ラッシュフロンティア
碧るいじ
第1劇 フェイタルコンビネーション
人類は新天地を求めて宇宙へ進出した。
やせ細り住みにくくなった地球を捨て、豊富な資源が眠る惑星に新たな文明を築きあげるというビッグプロジェクト。
ますます繁栄する人類の勢いはとどまることを知らない。安住の地を見つけたにも関わらず更なる新天地を求める旅に終わりはなかった。なぜなら新天地開拓事業にはロマンがあったからである。
銀河フロンティア条約にのっとり開拓者には富と名誉が贈られる。その星の王となり国を持つことも夢ではなかったのだ。一攫千金を求める者、開拓王を目指す者、ロマンを追い求める馬鹿野郎達は後を絶たない。
これは欲深き銀河級大開拓時代を駆け抜けた、俺と兄者と美少女達のハーレムサクセスストーリーである!
「怪我はないかい、お嬢さん」
肉食系ストレンジアニマルを瞬く間に三枚に卸し、俺は助けた美少女に運命の出会いを求めた。
ある日森の中、熊さんのような原生生物に追われていた娘はボインだった。ときめきの予感に俺のハートはマッハで有頂天になる。
しかし早まってはいけない。焦っては負けなのだ。
取り出したハンカチで血糊の付いた長剣と銃を兼ねるソードライフルの刀身を拭き取る。あくまで紳士的に、手は添えるだけ……。カチン、と静寂に納刀する音が響く。
彼女も俺と同様、開拓業を生業とするパスファインダーのようだ。
ハットに革手袋、ブーツを着用したカウボーイのようなファッションの中に女の子らしさを強調させるミニスカート。時に危険を伴うパスファインダーは、戦闘行動も想定した装備でクエストを遂行するのが基本。小柄だがミニスカートから覗く極上の両フトモモには、ハンドガンと短刀が一体化した立派な二丁のガンブレードが下げられていた。
「ああ、もう! 余計なことを……っ!」
金髪の三つ編みツインテールを振り回し、キュートな顔がこちらを向く。童顔だがおっぱい的には立派な大人。17、8歳くらいか?
その瞳には怒りの炎が灯っていた。ファーストインプレッションは完璧だったはず……。だがそんな目で見つめられるのも悪くない。
「よくも捕獲対象をバラしてくれたわね! せっかく生け捕るためにトラップまでおびき寄せたのに!」
あ、そういうことか。
「あんた、ランクは?」
「Eですが……」
格下で年下にも見えるが、彼女の鋭い剣幕に思わず敬語になってしまう。
ちなみにランクとは開拓クエストの成績に応じて管理局から認定される
「あたしはCランク。あんたより遥かに経験豊富なの。わかる?」
胸ぐらを掴んで俺を強引に引き寄せる。
その豊富な経験値でボインを使っておいしい思いをさせてくれるのかと思いきや、顔面に押し付けられたのはライセンスだった。確かにCランクだ。
すぐさま飛び退き、定評のある土下座モーションを披露した。
「申し訳ありません、調子乗ってました!」
こんな年端もいかない美少女が俺より2ランクも上とは……。ここはもうトコトン下手に出るしかないじゃないか!
「何なりと罰を受ける所存であります! 出来れば踏んでくださると大いに反省出来ます!」
踏まれやすいよう出来る限り体勢を下げ、素早く彼女の足元に忍び寄る。
パンツを拝みながらご褒美を受ける覚悟は完了しております! 転んでもただでは起きないのがこの俺、カサハラ・リュークなのだ!
