性も考えなければならない。

 パスファインダーは持ち替えることなく瞬時に状況に対応出来るよう、近接、射撃、ETSが一体化した武器を使用する者が多い。そこでパスファインダー専門店で売られている武器はカスタマイズしやすいよう、アタッチメント式に拡張することが出来るようになっている。もちろんメーカーによって規格の合わないものもあるが、まずは自分に合った武器を組み立てることが重要だ。

 ハンドガンベースでは拡張出来るものにかなり制限があるが、トランスレイターを付ければ汎用性は飛躍的に向上する。たとえ非力な女性でもETSさえ使えれば、持ち運べないような重火器だってその場でビルド出来る。

 ノアの腕は華奢であまり重い物は持てそうにない。たとえ持てたとしても照準に支障が出たら元も子もないので、値段と重量を考慮してシングルアクションの手動リロード式トランスレイターを選ぶ。一発ごとにシリンダーを交換しなければならないが、素人には分かりやすくてちょうどいいだろう。サンプルを装着させ実際に持たせてみる。


「これくらいなら私にも使えそうです」


 では試し撃ちしてみよう。店内の射撃場へ移動する。


「無駄弾を消費しないためにも、慣れないうちは必ず両手で構えて撃つこと」

「分かりました、師匠!」


 ノアは威勢よく返事をすると、両手でしっかりトランスレイター付きハンドガンを支えターゲットに狙いを絞った。


「もっと脇を締めて、お尻を引っ込めて、脚を開いて……」


 手取り足取り触りまくって矯正する。彼女は嫌がる素振りを見せず、ただ俺の言うとおり身を委ねた。うへへ、たまらんのぉ。


「あの……師匠、鼻血が出てます……」

「おっと、俺は豊血気味なんだ。気にしないでくれ」


 ハンドガンから発射された鉛弾が的を掠める。

 コントロール自体は悪くない。ただトランスレイターが増設された分重くなりブレるようだ。そんなに重いものでもないが、慣れるまで分割して使った方がいいかもしれない。


「武器まで買っていただいてすみません」

「いいのいいの。俺にとってはディナーをご馳走するくらいの感覚だから」


 鼻血を止めながら次に向かった先はシリンダーショップ。


「私ETSを使ったことがないんです。魔法みたいで憧れてはいたんですけど難しそうで……」

「兄者が作るのは特殊過ぎるけど、一般的なものはここで安く買えるから気張らなくていいさ」


 彼女の言葉を借りるならここは使い捨ての魔法屋。並んでいるシリンダーには魔法を発動させるための呪文が刻まれている。

 ETSにはアクティブフォース、パッシブフォース、アクティブデバイス、アーティファクトの4種類がある。それ以外も研究されてはいるが市販はされていない。まだ実用段階ではないからだ。

 アクティブフォースは最も単純で、瞬間的にゲージ粒子を現実にダウンロードし何かしらの力場を発生させるものだ。

 パッシブフォースは擬似的に自分の身体能力を拡張するもの。透視や磁場を感じる能力はその最たる例だろう。

 アクティブデバイスとは仮想物質で組み立てられた機械をダウンロードするものである。ただ仮想物質は一定時間が過ぎれば形を維持できなくなって消滅してしまう。構造が複雑で持続時間が長いものほどビルドに時間がかかるが、トランスレイター側で細工をすれば短縮することが出来る。例えば発射する弾丸をあらかじめ用意していれば弾薬まで構築する必要はない。

 アーティファクトとはETSが開発される前に流行った3Dプリンタのようなものである。アクティブデバイスと違って複雑なものは作れないし適切な触媒が必要だ。周囲に存在する物質を分解再構成する錬金術と言ったところ。これのおかげで都市建設などの生産活動がスムーズに進むのだ。

 基本的にアクティブフォース、パッシブフォース、アーティファクト、アクティブデバイスの順に高くなる傾向がある。これは呪文であるARC2アークツー(アルカノイドアーキテクチャ)プログラムの複雑さがチャージ時間に比例するからだ。

 またARC2アークツープログラムの設計には特殊な技法が必要でありコピーすることが出来ない。ゆえに同じエンジニアが同じものを作ったつもりでも微妙にどこかが違う。ただのデータの塊のプログラムではないのだ。

 同じチャージャーを使わなければ全く同じETSは発動しないため、評判の良いETSは使い捨てシリンダーとして売ったり、独占したい人向けに高値でチャージャーごと売るビジネスが成り立つ。性能によっては街一つ買えるくらいのものだって存在する。


