第2話 「戦果の報告」

 レティアは困惑した表情を前面に出し、侮蔑ぶべつの言葉では無く、ただただ疑問を浮かべている。それもそのはず、春斗は彼女の目の前で土下座をしたのだから。なぜかと問われると、それは本人にしかわからない。だが当の本人である永近春斗は依然いぜん、土下座の体勢から動こうとしない。


「ま、魔王サタン……よね? 人違い、いや悪魔違いとかじゃないよね? でもそのマント……私が先ほど見たものと同じ。それに顔も。声も一致してるし」


 だがハルトは頭を上げない。正直なところ、この男は土下座していればどうにかなると思っているのだ。魔王と勇者の大戦があったことなど知る由よしもない。だから日本と同じように土下座で態度を示そうとしているのだが。


「――その体勢は首をぶった斬れと、そう言っているという意思表示と思ってもいいのよね?」


 レティアは流星の如き光り輝く直剣を春斗の頭上に掲げる。

 可憐な美少女と言っても、彼女は勇者なのだ。魔王ともなれば容赦はしない。


「ちょっ、まっ、待ってくださいお願いします!」


 地面に再度額を打ち付ける。先ほど打ち付けた時に割れていた額から再度出血をするが、今の春斗には命あってのものだ。


「何か理由があるの? まぁ理由があっても殺すけど。

 ……でも、私が戦っていた魔王サタンとは姿形、声すら一緒なのに、なんというか、その覇気が違うような気はするわね。なよっとしてて覇気が無さすぎ。あと口調が全然違う」


――ここで理由言ってもいいのか? いや悪いのは俺じゃないし。そうだよな。いや、でもな……。


「も、申し訳ないんだけど、俺はついさっき目を醒ましたばかりで、右も左もわからない状態なんだよ。そ、そそれにあんたと会ったってことも記憶も無いんだよ。だから、何? えと、マオウ? ナニソレワカリマセーン」


 つまり春斗が言いたいのは、自分は記憶喪失でレティアのことも、自分のことすら覚えていないということだ。言っている春斗ですら馬鹿らしくなる。こんなことで勇者を出し抜けると思ってはいなかったのだが――


「……そうね。先刻あなたを見たときは、あの時の魔王サタンから感じられた覇気がまったく感じ取ることが出来なかった。記憶喪失……その話は一理あるかも。魔王を殺すということだけを生業なりわいとしきたけど、記憶喪失の魔王となれば、私の一存で決めて良いのかもわからないわね」


 案外勇者はちょろかったようだ。


 レティアは一呼吸置き「記憶喪失か」と呟く。


「だけど、あなたが私の、いえ全種族間での殺害対象なのは未だに決まっていることだから。それで、王都まで同行を承認していただけると私は助かるのだけど?」


 レティアの提案は極めて正論なのだが、異世界に召還したての春斗からすれば、色々な事が一度に起こりすぎて脳が炸裂しそうになっている。

 春斗が異世界に召還されてからまだ一時間程度しか経っていないのだ。その一時間の間に異世界に転生、魔王との邂逅、そして勇者との邂逅かいこう。常人ではない春斗にとっては、胸躍るというよりもこの展開はさすがに疲れる。


「あ、あの。こ、殺さない?」


 恐怖心でいっぱいになっている春斗は片目を伏せながら、母の怒りを待つ子供のように顔を上げる。


「私はそんな殺人鬼じゃないわよ! だって人殺してないし! 悪魔だけだし!」


「ちなみに訊くけど、その悪魔を何体ぐらい殺した?」


「二千は軽く」


「もういいです、はい。あの連れて行くなら連れて行くで、さっさとしてくれると俺的にも心構えが、というかなんというか」


 春斗自身、精神的にもう参っていた。病んだというわけではなく、〝どうにでもなれ〟感が増しているのである。


「じゃあ、あっちに馬車を用意してるから前に進んで」


――なんか付き合いたてのカップルみたいでドキドキするな、うん。


 先程まではそんな感情は持ち合わせていなかったのだが、よくよく考えると超絶美少女が自分の後ろを歩いているのである。こんな胸躍る展開は生まれて初めてだろう。ただ一つ背中に剣を向けられているのが、春斗の妄想をぶち壊しにしているのだが。


