第148話 太古の戦艦

 ――――クリムゾンローズ盗賊団との戦いの後。もう夜はとっくに明けていた。暁の空がしらじらと要塞都市・アストラガーロの朝の風景を照らしていた。四方を壁に囲まれている要塞都市ならでは、薄暗い朝の風景だ。




 あちこちに放火された後だったが、緊急時に対応出来るよう訓練された国中の警備、数多の修羅場を潜りぬけて来た百戦錬磨の冒険者たち、そしてどんな時でも冷静に的確な指示を出せる優秀な役人たち――――敵味方双方の読み通り練度の高い人々によって、被害は最小限に抑えられていた。あちこちに焦げ跡などが残るが、建物などは焼け落ちず。ほんの少し土建業者や塗装業者などがやる気を出せばすぐに修復出来そうな程度である。





 エリーたちは一旦宿へ戻り、食堂で朝食を取りながら……国長である『キャプテン』ことゴッシュの名刺とチケットを確認していた。





「――――あのおっさん、マジでここの国長なんだろうな、テイテツ? 実はあいつもクリムゾンローズ盗賊団とグルで俺らを騙そうとしてんじゃあねえのか?」




「――それはないです。要塞都市・アストラガーロの国主・ゴッシュ=カヤブレー。年齢、体格、名前……そしてこの名刺とチケットに捺印されている判子と署名の筆跡。間違いなく本人の物です。」





 ――テイテツがあらゆる信頼出来るサイトや資料を閲覧し、彼が本物の国主であることを保証した。




「……マジかよ。こりゃあ……ラッキーと見ていいのか、それとも何か裏があると見ていいのか――――」





 ガイは朝食のパンを齧りながら、チケットを手に取り字を見遣る。






『――――要塞都市・アストラガーロに来たりし勇敢なる戦士の挑戦を乞う!! アストラガーロ公式闘技大会・プレミアムチケット。命を懸けて戦う者を称え、勝者には【宝】を与えん――――』





 ――事はクリムゾンローズ盗賊団を追い払った後、数時間前に遡る――――





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「――君たちの勇猛果敢な戦いぶり。実に気に入った。もしかしたら……君たちこそが、そのチケットで大会に出るべき真の勇者なのかもしれん。だから私が特別に招待しよう。命を懸けて戦う覚悟があるのなら、1週間後の定例大会にそれを持って是非挑戦してくれ。」





 ――証券に関わる書類を読むのは朝飯前なイロハ。チケットの表裏を確認したり、回転させたり、灯にかざしてみたり……何か変わった点はないか確認した後、唸る。





「――う~むう? 闘技大会っつって書いてるッスけど……具体的にはどんな大会なんス? それに『宝』って具体的に何なんスか? ウチら、目的があってここまで来てて……そんな不透明な大会とやらに出てる暇ないっスよ?」





 『闘技大会』とやらの概要を国主たるゴッシュに問う。





「――すぐには信じられないか? まあ、警戒するのも無理はないな。宝というのは……恐らくは君たちが探し求めている物だ――――国中で聴きまわっていた、『戦艦』を進呈しようではないか。」





「――え!! マジマジ!? ホントにこの国に……『戦艦』あったの!?」




 俄かに声を上げて喜ぶエリー。




「――待って待って待って待って、ノー、ノー、ノー……それ、聞き込みしてたウチらの動向を密かに探ってたって事っスよね? 『戦艦』も実際に動く物か怪しいもんス。もっと信頼に足る情報と証拠をくれないと――」





 しかし、イロハはそれだけでは承服しない。確信が持てるまでイエスとは言わない。ゴッシュはどこか満足そうに口角を少し上げて喜び、答える。





「――その慎重さ。安い話には乗らない堅実さ…………実に冒険者らしい振る舞いだ。ますます気に入った――――いいだろう。日が昇って10:00ちょうどに、もう一度中央庁舎に来たまえ。そこの地下深くに『戦艦』は置いてある。君たちの命を懸けるに足る代物か……君たち自身の目で確かめてみろ――――」