「たくさんあるんですねぇ」


 効果説明用の動画を見ながら楽しそうに見物するノア。

 もちろんこれは氷山の一角。闇で出回っているものや個人で製作しているものを含めたら無限と言えるだろう。こうしている間も宇宙のどこかで新しい科学の魔法が生まれ続けているのだ。


「パスファインダーの主な仕事は探索と調査。特に知覚拡張系は見えないものを見通したり、聞こえないものを聞いたり出来て便利だ」


 専用装置を用意しなくていいし安価。索敵にも使えるし汎用性は高い。必須と言ってもいいだろう。


「もしかしてスケベ魔法もですか?」

「残念ながら透視し過ぎて裸だけ見るのは不可能だ……」


 裸だけ見るのはかなり高度なARC2プログラムを必要とし、違法だが実は存在する。それこそ法外な値段で闇取引されているだろう。違法だからこそ値段がさらに釣り上がるとも言えるが。

 もちろん所持しているのが見つかれば逮捕される。なぁに、見つからなければいいのだ、見つからなければ!


「ETSは日常生活にも活かせるぞ。掃除や調理、メイクやドレスアップに使えるシリンダーもある」


 パスファインダーでなくとも、女子力アップのためにそういったシリンダーを求める若い娘も多い。


「私も魔女っ子になれるでしょうか?」


 いいね、それ。変身する時はぜひ全裸シーンも!


「兄者に作ってもらおう」

「それは楽しみです!」


 俺の持つ殆どのETSは兄者の特製品。兄者はマッドだが一流企業からもスカウトが来るくらいの天才エンジニアなのだ。

 とりあえずそこまで説明したところで、汎用性の高い便利シリンダーを幾つか購入し店を後にした。




「開拓者心得その2、情報収集が大事!」


 俺達はフリーのパスファインダー達でごった返すセントラルスクエアにやって来ていた。老若男女、様々なパスファインダーが行き交うエルドラード最大の盛り場である。

 大型のホログラフィックスクリーンにリアルタイムでクエストニュースが更新表示されている。隣のスクリーンでは銀河フロンティア通信が放送されていた。


『イェーイ♪ 宇宙のバカ野郎ども、今日も元気に開拓してるぅ? ホットでエキサイティングな最新開拓情報をお伝えするフロンティアニュースの時間よぉ!』


 カウボーイ風の金髪巨乳美女、通称フロンティア姐さんが宇宙規模の開拓情報を伝える番組だ。


『まずは惑星アクアリウムで活躍中のギルド、シルクハットの一味が開拓王の称号をゲットしたよぉ!』


 野望を達成した人がまた一人! 俺も早く開拓王になってハーレム国を作りたいぜ!

 開拓業はクエストをこなすことで報酬を得る。報酬は金だけでなく権利や名誉であることもある。

 金は言わずもがなだが、権利は開拓した土地の所有権であったり、特別な施設への入場許可証であったりする。名誉はCM効果として機能し、メーカーから直接指名されたり新たなチャンスを得られることがある。開拓者ランクもその指標の一つ。大多数の開拓者は無名で、宇宙に溢れかえった人類の中の村人Aくらいにしか思われていない。その中でいかに自分が特別な存在であるか知らしめることが成功の秘訣だ。

 そのためクエスト情報のチェックは大変重要である。ユニバーサルネットを介せばいつでも見られるのだが、それはあくまで公の依頼のみ。個人的、あるいは緊急の依頼は基本的にそのシティーでしか確認出来ない。シティー内に入ってしまえばローカルネットで見れるが、ここまで足を運ぶのには重要な役割がある。それは直接の接触が必要な場合だ。

 エルドラードのような場所では表沙汰には出来ないクエストも多い。そういったものは直接依頼主と会って取引する。また依頼によっては定員を設定されている場合がある。身内同士ならともかく、知らない人間と一緒に受ける場合は打ち合わせのために一度ここに集まることが多い。そしてパスファインダー自らがお手伝いのパスファインダーを募集することがある。それもここで行うのだ。