「馬車が見えた。付き添いの者も待たせているのだけど、襲い掛からないでね?」


「襲いかかるか! 俺が死ぬわ!」


「ふふっ。あなたと私は後ろに乗ることになるから……へ、変な事したらぶった斬るからね!」


――いやいや、そんなモジモジしながら言われてもときめかないから。


 春斗が馬車に乗り込もうとした瞬間――


 突如、春斗の背後から爆発音が鳴り響いた。

 強烈な爆音と共に、立っていることもままならない程の大きな地揺れが起こる。


「なんだ!?」

「少しお待ちを!」


 刹那、レティアが外を確かめるべく、馬車から飛び降り疾駆する。


「距離は……それほど遠くはないか。確認作業をしたいけど、今は魔王を王都に連れて行かないといけないし……。後で部隊を派遣しよっか」


 レティアは、馬車に乗りなおすとメモ帳のような物に書き込む。


「ミミア、至急王都へ戻り次第、部隊を派遣しあの辺り一体を調査するよう伝えて」


 ミミアと呼ばれた少女は後姿ゆえに顔まではわからないが、つやの入った綺麗な黒髪からどことなく溢れる出す清楚感と物腰柔らかそうな声音で彼女が裕福な家庭の出身であることが伺える。


「かしこまりました、レティア様」


 ミミアが返事をし、馬車に乗り込む。

 そして馬車が出発した。







 途中、出発前の爆発以外には特に災難と言う災難は訪れず、

 馬車に乗り込み、数十分が経過した。


「あなたは本当に記憶がないの?」


 唐突なレティアの質問にも春斗は丁寧な答えを出す。


「あ、ああ本当だよ。目が覚めたらあそこでぶっ倒れてて、そこに君が来たんだ」


「そっか。やっぱり……魔……切……かな」

「え、なんだって?」

「なんでもない。後でもう一度あなたには眠ってもらうから」


――まじかよ。


 異世界に着たばかりなのに、勇者に連行された挙句、そのまま眠らされるってどういうことなんだ、と内心思いながらも、大人しく馬車に揺られる。


 直後。


 ――歪いびつな音を立て、馬車をけん引している馬の首から上、もっと言えば頭部が吹き飛ぶ。けん引していた馬が崩れ落ちたことにより、引かれていた馬車は意思を失ったかのように大きく横転する。

 車輪が地面を削り、そして今度はその車輪が外れ、凶器として襲い掛かってくる。レティアは起用に飛んできた凶器を剣で除外するが、横倒しになった馬車は派手にスピンし、轟音を立てながら乗組員を宙へ放り出す。

 一瞬のこの時間にレティアは状況を察し、ミミアとアイコンタクトを交わした後、跳躍し、襲撃者の応対をする。


対して春斗は生まれて初めて十メートル以上吹っ飛び、空中散歩をしていた。


「ぁぁぁああああああ!! 助けてくださいいいいいい!!」


 完全に春斗の存在を忘れていたレティアは咄嗟の判断が遅れる、地面を蹴り春斗に手を伸ばす。


「手を!」


「その必要は無い」


 レティアとはまた違う、凛とした声が響き渡る。その声の主は掴もうと虚空に手を伸ばす春斗を後ろから抱きかかえるようにさらう。


「魔王様、助けに参りました。位階十四眷属が一柱エリアス、及ばずながら助けに来た次第でございます」


 着地直後、春斗に頭を垂れ、報告をしているのはレティアとは対象的な鋼のような銀色の髪を纏まとい、長いまつげに縁取られた翠色すいしょくの大きな瞳は、この森の情景を写し出しているかと錯覚してしまう。