「何、このキモい生き物……」
彼女はその艶めかしい片足を上げる代わりに、ガンブレードにシリンダーを装填しETSを起動した。土下座している俺の周囲に光の軌跡が現れる。
エレメンタルトランスシフト――通称ETS。早い話が『科学の魔法』だ。
詳しくは兄者の専門だが、マギオニウム鉱脈から吸い上げたマギオンと呼ばれる粒子を触媒に、仮想空間で構築した力場や物質を現実にダウンロードし実体化(ビルド)する生産技術だ。
「失せろ」
『ビルドアップ、アクティブフォース。エアバースト』
ガンブレードがシリンダーに刻まれた呪文プログラムに機械音声で応え、科学魔法を発動する。
実体化されたのは人間を吹き飛ばすほどの突風。俺は空高く舞い上がり……星となった。
だが俺は忘れない。発動の瞬間あらわになった縞パンの色、形を!
――この惑星の空も青い。
人間が暮らすのに適した地球型惑星は数あれど、この『アマリリス』はテラフォーミングが殆ど必要なかったくらい地球によく似た環境で、開拓競争率が高い惑星のひとつだ。
生い茂る木々に引っ掛かり、雲の形がさっきの極上パンツに似ているなと眺めていたところで兄者からの短波通信が入った。
『よく分からないがショートカットに成功したようだな。目標地点はもうすぐだぞ』
もう一度言おう。転んでもただでは起きないのが俺である。
ベルトに固定した命綱を頼りに断崖絶壁をゆっくり下降する。
大地にぽっかり空いた巨大な穴の底は肉眼では見えない。昼間だというのに薄暗いのは深い樹海に囲まれているからだ。
現在遂行中のクエストはこの先に設置されたオービタルスポットの点検と応急修理。オービタルスポットとはプラントを中継し、マギオン粒子を供給する装置である。それが何らかの原因でオフラインとなったためETSが使えず、こうして地味でアナログな手段を強いられているのだ。
ETSテクノロジーは開拓惑星で生活するための必需品。工業や農業などの生産活動はもちろんのこと、一般家庭の生活にまで広く利用されている貴重なライフラインだ。マギオニウムプラントを中心に都市が建設され、中継するオービタルスポットを設置していくことで開拓は進む。
ただ入植が進んでいない未開拓エリアでは、自然現象や原生生物が原因でスポットが故障することもある。だからこそ俺達のような職業が成り立っているわけだが。
秘境ゆえに生態調査クエストも人気があるのだが、ビギナーが迂闊に手を出して危険生物に襲われることも多い。さっきのカウガールなら大丈夫だと思うが。
「せっかくお近づきになれたというのに……残念だ」
俺には夢がある。それは開拓王となりハーレム国を建国することだ。
俺だけの、俺だけによる、俺だけのための美少女の国。彼女は俺の最初の国民になるかもしれない人だったのに!
「やはり定番のツンデレ枠を最初に迎えたかったなぁ」
未練がましくさっきの縞パン少女とのデレイベントをシミュレートする。妄想を妨げるものは何もなく、降下作業は順調に進んだ。
噂ではこの大穴の底にマギオニウム鉱脈が眠るダンジョンがあるらしいのだが、人気がないということはガセネタだろう。
『あと2ヌードルほど下った所にスポットを隠した横穴があるはずだ』
ナビゲート担当の兄者からの通信。2ヌードルとは俺達が主食にしているブロックヌードルの出来上がり時間から考えて2個分という意味だ。データではなく感覚で感じろと言う兄者の独特な表現である。
時折足元から冷たい風が吹き抜ける。一体どれくらいの高度があるのか知らないが、落ちたらまず助からないだろう。
何もこんな危険な場所に設置しなくても……。容易に立ち入れない場所だからこそ意味があるのは分かっているが、現在の状況のように不具合が発生したときに困る。
装備の充実した金持ちパスファインダーなら、ETS機関に頼らない飛行ユニットでちょちょいとやってのけるだろう。だがそんな金持ちはより報酬の高いクエストに挑む。こういう雑務は駆け出しパスファインダーの登竜門なのだ。
しかし俺は知っている。どんな開拓王も地味な冒険をきっかけに大成功することを!