「ただし甘い話には裏がある。ホイホイと調子いい男について行ってはいけないぞ」

「師匠は調子いい男に含まれますか?」

「俺は人がいい男だ。困った美女を放っておけない、ね」

「素敵です、師匠」


 さて、とりあえず初心者用の簡単なクエストを探すか。

 しかし夢を諦めたパスファインダーは最低限の暮らしさえ出来ればいいと、簡単過ぎるクエストにすぐ群がってしまう。どうせならいいところを見せられるように多少スリルがありそうなものを探そう。

 近くの喫茶店にちょうど空席が出来たので、ブラックコーヒーとトマトジュースを注文し腰掛けた。

 腕時計型のウェアラブル端末を操作しクエスト一覧ホログラムをテーブルに投影する。とりあえず近場で日が暮れるまでに終わりそうなものに絞り込もう。

 ノアにもよく見えるように、且つ周囲に見せつけるように肩を寄せ合って眺める。傍目から見たら二人はどんな風に見えるかな? どんな風に見えるかな!?(ゲス顔)


「あまり開拓に関係ないものもあるんですね」


 彼女の言うとおり緊急と銘打ったクエストの中には臨時アルバイトの募集もある。その中の一つに気になるものがあったので開いてみる。

 メイド喫茶の臨時募集フォーラム。そこについ最近知った美少女の名がエントリーされていた。


「うっ、頭が……っ!」

「師匠?」


 そっと閉じ検索を続ける。タンポポは偽名だったのか……。


「これなんかどうでしょう」


 地下水脈調査クエストか。依頼主は近くのシティーフォート行政府。場所もそんなに遠くない。

 暗いダンジョンに二人きり……。しかも濡れ場もある。これだ、これしかねぇ!


「よし、水着を買いに行くぞ!」




 小型のトーチライトを目印代わりに一定間隔で置きながら、暗く狭いダンジョンの中をひたすら源泉を求め遡る。

 俺達は今、地下水の流れを頼りに上流に進んでいるのだが、水は今にも枯れそうなほどチョロチョロとしか流れていない。それを見ながらノアが呟く。


「やっぱり水着要りませんでしたね」


 ですよね。結局クエスト詳細を見て買わなかったのだ。

 地下水が削り取ったであろう水路幅を見る限り、以前はもっと勢い良く流れていたのだろう。それが流れが変わったか源泉に異常が発生したかで貧相なものになってしまった。その原因を探るのがこのクエストの目的である。


「ひゃっ!?」


 突然のノアの黄色い悲鳴。コウモリのような原生生物が群れで横切っていった。


「ごっ、ごめんなさい。ダメですよね、この程度でパスファインダーがビックリしてちゃ……」

「ふっ、甘えていられるのはビギナーの間だけだからな。今はこれでもかと言うほど存分に甘えるといい……」


 抱きつかれて鼻の下が伸びてる俺。だが薄暗いせいでその表情ははっきり分からないだろう。


「じゃあお言葉に甘えます、師匠……」


 密着し腕に手を回してくるノア。

 うぉぉぉ! 俺は今猛烈にリア充しているっ! あまりにも上手く行きすぎて怖いくらいだ。

 まさかとは思うが俺を油断させて追い剥ぎする魂胆では……。いや、ノアがそんな悪人のはずない!

