第207話 狂った生命
「――――この創世樹から放たれる力場……少なくともアルスリアはもう創世樹の制御を掌握するのに成功したようだ。遂に我らが宿願…………生まれながらに+10000の力を持った、完全なる人類へと進化を促せるというもの。もう貴様らに構ってやる必要も無い――――。」
――そう呟いて、ヴォルフガングはリオンハルトたちの方へ正面を向けながらも、身を丸めてバックステップし……創世樹内部の闇に消えた。
「――くそっ…………待てヴォルフガング――――ぐあっ!?」
――リオンハルトがそう吼えた辺りで、創世樹内部からドス黒いプレッシャーが放たれた。強烈な圧に捕縛され、全員身動きが取れない――――
「――ぐっ…………こりゃあ……あの女の圧……みてえだが…………圧の強さと……不快感が、万倍になってや、がる――――」
――創世樹を目の前にして、ガイたちはまたもアルスリアのプレッシャーにやられ、一歩も動けなくなってしまった――――
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――一方、そのアルスリアは、グロウと共に創世樹内部の制御盤のような場所から、空間に投影したモニターのような物で戦場の全景を見渡していた。もちろん、創世樹のすぐ前で平伏させられているガイやリオンハルトたちも…………。
アルスリアは既に創世樹から膨大なエネルギーと知識を得て、戦いにおいて何者も並び立たないのではないかと思えるほどに漲っていた。全身からもドス黒い
「――ふーん……リオンハルトもあの冒険者たちも……ただの人間の身でありながらこの戦場を潜り抜け、よくここまで到達出来たものだね――――だが、ここまでだ。私は創世樹と『同期』し、もはや創世樹そのものだ。何者にも邪魔させるわけにはいかない…………さあ。グロウ……ダーリンも『同期』して、私とひとつになろうじゃあないか。」
「――ガイ……みんな――――!!」
――モニター越しに仲間を見るグロウは、もはや悲嘆に暮れるほかなかった。しゃがみ込み、押し寄せる絶望に平伏しかけていた。
「――っと……間に合ったようだな、アルスリア。私も見届けに来た…………さあ、今こそ生まれながらに+10000の人類の為に
――リオンハルトから逃げ切って来たヴォルフガングも、アルスリアとグロウのもとへ辿り着いた。アルスリアにだけ見せる、朗らかな表情で歩み寄るヴォルフガングだったが――――
「――――誰にも。そう。他の誰にも、邪魔はさせない――――。」
「――ぐっ……!? アル、スリア…………何、を――――」
――何と、アルスリアはここに来て、呪縛のプレッシャーをヴォルフガングにも向け放った。ひと際強烈な圧に、ヴォルフガングも力が入らない。
「……アルスリア……!?」
グロウも、アルスリアにとっては味方であるはずの養父・ヴォルフガングにさえ危害を加えるのを見て、驚き、見上げる。
「――――今、この時まで私をガラテア軍の高官として育ててくれたこと……そして創世樹に至るまで多大な力を与えてくれたこと、礼を言いますよ。お父様。だが、私は己の使命を知り……そしてガラテア帝国やこの星の人類というものを知った瞬間から、こうすることをとうに決めていたのです――――」
「――アルスリア…………ここに来て……裏切る、か――――!?」
「――ええ。その通りです、お父様。力持つ者が正義であり、力こそが至高の真理。そう教えてくださったのは、他ならぬヴォルフガングお父様自身。でも、一度たりとも気付かなかったのですか? ――――ヒトという生命体など、もはや刷新進化をしようが、+10000に作り変えようが、微塵も救えない度し難い生き物だということに…………。」
――そう言葉を突き付けるアルスリアの目は、温度を微塵も感じることも出来ぬほど冷たく、そして鬼気を孕んでいる。
「――愚かで、度し難い人間。それは貴方とて同じです、ヴォルフガングお父様。さあ、邪魔をなさらないように、離れてください――――」
「――アルスリア、馬鹿な――――うおおおあっ!!」
悲鳴と共に、ヴォルフガングはアルスリアのプレッシャーで強烈に弾かれ、創世樹入り口付近の壁に激突し……そのまま動かなくなった。
「――アルスリア……どういうつもりだ!?」
「――ダーリン。君も今すぐ理解させてあげるよ。私と融合を果たすことで、身も心もね…………ただ、私はガラテアに、お父様に拾われてから学び、思ったんだ。この星を支配している生命体を基準に、生命の刷新進化を行なうことが私たち二人の使命。でも――――人間って…………生き長らえさせなきゃ、駄目かな――――?」
「えっ――――?」
――グロウにだけは一見すると柔らかな声色。だが、アルスリアのその目は寒々しく、怒りと悲しみが宿っていた。
「――――創世樹と『同期』して、莫大な生命の情報を知って確信したよ。人間に類する生命体は、飽きることも無く不毛な戦争に明け暮れ、星を穢し、他の生命を壊し…………傲慢なる欲望によって発展し、『力』という盲目的な信仰と強引な手段によって統率されてきた。それは、愚かと言う言葉すら生温い。ガラテア軍に身を置いていて、私は嫌と言うほど人間の邪悪さを思い知ったよ…………。」
――突如語られる、アルスリアの人間への憎悪と絶望。そして虚無。グロウは黙したまま聞き入ってしまう。
「そんな生命体など、もはや刷新進化する必要などない。いや……もう、他の生命体ごと存在するべきではない。他の生命体が進化して、人類と同じようになったら意味が無いからね――――人間と言う狂った生命を未来永劫誕生させないために…………私は……いや、私とダーリンは生命の刷新進化を途中でせき止め、何にも干渉されることのない、どんな生命体も生まれない『死の星』へと作り変えるんだ。あとは二人で、星を管理しつつ静かに暮らすんだ……。」
「……そ、んな……何を……何を言って――――」
「――おや? ……どうやら、最も厄介な敵がやってきてしまったようだね。あれが……さしずめ『人類の希望』という物かい? それにしてはあまりにも――――禍々しいね。」
異変を感じ、空中に投影したモニターを見ると……とうとうあらゆる敵を殲滅して激しい、赤黒い練気を立ち昇らせる――――エリーが、創世樹の寸前まで辿り着いていた――――
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