そろそろ問題のポイントが近づいてきただろうか。兄者に確認しようと思ったとき、ちょうど向こうから通信が入った。
『弟よ、緊急事態だ。何かがそっちへ飛んでいった』
何かって何だ? 感覚的過ぎて分からないので頭上を見上げる。
見たことないムカデのような巨大原生生物が長大な胴をうねうねくねらせながら空を飛んでいる。そして何か落っことした。まさかウン○か!?
「……ぁぁぁぁっ!」
兄者、空から女の子が!
俺の美少女センサーが反応し、条件反射で崖の壁面を駆け走る。命綱のロックを緩め、勢いをつけて落下点目指し大ジャンプ!
この際ラッキースケベは二の次だ。どこでもいいから掴むのだ!
「届けぇぇぇ!」
女の子も気付いたのかこちらに手を伸ばす。しかし上手く姿勢を制御出来ず、その手が俺に届くことはなかった。
「ラッキースケベ、二件目ゲットぉ!」
俺の手は彼女のホットパンツを掴んでいた。ズリ下がったホットパンツの隙間から純白の聖三角形がその神々しきお姿をお披露目している。
イラストがプリントされた子供パンツを隠すことも出来ず、涙目になりながら今や唯一の命綱となったホットパンツが脱げないよう必死に握りしめる彼女。
俺はこの日、二組目の熊さんと美少女に出会ったのだった。
「あ、ありがとうございます……」
少女は一言礼を述べると、それっきり顔を真っ赤にして沈黙してしまった。いいね、その反応。
俺達は崖の途中にぽっかり空いた横穴で一息ついていた。落ち着いたところで改めて下心半分に彼女を観察する。
あまり運動が得意そうに見えない華奢な身体。背丈とおっぱいサイズから年齢は16歳くらいだろうか。その程度の歳になれば自立してパスファインダーとなる者は多い。俺がデビューしたのもその頃だ。
ポケットが沢山ついた作業用ジャケットにホットパンツ、白いシャツは汗で濡れて薄っすらとブラが透けているが、服装自体は地味で飾り気がない。だが薄汚れてはいるものの本人のレベルはかなり高い。
肩で切り揃えられたサラサラの黒髪、柔らかそうな小さな唇、幼さの残る潤んだ大きな瞳。見え隠れする熊さんパンツの前に出来た黄色い染み跡も見逃せない。
俺の視線に気付いたのか、彼女は「ひっ」と短い悲鳴をあげて、ぺたん座りのままホットパンツの裾を持ち上げた。さっきの出会いイベントでベルトが切れ、前のフックとチャックも壊れてしまったのだ。
神は言っている。吊り橋効果を利用してこの娘をギルドに加えよと。
「俺の名はカサハラ・リューク。見ての通り恋人募集中のフリーパスファインダーだ。君の名は?」
「え、あ、その、えっと……。タンポポ……でいいです……」
一瞬躊躇いながらも、彼女はそう答えてくれた。
タンポポ……なんてエキセントリックな名前だ。素朴ながらも可憐な野に咲く花のよう。まるで君そのものじゃないか。
「ではタンポポさん。俺達は一生この狭い穴の中で二人っきりで暮らすことになるかもしれない。もし救助が来て助かったら俺と結婚しないか?」
「えっ、なんで……!?」
座ったまま後退りするタンポポさん。ふふ、ういやつめ。
「この通信も出来ない極限状況で生き延びるには、夢と希望を持つことが大事なんだ」
「悪夢と絶望にしか聞こえな……」
ズボンを押さえながら突然立ち上がり、さらに後退する彼女。そして首を振りながら無言で俺を指さす。そこまで拒否しなくても……。
俺の胴に何かが巻き付く。何かのケーブルのようだと認識すると同時に穴の外へ放り出された。
「ほわぁぁぁ、何だぁぁぁ!?」
崖を落下しながら襲撃した物体に向かってワイヤーアンカーを射出する。ワイヤーが複雑な関節を持つその物体に絡み、宙ぶらりん状態で俺は九死に一生を得た。
こいつは……トレイルスウィーパーか。人工物を取り込むことで成長していく機械の化け物だ。俺も数えるほどしか遭遇したことがない。
あらゆる惑星で確認されているエネルギー生命体でなぜか人類のみを襲う。動力源であるエネルギー自体が意思を持つなんて信じられない話だが、実際に存在するのだから信じるしかない。発生メカニズムや詳しい生態は明らかになっていない。