 漆黒のドレスとその上に着用している甲冑かっちゅうから伸びる手の肌は白く、まるで雪のようで、ちらちらと見える鎖骨が妙に艶かしく、それに加え濡れ光る唇によって妖艶さが増している。細い腕と細い足からは想像もつかないがこの少女こそ今しがた、馬の頭部を吹っ飛ばした張本人である。


「……えっと……」


 春斗は困惑しながらも、状況を飲み込もうと思考を巡らせる。馬車のもう片方の車輪がカラカラと回り、馬の死骸から流れる血が周囲に蔓延まんえんしている土の臭いと混ざり、言葉では言い表せないような異臭を漂わせている。


「位階十四眷属が一柱……エリアス、ようやく見つけた。討伐し損ねた魔王軍幹部七柱の内の一柱……。あなたも今ここで殺す」


「『も』つった!? 『も』っつったよな、アンタ!?」


 レティアは自らが持つ剣を顕現けんげんさせ、ゆっくりと腰を落とす。


「それには及ばん。今は引かせてもらうぞ、勇者」


 臨戦態勢のレティアとは打って変わり、エリアスは手に握りしめていた透明の石を宙に放り投げる。


「さらばだ」

「それは、転移石!? 待ちなさ――」


 レティアの言葉は最後まで春斗の耳には届かず、意識は遥か彼方まで連れ去られた。


 春斗は今まで味わったことの無いような、体中の毛穴が一気に開く感覚を味わい、その異物の感覚に慣れていない彼の身体は、余波に耐え切れるわけもなく、ぷつりと世界との交信を絶った。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 数十時間ぶりの感触を肌で感じ、春斗は目を醒ました。柔らかな肌触りとほのかな温もり――異世界に来てから春斗の体感時間では数日が過ぎているが、実際は数時間。だがその数時間の間でさえ、恋しくも思っていた日本での彼の生活に必需品だった物体。そう、ベッドと毛布である。

 だがベッドはベッドなのだが、自分の頭部にわずかながら違和感を感じ、恐る恐る目を開ける。そこにいたのは先刻自分を助けに来たと言った銀髪美少女だった。


「えっと、なにしてんの?」


 春斗は自らが感じた違和感の正体を理解する。


「魔王様、お目覚めになられましたか。少々お疲れのようでしたので膝枕のほうをさせていただきました」


――ヒ、ヒザマクラ。


「あの、君は誰だっけ? ゴメン、さっき混乱してて名前を覚えれなくってさ」


 春斗の放つ言葉に一瞬エリアスの肩がピクリと震える。


「エ、エリアスです。覚えておりませんか!? 私が位階いかい十四じゅうよん眷属けんぞく第三位、エリアスです。魔王様に頂いたこの戦闘用ドレスは、未だ私の宝にございます……! いえ、申し訳ございません。支離滅裂しりめつれつなことを申し上げました。

 私はあなた様の軍に所属しているエリアスという者です。憎き勇者にさらわれようとしていたあなた様のお姿を確認し、助け出した次第です。そしてここは、大陸リュードにある小さな宿にございます」


「一般の宿って、俺らは入れるのか?」


「ええ、私は種族が悪魔でありますが、外見的特長は特に無く、普通に見ればただの人間に見えるかと思います。それに加え、魔王様のお姿はおそらく、リュードの王都にいるほんの一部の人間――勇者とその仲間しか知りえないため、一般の宿屋程度ならば自由に出入りすることができると思い、ここへ駆け込んだ次第です。ここであれば、今のところは無事を確信できるかと、……指名手配などされない限りですが」


「あ、あぁありがとう、エリアスさん」


「エリアス……さん、ですか」


 エリアスは目を伏せ、少しくぐもったような声で自らの名前を復唱する。


「俺さ、記憶喪失みたいなんだよ。だからほとんど何も覚えてなくて」


 エリアスはまたも肩をピクリと震わせ、目を開ける。


「記憶喪失の件、了解しました。ですが、これからどうしましょう。勇者レティアには、私の力では到底敵いません。だからといって魔王様の夢を叶えるためには乗り越えなければならぬ壁」