 しかしこの状況ではいきなり攻撃されても為す術がない。というか普通に敵性生物が現れても咄嗟に抜刀も出来ない。

 だがこの腕を離されたくない。ノアの胸がさっきから何度も当たっているのだ。ペチャパイでもいい、俺はこの貧乳を愛でたいと思う……。

 そんな葛藤をしながら進んでいると行き止まりにぶち当たった。水は岩の隙間から滲み出ている。ノアも手を離し回り道がないか探してみた。


「師匠、ここから奥へ行けそうです」


 それは岩がいくつも重なって出来た非常に狭い隙間だった。もしかしたら落盤があったのかもしれない。この先がどうなっているのか、早速彼女に調べさせることにした。

 トランスレイターを構えさせる。使うETSは『ロケーター』だ。シリンダーを装填する。


「は、初めてで緊張します……」

「力を抜いて……。怖くない、怖くないから」


 震える彼女の腰にそっと手を這わせる。再び鼻血が出そうになる。

 それで気が紛れたのか、彼女は落ち着いて照準を定めた。


「ビルド中はビックリしても照準を下げないこと」

「分かりました、師匠」


 ゆっくりトリガーを引くノア。最寄りのオービタルスポットから供給されたマギオンが対象空間に光の回路、トランスサーキットを構築する。


『ビルドアップ、パッシブフォース。ロケーター』


 機械音声がトランスレイターから発されETSが発動する。俺には見えないが、ノアには一瞬走査線のようなものが前方空間に広がっていくのが見えたはずだ。


「なんか不思議……。向こうに空間があるのが分かりました。でもすぐ突き当たって、今は流れてないけど滝の跡があります」

「上出来だ」


 ポンっとノアのお尻を触る。彼女はじっとトランスレイターを見ながら呟いた。


「これがエレメンタルトランスシフト……」


 さて、原因も分かったし帰るとするか。落盤で流れが変わったのだ。


「師匠、この先をもう少し調べてみたいです。それにもし、川の流れを戻せたら追加報酬ありますよね?」


 しかしこの隙間を無理に広げようとすれば落盤の可能性がある。それは危険だ。


「この隙間、私なら頑張れば入れると思うんです」

「いや、しかしもし崩れたら……」

「大丈夫です。さっきロケーターで見た時、岩はしっかり噛み合ってて、私が出入りしたくらいじゃビクともしない感じでした!」


 うーむ、この奥に辿り着けたとしても、そこで何かあったら俺は何も出来ないしなぁ。


「今こそ師匠に恩返しする時だと思うんです。お願いします!」


 ええ娘や! 一瞬でも何か企んでるんじゃないかと疑った俺が馬鹿だった!


「開拓者心得その3。目標は高く、夢を忘れるな! 初めてのクエストだ。やれるとこまでやってみろ!」

「ありがとうございます!」


 移動の邪魔になりそうな装備を外して靴も脱ぎ、ハンドガンにもすべて弾を装填した状態でノアは隙間に滑りこんでいった。こんな時ペチャパイは便利だなと不謹慎にも思ってしまった俺である。


「師匠、到着しました!」


 岩の隙間からペンライトを振り回してるノアが微かに見える。タイツなど所々破けているようだ。そそるじゃないか!

 早速ロケーターを使って流れなくなった滝上を調べるノア。


「岩盤の向こう……何か居ます。凄く……大きいです……」


 嫌な予感しかしない。


「刺激しないように静かに戻ってくるんだ」


 この惑星には人智を超えた巨大生物が存在する。知能の低い原生生物が敵意を向ける要因は大きく分けて二つ。食べるためか縄張りや身を守るためのどちらかだ。


「もう遅いかもです……」

「来る方向はロケーターで見えているな? ミラーを使え!」


 使い終わったシリンダーを手動で交換し、トランスレイターを構えるノア。

 俺もソードライフルを構える。ダブルアクションで二つのETSを同時起動する。オーバーロードってやつだ。

 ノアに時間を稼いでもらってる間に、イチかバチか逃げ道を作る!


『ビルドアップ、アクティブデバイス。シューティングフォーム』


 例によってコンバットスーツで変身し射撃体勢を取る。

 奥で落盤が始まっている。こちらまで振動が伝わってきた。


『ビルドアップ、アクティブフォース。ミラーシェード』


 ノアが作った鏡を見て、岩を砕きながら現れた巨大生物がびっくりし方向を変える。

 しかしそれで危機は終わらない。その巨大生物が暴れたせいで発生した落盤が彼女を襲う。


『ビルドアップ、アクティブデバイス。ライトニングブラスト』


 ノアが押し潰されそうになる瞬間、俺の放った粒子砲が前方の岩盤ごと落盤を消し飛ばし逃げ道を確保する。


「今だ、走れ!」


 粒子ビームの射角を上げ、その下をノアが全力で駆け抜ける。洞窟が崩れ始め、襲い来る落石からノアを守る。

 俺と彼女とのバージンロードだ、塞がせるものかぁ! そして俺はノアと添い遂げる!

 しかし願いとは裏腹に粒子砲の光が消えインスタントビルドされたスーツも解除される。

 ダメだ、足りなかった! ノアに落石が襲いかかる。

 俺は走った。無茶にも剣で岩を叩き割ろうと突っ込む。

 目覚めろ、俺の秘められた力!

 俺の目がカッと見開かれる。


 しかし何も起きなかった!

 だがその瞳に彼女の背後から轟音と共に迫って来たものが映っていた。……水だ!