大きさや形は取り込んだものによって異なる。目の前に居るのは大人十人くらい乗れそうな胴体とコンパスのような多脚を持つクモのような姿をしていた。
杭のような脚を突き刺しながら崖を移動するスウィーパー。底にあると噂される洞窟からやって来たのだろうか。
「こっちだ!」
愛用のソードライフルを構え射撃を開始する。命中するが通常弾では致命傷を与えられない。対装甲兵器用のヒート弾に換装したいところだが、あいにく武器とワイヤーで両手が塞がっている。とりあえず今は注意をこちらに向けることが先決だ。
狙い通りヘイトを奪うことに成功し、スウィーパーがこちらにターゲットを切り替えて崖を下り始めた。
ふふ、バカめ。お前にぶら下がってるから追いつけるわけないだろう。
まさに馬の鼻先に人参をぶら下げた状態。スウィーパーの行動パターンは単純、つまりバカだ。このまま底まで誘導して彼女から引き剥がす!
「タンポポさん、あんたエンジニアだろう?」
「なぜそれを!?」
さっき彼女を舐めまわすように視姦していたとき、
「その近くに故障したオービタルスポットがあるはずだ。そいつを大急ぎで復旧してくれ」
それさえ復旧出来ればETSが使用出来るようになり戦力は大幅に増強される。底にたどり着いた時戦う力が必要だ。
「スポットはここにありません、背中です!」
背中?
「スウィーパーの背中です! 取り込まれてます!」
なんてこった、不具合の原因はそれだったのか。ETSなしでどこまでやれるだろうか。
「兄者、トレイルスウィーパーが現れた。スポットは取り込まれている。アドバイスを頼む!」
通信は圏外ではない。彼女を口説くための芝居だ。俺は戦闘が始まる前に兄者に名案がないか尋ねる。
『説明しよう。トレイルスウィーパーは破壊することなくそのまま機械を取り込む。ほぼ無傷であるなら切り離して再起動すればいい』
なるほど、なんとか傷を付けないようにスポットを奪うことが出来れば勝機が見える。
『絶望的な状況こそ素敵な潜在能力の覚醒を信じるのだ! 遠慮はいらん、暴走しても私が止めてやる!』
兄者は優秀なエンジニアでありながら精神論が大好きだ。ゆえに地雷でMADな中二病患者というレッテルが貼られている。
だが結局のところ思い込みが成功の近道であることを俺は兄者から学び、そして痛感している。
暗闇に目が慣れ薄っすらと谷底が見えてきた。反動をつけて大きく振り子運動をした後、スウィーパーから遠ざかるようにワイヤーを切り離した。
着地と同時にヒート弾を装填、スポットを傷つけないように脚部を狙って発砲する。
脚の一本に命中。爆発と共に高速、高温のメタルジェットが装甲を貫く。
しかし一瞬よろめいただけで破壊には至らなかった。一番脆そうな部分だが結構頑丈なようだ。
トレイルスウィーパーとの接近戦は危険だ。なんとか近づかれる前に機動力を奪って背中に取り付き、スポットを切り離したい。
素早く次弾を装填し発射。なんとか脚を一本吹き飛ばせた。しかし八本持つ脚の一本を奪ったところでたいした影響はない。
まるで意に介さない様子で俺を再補足し突撃するスウィーパー。地面を穿ちながら槍のような鋭く尖った脚が迫る。
俺はソードモードで突進をいなしながらギリギリかわした。勢い余ってスウィーパーが壁面に激突する。
その隙を見逃さず近距離射撃で脚を二つ吹き飛ばすと、スウィーパーはバランスを崩してダウンした。すかさず背中に飛び乗ってスポットと繋がっているケーブルの切り離しに取り掛かる。
切断するごとに緑の光が漏れ出す。これがコアから供給されるトレイルスウィーパーの動力源であり魂なのだ。
しかし触手のようなケーブルに足元を捕まれ俺は再び放り投げられた。空中で回転し受け身をとって着地する。
その間にスウィーパーは吹き飛ばされた自身の脚を取り込んで再生を始めていた。
「ヒート弾はあと一発しかない。さぁて、どうするか……」
そのときワイヤーで急降下して来た影がスウィーパーの背中に取り付いた。
舞い上がったミニスカートから覗くそのパンツには見覚えがある。あれは森の中で最初に出会った美少女の縞パンだ!