 春斗は首をかしげる。


「夢……ね。エリアスさん、俺の夢ってなんだったの?」


「……それは……」


 どう見ても今の春斗の質問に戸惑っているようだった。それはそうだろう、魔王とはいえ、今は記憶をなくしている唯の人間のようなもの。記憶をなくしている者に余計な知識を与えてしまうと、脳に異常を与えてしまうかもしれない。


「それは――」


「あーやっぱいいや。俺まだ記憶無くしてそんな時間経ってないし。今変な知識持ったらそれしか考えらんなくなりそうだし」


 エリアスの言葉を遮り、春斗は回答を拒否する。今はしなければならないことが多いため、より優先的なものだけを知りたいといった、ハルトなりの気遣いではあった。


「それでさ、さっき『これからどうするのか』って言ってただろ? それについて考えたいんだけど俺にはその、記憶がないからさ。だから大まかに説明してくんないかな?」


「かしこまりました。ではまず、我々が行った戦争について」


 そして、エリアスの口から紡がれる。永近春斗に全てを託した男の戦歴を。


「あなた様には、元々私を含め、強力な十四の臣下と数万の兵がおりました。そしてその十四の臣下は、ネビュラを構成する四つの大陸のうちの残り三つを三手に分かれ攻撃を開始します。ですが、そこで大きな問題が発生したのです」


「問題?」


「天使の顕現、です」


 天使? と春斗は言葉を詰まらせる。天使と言えば、頭に輪がついており、白翼をはためかせ、大空を舞う神の使い。それが、この戦争にどう関係あったのだろうか。


「ネビュラには人間種を初め、獣人、エルフ、そして我々悪魔などの種族が存在していますが、その全ての種族よりも高位の存在であるのが天使。魔王軍には『堕天使』が存在していますが、彼らは魔に堕ちたことにより力は激減し、通常の天使には太刀打ちすることが出来ません。 

 その後、天使は各三大陸に一柱ずつ顕現し、魔王軍に甚大な被害を与えましたが、天使は地上に降りると徐々に力を失っていきます。ですから、彼らの脅威に怯えたのは数時間程度、包囲網を掻い潜ることは容易でありました」


 脅威である天使を退けたはずなのに、魔王軍が勝てなかった理由。

 それは春斗でもわかる。彼女だ。


「そして現れたのが勇者レティア。我々がもっとも脅威とした存在です。奴は戦争の一年間で、天使により与えられた被害地域を縫うように進み、シャクス、グレンデル、バファメットを討伐しました。そして魔王様が記憶を失われる前に言っておられたのが、『最強』の名を冠する、我が軍最高位の悪魔、アドラメレクが勇者に討伐されたとのことでした」


「な――」


 んだと、と続きそうになる言葉を我慢し、春斗は続けて、と合図を送る。


「そして奴は魔王城に乗り込み、即制圧。これがこの戦争の大まかな説明となります」


「あ、あぁありがとう」


 少なからず、春斗は絶句する。やはりこの世界にも戦争があるのだろうかと。教科書の知識程度しか知らないが、戦争が及ぼした各国への被害がどれほどのものか、曲りなりも授業で学んだ程度は春斗でも知っている。この世界で言うと、悪魔と人が殺しあう。

 これが、実際に春斗がこの世界に来る直前まで行われていたのだ。さらに言えば春斗に力を託した魔王サタンが、片側の主として戦争に臨んでいたということが彼に衝撃を与えている。

 日本は戦争の無い平和な国。そのことは小学生でも判る事柄であり、第二次世界大戦終結の瞬間から、今現在まで守られてきた日本の特筆すべき長所でもある。だがここは異世界だ。春斗のいた日本の常識は通用しない。