 激流に飲み込まれ俺達は洞窟から吐き出された。

 見上げた空にはいつか見たワームのような巨大生物が舞っていた。あいつの寝床になっていたのか。

 濁流が俺とノアを引き離していく。彼女が手をのばそうとしているのが見えたが、視界が悪くてすぐに見えなくなった。

 ふっ、愛に溺れるのも悪くない。俺はカナヅチだった。




 どれくらい気を失っていただろうか。川のせせらぎが聞こえる。

 何か柔らかいものが唇に……。ま、まさかこの感触は……!?

 目を開けるとノアの顔があった。彼女は俺が目を覚ましたのに気付くと、唇を離して抱きついた。


「良かった、師匠! このまま目覚めなかったらどうしようかと!」


 天国は現実にあったんだ。目覚めてよかった!

 美少女とのファーストキスによって、俺はクライマックスを迎えた。


「……結婚しよう!」


 ハッピーエンドが俺を待っている!


「し、師匠……」


 モジモジし出したノアを見て、俺はいい予感しかしなかったね!


「私にはずっと叶えられなかった夢があるんです。それは”結婚すること”……」

「ということは!?」

「ダーリンって呼んでいいですか?」


 来たぁぁぁ! 春が来たぁぁぁ!

 フラれ続けてン十年。長かった……、実に長かった! 心の闇が晴れていく。世界に光が満ち溢れていく! 現実がこんなに美しいなんて!


「よし、そうと決まれば結婚式をあげよう! すぐにあげよう!」

「はいっ!」


 大急ぎでマイフォートレスに戻って兄者に報告すると「異存ない」とだけ呟き、再び研究室に引き篭もっていった。

 さすが兄者、まるでこうなることを予見していたというのか。そう思えるくらい兄者は至って冷静、いつもどおりだった。

 川が復活したことでクエスト報酬が上乗せされる。ノアと話し合って結婚式費用にあてがうことにした。


「ダーリン、エルドラードに着いたらお父様に会っていただいてもよろしいですか?」

「OKOK! 例え反対されても駆け落ちする覚悟も完了している!」

「嬉しいです、ダーリン!」


 どんなお義父さんが現れようと負ける気しないね!




「君がカサハラ・リューク君か……」


 いかついお義父さんを想像していたら、くたびれた小太りのおじさんが現れた。

 エルドラードの周囲に出来たフォートレスの集落。お義父さんは居てもたっても居られず、わざわざ開拓野郎達の溜まり場までやって来たのだ。

 夕焼けの荒野にデッキチェアを並べ、俺達は向かい合って座った。俺の隣にはノアが座っている。

 お義父さんはくたびれてはいるが富豪特有のオーラを発していた。やはりノアはいいとこのお嬢様だったのだ。


「私の勝手なわがままだと言うことは十分承知だ。しかしこの縁談、なかったことにしてくれないか?」


 やはりそう来たか。だが、俺は金より愛を取る!


「残念ですがお義父さん、僕はもうノアさんと切っても切れない運命なのです。あの夕日を見て下さい」


 エルドラードの背後で海に沈みゆく夕日を指差す。海面には綺麗にもう一つの夕日が映っている。


「地平線を境に並ぶあの夕日のように、二人は出会ってしまった。そして共に消えるまで決して離れることはないんですよ!」

「一周すれば離れるじゃないか!」


 お義父さんが反論する。くっ、手強い。


「君のためを思って言ってるんだ。もっとよく考えなおしてくれ。この通りだ!」


 お義父さんが土下座し、その禿げ上がった頭に夕日が反射する。うおっ、眩しっ!


「必ず後悔することになるぞ……。そのとき悲しむ息子の姿を私は見たくないのだ!」


 なぜそこで関係ない息子の話が出てくる? 

 不穏な空気が流れる。まさか……。


「いい加減にしてください、お父様。ダーリンは私が男でも結婚してくれると言ってくれたんです!」


 ……え? 


 ……聞いてないし!