彼女は二刀の華麗なガンブレードアクションであっという間にスポットを切り離した。
重量のある頑丈な筒状のスポットが轟音を立てて転がり、さらに降下してきたタンポポさんがその再起動作業に移る。見事な連携プレイだ。
「リュークさん、今です!」
オービタルスポットとのリンクが復旧し、仮想構成体のダウンロードが可能になる。これでETSが使える。
ここは彼女の期待に応え、全力でいくべきだ!
「俺の最大最強の超必殺技で決めてやる!」
そして二人に惚れ直してもらう!
ソードライフルに備え付けられたETS起動装置のトリガーを引く。ボルトアクションに合わせてシリンダーが薬莢のように連続で排出された。
オーバーロードと呼ばれる一度に三回の連結ボルトアクション、今から放つ一撃はそれほどスペシャルな一撃だ。
「浪漫執行! ファイナルアタックETS起動!」
オービタルスポットを経由し光の軌跡が魔法陣回路、トランスサーキットを形成する。
『ビルドアップ、アクティブデバイス。クロスコンバットフォーム』
機械音声がプログラムの進行状況を報告する。それは俺の全身を包み込むコンバットスーツとなった。
現在同時に三つのプログラムが進行中である。これは一つ目。
二刀流カウガールの四肢が触手ケーブルに封じられ、パンツ丸出しで逆さまになる。
むぅ、うらやまけしからん!
『ビルドアップ、アクティブデバイス。ライトニングスレイヤー』
ソードライフルに増設ユニットがダウンロードされ装着される。これは光学兵器の発振器だ。
その間にタンポポさんまで捕まった。ベルト代わりに縛っていたワイヤーが解けてズボンが落ち、熊さんパンツが丸見えになる。
いたいけな少女まで……許さん!
発振器を構えると同時に光の刃が形成される。
「シースルースキャン!」
スキャンニング結果がコンバットスーツのバイザーに表示され敵のコアをロックオンする。同時に触手プレイでエロいことになっている二人の透視姿を保存した!
「エターナルウィンター……」
トレイルスウィーパー目掛けて背部ブースターを吹かし、高速接近する。
「……センチメンタルハートブレイカァァァ!」
伸びる光剣がコアを刺し貫く。
火花を散らしながらスウィーパーがガクガクと震え始める。奴の動力源であり魂であるエネルギー体が失われていってるのだ。
『ビルドアップ、アクティブフォース。デコンポーザー』
剣を引き抜き、最後のプログラムが起動する。
「何ぴとたりとも俺のハーレムストーリーは邪魔させねぇ」
背を向けインスタントビルドされた各種デバイスが解除されると同時に、トレイルスウィーパーは分解されて光る塵となった。
決まった……。これで二人のハートもゲットだぜ!
「どうしてくれようかしら、この変態……」
荒野を駆ける自家用開拓移動要塞『キャンピングフォート』の艦内。スマキにされた俺が転がされている。どうしてこうなった。
「もうお嫁に行けない……」
タンポポさんが半泣きで呟く。毛布に身を包む美少女二人は裸だった。
「心配はいらない。俺達はもう……家族だろ?」
「……あぁん?」
ガンブレードを装備していた(過去形)少女が転がっている俺の後頭部を踏みつける。見えそうな状況なのに見えない!