「なるほどな。ありがと、エリアスさん」


 もう一度、春斗は礼を言う。


「いえ、御身のお役に立てたこと、感謝の至り。あと、敬語はおやめください。私とて一介の悪魔――魔王様に敬われる立場の者ではありません」


「おーけー。ふむ、てことはまずは俺たちがやらないといけないことってのは、散り散りになった仲間を探すことか」


 春斗はこの現状を未だに飲み込めていない。だからこそ絞り出たのは、至極当たり前のことだった。――仲間を探す。これは極めて重要なことであり、優先順位が一番高い案件といっても過言ではない。


「そうなります。ですが我々を繋ぎとめる物は魔王様の魔法なのですが、記憶が無いということは行使するのは不可能。ゆえにみなと連絡を取り合う手段はおろか、探す手段をも持ち合わせていないのです」


「そういうことね。まぁそれなら情報収集から始めるわな。普通は」


 春斗の言い出した意味が判わからないといった怪訝な表情で静止するエリアス。魔王の幹部を探すのに情報収集など笑止千万。まずその情報を持っている人間は居ないだろうが、もし知っていたとしても、それを訊いたところで春斗やエリアスが魔王の仲間と疑いをかけられかねないのだ。

 それほどの自殺行為。ただの人間やそこそこ強い程度が相手ならエリアスは瞬殺することが出来る。だが実力者と相見えた場合、それこそ勇者級の人間が現れた場合は間違いなく守りながらの闘いでは分が悪すぎる。


「どうかした?」


 唖然とするエリアスを心配そうに見つめる。


「い、いえ、私からは何も」


「ならいいんだけど」


「――そういえば」


 エリアスは何かを思い出したかのように春斗の顔を見つめる。


「ん?」


「いえ、魔王様自身の魔力の方はどうなっているのか、という疑問を抱きまして」


 エリアスはなぜ今まで気づかなかったのだろうという表情で話を進める。魔王が記憶を無くしているとはいえ、絶対的な力を保有していることには変わりないはずだ。その力があればこの状況を覆すことができるかもしれない。


「あーたぶん俺魔法使えないよ。さっきから色々試してるんだけどなんも出ない」


「魔力が無い、ということですか。記憶と共に魔力の消失。やはり……の能力か。いや他に……がいた……うこ……」


 後半になるにつれボソボソとなっていくエリアスの話に、春斗は必死に耳を傾けるが『やはり』までしか聞き取ることが出来なかった。


「まぁとりあえず情報収集だ。街を回ろう。さっき戦争した後って言ってたけどこの街は機能しているのか? 俺らの住んでた大陸はめちゃくちゃになってるようだけど」


「はい、お恥ずかしながら、ゴミ――いいえ、人間種が住む大陸リュードは天使の顕現とある剣士により我ら魔王軍は返り討ちに合いました」


「今ゴミって言いかけなかった?」


「いえ、言ってません」


「……まぁいいや。それで、確か大陸って四つじゃなかったっけ? あと二つは?」


「残り二つ、人間種以外の多種族が住む大陸ヴァリゼは天使の存在の影響で落とすことは叶いませんでしたが、位階序列十位、エキドナの手により王都は陥落。同じく位階いかい十四じゅうよん眷属けんぞく二位、ベリアルの手によってエルフ種の王であるオーブルを殺害。事実上我らが勝利を収めました。

 エルフと人間が手を結び発生した大陸カミラは、天使ともう一人、勇者に匹敵する剣士の存在によって撤退を余儀なくされました。これは、位階十四眷属八位のベルトが撤退したことから間違いなく強敵と言えます」


 王の殺害。日本では聞いたことのないが、世界の何処かではあったのだろう。少なくとも春斗の脳内知識には載っていない。


――だけど俺は生まれ変わった。魔王としてだが、だからこそこの第二の人生を楽に生き抜くためには。


「エリアス」


「は、はい!」


 突然何十年来の友人のように呼ばれ、エリアスは素っ頓狂な声で返答する。


「これからこの街で生活しようと思います」


「はい?」

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