第158話 クレイジーモーターサイクル2

 ――――イロハは1位を走るレーシングカーの狙撃手の攻撃を躱したものの、後続から来た戦闘機2機のリードを許した。赤い戦闘機は巧みに機体を使ってイロハの進路を塞ぐ。




 このままではまずい――――堪らずイロハは通信ユニットで仲間に助けを乞うた――――





「――グロウ!! あの手で行けッ!! セリーナとエリーは避けろよ!!」




「了解!」

「よっしゃ!!」

「う、うん!! 石たちよ――――!!」




 そうガイの掛け声と共に、グロウは瞬時に周囲の細かい石に練気チャクラを通した――――ニルヴァ市国で身に付けた、練気による石つぶての嵐だ――――




 猛烈な勢いで空を切り、前方を飛ぶ戦闘機目掛けて礫が飛ぶ――――





「――何ッ!? ――うわあああああッッッ!!」





 ――2機の戦闘機のうち、青い方の1機が、機体全体に礫をめり込ませ、やがてコントロールを失う――――





「――くそっ!! もうリタイアかよ……!!」





 このままでは墜落すると判断した青い戦闘機の搭乗者。脱出装置を作動し、機体から宙高く飛び出した。スタート直後の爆発を除いて最初の脱落者の目立つリタイアを見て、観衆はさらに沸き立つ。





 やがて最適な高度と角度でパラシュートが開き、青戦闘機の搭乗者はリタイアしたものの難を逃れた。





「――くそっ!! 何とか逃げたが……ここで相棒をやられちまうのは痛いな……!」





 赤戦闘機の搭乗者も、このままイロハをマークし続ければ青戦闘機に続いて狙われる、と判断したのか高度を上げ、イロハの後方の少し高めの位置にポジショニングした。高めに位置取られると、さすがにグロウも狙いが付けにくく、下手をすれば無関係の観客に礫が当たってしまう。練気チャクラの弓矢も同様だ。威力が高く命中精度も良いが、外れると流れた矢が客に当たりかねない。グロウは一旦ガンバの車内に身を隠した。





 ――だが、赤戦闘機も黙って身を引いたわけではない。前面にバルカン砲とミサイルを装備した機体――――前方にいるレーシングカーの2人、強化機械装甲パワードスーツ、そしてイロハを一網打尽にするつもりだ――――





「――俺たちの邪魔者は消えてもらう……ファイアー!!」





 そう一号すると共に、ミサイルとバルカン砲を同時に撃って来た。まともに当たればひとたまりもない――――





「――てやッ!! せいっ!! はあああッ!!」





 ――間一髪。もう少しでバルカン砲で蜂の巣になるか、ミサイルで粉微塵になってしまうところだったが…………今度は空中走行盤エアリフボードを駆るセリーナが助太刀に入った。大槍でバルカン砲を左右両器とも切り落とし、ミサイルも真っ二つに切り裂いた。やや遅れてミサイル内の火薬が宙で爆散する。





「――何が起きて――――!?」


「――せいやッ!!」





 赤戦闘機の搭乗者は何が起こったのかも解らぬまま、最後に両翼を目にも止まらぬ速さで切り落とされ、そのままゆっくりと後方へ落ちゆく――――




「――うわあっと、危ねえーっ!! よいしょっと……ほいっと――」





 ――すぐ後ろにエリーがいたが……これはお互いにとっても幸運であった。墜落する赤戦闘機をエリーが正面から両腕を使ってキャッチし、勢いを殺した状態で近くの地面に置いて、再び走り出す。





「――なな……くっそお、ここまでかよ!!」





 ――赤戦闘機の搭乗者も悔しさで歯軋りしながらも、いつ爆発するか解らない機体。相棒と同様に脱出装置で遠くへ飛び上がり、パラシュートで安全な地点まで逃げ去っていった。





 瞬く間に赤青戦闘機2機の搭乗者がリタイアし、レースはいよいよ潰し合いの様相を色濃く呈して来たが――――予想を超える挑戦者たちの戦いぶりに観客はなおも熱狂し、歓声を贈った。





 イロハに纏わりつくように飛んでいた戦闘機2機が退場したことで、イロハより後方は仲間たちだけ。後ろを任せて走れる分かなり精神的に楽になったようだ。





「――ふうーっ…………」


「――大丈夫か、イロハ。私が空中から援護する。安心して走れ!!」





「――ハイっス!!」





 ――セリーナに援護されながら、イロハは『黒風』のギアを上げ、一気に強化機械装甲とレーシングカーを抜き去り、トップに躍り出た!!





 セリーナも同様に空中走行盤の出力を上げ、イロハの頭上まで追いつこうとした。





 次の瞬間――――





「――――なッ……に――――!?」




 ――セリーナの片脚が、『黒い手』でしっかりと掴まれている。





 セリーナが頭上に来た瞬間、強化機械装甲が突然高々とジャンプし、そのままセリーナを掴んだのだ――――繊細なバランス制御が必要な空中走行盤。堪らずセリーナは崩れ落ちそうになる――――





「――くっ……はな――――うわあッ!!」





「――セリーナさーんッ!!」



「――セリーナッ!!」





 ――セリーナの脚を掴んだ強化機械装甲は、そのまま容赦なくセリーナを引き摺り落とし、遙か遠方へ投げ飛ばした――――円形闘技場を転がり、壁に激突するセリーナ。





 戦闘機2機が脱落したかと思えば、瞬く間にセリーナも脱落となってしまった…………そこでちょうど一周目が終わった――――





 現在順位、1位イロハ。2位レーシングカー。3位強化機械装甲、4位エリー、5位ガンバのガイとグロウ――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る