 抱きついてきた隣の美少女をよく見る。どう見ても女だ。こんな可愛い娘が男であるはずがない。

 だが……確かめねばなるまい……。


「あんっ。もう、こんな時にダーリンったらぁ……」


 照れながら内股になるノア。

 俺はこの手に掴んでしまった……あってはならないものを。小さかったが確かにアレはそこにあった。


「やはりそういう趣味なのか……」


 お義父さんが俺の『行為』を見て、がっくり項垂れた。

 ち、違う。こんなはずじゃ……。


「ノア! どうして僕じゃダメなんだ!」


 そこに突然乱入者が現れた。高貴な服に身を包むいかにも王子様風の美青年だ。


「レイ……」


 表情を曇らせ、呟くノア。


「こんな変態っぽい男に惹かれるなんて……」

「ただの変態じゃないわ! こんな私でも別け隔てなく愛してくれる心優しい変態よ!」


 置いてけぼりな展開に脳の処理能力が追いつかない。俺は貶されているのか褒められているのか……。


「貴方よりずっと情熱的で、貴方なんか足元に及ばないくらい強いわ! 心も身体も貴方は敵わない。私を置いて逃げ出した癖に……、今更恋人面して現れないでよ!」


 何? 何なの、この修羅場。

 ただならぬ雰囲気に通りすがる開拓野郎共が足を止め様子を伺う。いつの間にかギャラリーが増えちゃってる。


「……僕はもう逃げない。リューク君と言ったね」


 敵意剥き出しの王子様の凍てつく視線が俺に向けられる。


「君に決闘を申し込む! 僕が勝てばノアから身を引いてもらう! 負けたら潔く僕はノアのことを忘れよう!」

「望むところよ。ダーリンが……、師匠が負けるはずないんだから!」


 かくして俺はレイとかいうイケメンと決闘することになった。




「さぁ張った張った! 愛する者を賭けた決闘の始まりだ!」


 夜のエルドラード郊外広場はならず者達の盛り場でもある。俺達はそんなロクデナシ野郎共のギャンブル対象にされていた。


「おい、あの兄ちゃんまさか……女なら乳児も立ち上がって逃げ出すフラグブレイカー……」

「あのマッドサイエンティスト、グランドゼロを兄に持つと言う……?」

「フラれた思い出は億千万、エターナルウィンターじゃないか!」


 俺と兄者も有名になったものだ。それを知ってか知らずか、賭け率は圧倒的な偏りを見せていた。


「結婚式費用をすべてダーリンに賭けました! 私、信じてますから!」


 済んだ瞳で俺を応援する美少女、ノア。ああ、なんて可愛いんだ。

 だが男だ。いや、男だが美少女なのか? 分からなくなってきた。


「僕もこの試合にすべてを賭ける。僕の剣で必ずノアを幸せにしてみせる!」


 レイがキザったらしく剣を天に掲げ宣言する。その様に少数の女性ギャラリーから黄色い声援が上がった。


『うぉぉぉ! イケメンなんかブッ○せぇぇぇぇ!』


 圧倒的支持率! そこには非モテ対イケメンの構図が出来上がっていた。

 もう男とか女とか関係ねぇ。俺から何もかも奪っていくイケメンが気に食わない、ただそれだけだ!


 俺も抜刀し試合開始の合図を待つ。ルールは下に着込んだ相手のラバー状バリアスーツを先に破った方が勝ちである。

 カーン! ゴングが鳴る。

 速攻でラッシュをかけ一気に追い詰める。いくらか剣戟を弾いてはいるが防ぎきれず、レイの高そうな衣装は瞬く間に切り刻まれていく。

 大衆の面前で、愛する者の前で、無様な醜態を晒すがいいわ!


「くっ、強い……!」


 レイは防御するだけで手一杯だった。一旦仕切り直そうと、奴は大きく飛び退いて距離を取った。

 力の差は圧倒的。俺は勝利を確信した。

 だが、それでいいのか……?


「この身体はもうダーリンのもの。私ならダーリンのどんな変態行為にも耐えてみせます! だから……勝ってください!」


 ノアの言葉が一滴の雫となり、心の水面みなもに波紋を広げていく。何かの境地に至った気がした。

 もう性別は関係ないんじゃないかな? 好きになった相手がたまたま同性だった。それだけである。

 悟りを開いた俺は理性を捨て、性別を捨て、ただの野獣と化した! 俺はノアで童貞を捨てる!


「きゃあああ!」


 鋭い突きを受けたレイがダウンした。どこかから湧いた女の悲鳴が響く中、弾かれた剣が乾いた音を立て大地を滑る。

 フゥ……フゥ……トドメダ……!


「立つんだレイ君! 君しか居ないんだ! 私に……孫の顔を見せてくれぇぇぇ!!」


 叫ぶお義父さん。だが俺の勝ちだ! ノアはもらっていく!


「……! ば、馬鹿な……!?」


 上着を切り裂き露出したレイのラバースーツにはおっぱいがあった。その谷間が俺の無意識に働きかけ剣を止めたのだ。

 豊乳白刃取り!?