「あんな強力な武器があるなら、なんでさっさと片付けないのよ! 変身意味あんの!? あたし達の装備まで分解すんなっ!」
「あ、あれは三つ同時でしか起動しない仕様なんだ……」
「何、そのチートで無駄なプログラム! マヂ最低! 信じらんない!」
げしげしと後頭部を踏み続けられる俺。なんというご褒美!
「無駄ではないぞ」
いつの間にかキャンピングフォートを自動運転に切り替えた兄者がその様子を見届けていた。二人の少女が赤面する。
兄者は常にゴーグルをかけており、顔は半分見えないが長身のイケメンだ。
「浪漫だよ……」
だが引き篭もりの中二病患者だ。あのプログラムは兄者の自信作である。
移民者達の開拓拠点であるシティーフォートレス。それは街を内包した巨大な移動要塞である。
俺達はそんなシティーフォートのひとつ、シャングリラに到着した。
ポートに停めたマイフォートレスの中で二人の着替えを待つ。ちなみに自腹で俺がチョイスし街で買ってきた服である。
「……ほんとあんたって最低ね。死にたいの?」
着替え終わり、二人のメイドさんが姿を現した。さっそく元カウガールがツン発言を披露する。
「いやぁ、偽装に関する知識がないので、どこでどう買えばいいのか……」
彼女の胸はぺたんこに潰れていた。
「そこじゃねぇよ、今死ぬか?」
殺意の視線が俺に突き刺さる。
「私はこういう服持ってなかったから、ちょっと嬉しいかも……」
タンポポさんは素直だ。二人共予想通りのリアクションで俺も嬉しいよ。
「取り敢えず今回のあんたのクエスト報酬は全額いただくわよ。言っとくけどこれっぽっちじゃ、あたし達の装備を買い直すことなんて出来ないんだからねっ!」
元カウガールが愚痴をこぼす。フラグかな、これは。
「ただ……相棒の命を救ってくれたのは事実だし、これでチャラにしてあげる。ありがたく思いなさい!」
デレ始めた! やったぜ、もう一息だ!
「シャルネちゃん……」
「ごめんね、イリィナ。あたしが居ないと何も出来ないなんて言っちゃって」
手を取り合う二人。ん? フルネームがイリィナ・タンポポなのか?
「ううん、私の方こそごめん。シャルネちゃんに敵うわけないのに競争しようなんて意地張っちゃって……」
「もうあんな危険なことしちゃダメだよ? あたしの方こそイリィナが居ないと生きていけない……」
二人は抱きしめ合った。
あれ? 何だか雲行きが怪しくなってきたぞ。流れが変わる前に本題に入らねば……!
「それでですね。良かったら俺達のギルドに入りませ……」
「はぁ? 何言ってんの?」
元カウガール改め、シャルネが俺を睨みつける。ゴミムシを見るかのような冷たい目だ。
「あんたと一緒に居たら、あたしのイリィナが穢れるわ。もう二度とあたし達の前に現れないで。行きましょ、イリィナ」
「ごめんなさい、リュークさん。私達こういう関係なの」
イリィナがシャルネに駆け寄り、振り向いた彼女に飛びつく。
「ちょっ、人前で……」
唇と唇が塞がる。理性の飛んだ二人の濃厚な時間は数分続いた。
俺は哀しさと興奮の狭間で、欲情しながら言葉を失ったのだった。
手を繋ぎ寄り添い合いながら夕暮れの街へ消えていく二人。その姿を見送りながら俺は心の中のリセットボタンをそっと押した。
踏み出す方向を間違えただけだし! まだ地に着いてないからセーフだし!
これは俺のハーレム計画の第一歩ではなかったのだ!
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