 そう言い残して、ゴッシュは帰っていった――――





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「――――あのゴッシュとかいうおっさん、マジで言ってんだろうかな? 本当に俺らが探してる『戦艦』なんて、あると思うか?」




 ――ガイは朝食を平らげながら、なお訝しんでいた。





「――むうううん……あれだけあちこちでウチらが『戦艦』の手掛かりについて調べまわってたのを知ってんのなら……モノはあると思うんスけどねえ。やっぱ、この目で見ないことには何とも言えないっス。単なるドでかい骨董品でしたってオチもありそうだし。」





「――それを確かめる為に、この後行くんだろう、中央庁舎に。どれほどの物か知らんが、確かめなければ何も始まらんだろう。」





 ――朝食の席には、久々に合流したセリーナもいた。





「そうよね、セリーナ! ガイ。やっぱ行ってみないとわかんないよ!!」





「――むう……やっぱそうなるよな。奴が信頼に足る野郎か、確かめることにもなる。だが今の時点じゃあ本当にまともな国主でまともな『宝』なんてあるのかわかんねえ。おめえら、危険な戦場に入り込むぐらい警戒していけよ――――」





 ――そうガイが一行に注意を促したのち、やがて国の中心部の庁舎へと足を向けた――――





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「――――こっ……こいつは――――!!」




「――驚くか。無理もないだろう。これはガラテアの支配から守り続け……太古の昔の人類の遺産だからな。幻霧大陸に住まう先住民が作ったとされる――――」





 ――最大限警戒して向かった一行だったが、受付の人にゴッシュ=カヤブレーの名を出し、名刺とチケットも見せるとあっさりと国主の執務室に通され……そのさらに奥にある厳重なエレベーターを下り、照明を点けると――――そこにあったのは確かに『戦艦』だった。





 素材はまるで解らないが、ところどころにゴツゴツとした鉄骨が張り巡らされ、巨大な大砲や機銃を搭載し、宙を飛ぶブースターのような機構も見える。何百人もの人員を乗せて荒波を、そして天空を駆けることが出来てもむしろ不思議ではない、と思ってしまうほどの威容を誇っていた。一行はただただ口をあんぐりと開ける。





「――我々アストラガーロと冒険者たちが絶えずこの戦艦ふねをメンテナンスして来た努力もあって、コンディションは最高の状態を保っている。コンソールを動かせるエンジニアや操舵手もいる。ただし――――」





「――ただし……何だ!?」




 ガイがやや興奮気味に問う。





「――どうやらこの戦艦は、乗る者を選ぶようなのだ……動力部も燃料も生きていて何が最適か解ってはいるのだが……核となるエンジンを稼働させるには起動キーが要る――――膨大な練気チャクラを当てることで起動するのだが……」





 ゴッシュは戦艦の中心部へと踏み込み、一行に心臓部を見せる。





「――ここで練気を集中すれば、幻霧大陸へと選ばれし民だと戦艦が認め……起動するのだ。我々が何人もの有望な練気使いを試してみたが、ほんの少ししか反応を示さなかった……」





「――これ、は…………僕、『知ってる』よ――――」





「――――何? 少年よ、まさか――――」





 ――その時。俄かにグロウの目に碧色の光が灯り始めた。目の前の戦艦の『核』に反応しているように見える――――




「――おい、グロウ、まさか……」



「出来るの!? わあ、やってみ! やってみ!!」




 エリーが促し、心臓部に向け、グロウは練気を集中した――――




「――ふううううう…………」





 ――グロウの碧色の美しい練気の輝きが増していくと――――






「――本当だ!! 動くぞ――――!!」





 ――――グロウの練気に反応し、謎のオーパーツたる戦艦の心臓部も碧色の光を帯び、動力が稼働し始めた――――グロウこそ起動キーだったのだ――――

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