「はぁっ!」


 剣を拾い、レイの反撃が開始される。

 女と分かった瞬間、急にレイが可愛い美少女に化けた。こんな美少女、攻撃出来るわけがない……っ!

 為す術もなくボコボコにされる俺。

 何だこれ、何だこれ、何だこれぇぇぇ!?


「僕がノアを守るんだぁぁぁ!」

「レイ!」


 その瞬間、俺の時間が止まった。

 ギャラリーに居たノアの瞳にはレイの姿だけが映っていた。俺はアウトオブ眼中?

 あれ? この二人お似合いのカップルだったんじゃね? もしかして……痴話喧嘩に巻き込まれただけ?

 俺はもはや……ピエロっ!


 ――そして時間は動き出す!


 バリアスーツの耐久値が限界を超えはじけ飛んだ。半裸になって俺は地に伏した。


『しょ……勝者、レイ!』


 審判が俺に敗北判定を下した。


「あの師匠を倒すなんて……。そこまで私のことを……!」

「君には僕が頼りなく見えるかもしれない。でももう二度と逃げない。嫌いなトマトも克服してみせる!」

「いいえ、トマトのない生活なんて考えられない、と逃げ出してしまったのは私の方。でも困難に立ち向かう勇気と知恵を貴方と師匠が教えてくれたわ。私、貴方が食べやすいトマト料理を考えてみせる!」


 歩み寄るノアとレイ。そして静かに口付けを交わした。


「師匠、ありがとうございました。私はレイともう一度やり直してみせます。師匠の想いに応えられず申し訳ありません。でも凄く嬉しかったです。私にとって師匠は二番目に大切な人です! この御恩はいずれ必ず……」


 そう言ってノアは父とフィアンセと共に夜のエルドラードへ消えていった。

 男に惚れて男にフラれた。この救いのなさは一体……。


 神は言っている。開拓者リュークよ、心得を自ら忘れてしまうとは情けない。

 開拓者心得その1、己を知ること!

 初めてのリア充体験に浮かれて、俺は本当の自分を見失っていたようだ。

 開拓者心得その2、情報収集が大事!

 結婚の前にエッチの相性を確認しておくべきだった。

 開拓者心得その3、目標は高く夢を忘れるな!

 俺の夢はハーレム。美少女だけの国の王になることだ!


 男に欲情していた記憶が走馬灯のように蘇る。

 ノアに行った数々のセクハラ。興奮して鼻血も出したっけ。ファーストキスを奪われ、結婚の約束まで……。

 アッー!!

 あの時、確かに俺は男でもいいと思ってしまった。でも俺は女の子とエッチがしたいんだぁぁぁ!


 ……刻まれたっ! 深く、癒えることのないトラウマをっ! ○して! いっそ○して!


「よぉ、あんちゃん。覚悟は出来てるんだろうな?」


 気が付くと屈強な野郎共に囲まれていた。俺が勝つと賭けていた奴らだ。


「どうも納得いかなくて腹の虫が収まらねぇんだ。少しばかしストレス発散に付き合えよ」


 いやぁぁぁ、やめてぇぇぇ!

 俺は慰みものとしてボロ雑巾にされた。あんまりだ……。


「あんたを信用しなかったおかげで儲けさせてもらったわ」


 聞き覚えのある美少女の声。

 苦痛に耐えながら顔を上げると、転がってる俺の前に仁王立ちしているメイドと座って覗き込んでいるメイドが居た。シャルネとイリィナの百合美少女コンビだ。


「リュークさん、少し貴方のことを誤解してました」


 え、どういう意味で?

 そう言いながらイリィナは優しく血を拭いてくれた。天使だ! 天使がここに居るよ!

 にやけているとシリンダーが顔面に飛んできた。


「医療キットよ。これくらいならサービスで恵んであげる」


 ぶっきらぼうに答えるメイド姿のシャルネ。冥土の土産か……。


「その服、気に入ってくれたんだな」

「……」


 ポッと頬を赤らめ押し黙るイリィナ。


「か、勘違いしないでよ! イリィナとお揃いだから着てあげてるんだから。この変態!」


 シャルネはツンデレた。


「もうっ! 行くよ、イリィナ」


 好感度の上がった二人の美少女を見送りながら、俺は二度と間違いが起こらないよう心に固く誓った。

 まな板は疑ってかかるべし!

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