第147話 骨折り損のくたびれ儲け

 ――――市街地に戻り、適当な広場にガイたちを寝かせるエリーとセリーナ。





 ――毒霧を喰らった影響で、ガイもグロウもテイテツもイロハも……全身が痙攣し呼吸が荒い。





 致死性の猛毒かは解らないが、とにかくすぐに手当てが必要だ。





「グロウ! しっかりして……これを飲むのよ!!」





 エリーは倒れ伏すグロウの身体を支えながら、ゆっくりと丁寧に解毒剤を飲ませていく。





「――うう……ゴホッ、ゴホッ…………お姉ちゃん……一体何が――――」





 ――解毒剤の効き目は抜群だ。あるいはグロウ自身の生命力も関係しているか。すぐに意識を取り戻し、痙攣も徐々に治まっていく。





「――グロウ、大丈夫? みんな、あいつの罠にかかって毒を受けたのよ!」





「――う……毒……!? 大変だ……すぐにみんな治さないと……!」




「……動ける? でも、慌てちゃ駄目よ。ゆっくり……ゆっくり落ち着いて治していって。まずはガイから……」





「そっとだぞグロウ。お前の治癒の力は本来毒を治すには強過ぎるくらいだ。丁寧に加減してやるんだ。」





 エリーとセリーナに支えられつつ、グロウは深呼吸をして……ガイに触り、治癒の力を念じた――





「――ふうううう…………」





「――ぐっ……はあっ……はあっ……みんな、大……丈夫か――」





 いつもの通り、グロウの治癒の力は正常に働き、ガイの身体から毒を消し去った。





「――ガイ!! 平気!?」





「――ああ……さすが、グロウの練気チャクラだ。もう気分がスッキリしたぜ…………後は……テイテツとイロハか。よし、グロウ。俺はテイテツを治す。おめえはイロハを……」





「ぐぐ……ゴホッ、ゲホッ――」




「うぬぐぐぐ……ぐるじい~……っ」





 呻き声を上げるテイテツとイロハに、急いでそれぞれ回復法術ヒーリングと治癒の力で毒を癒した。





「――ふうーっ……どうやら罠にかかったようですね。状況は?」





「――はーっ! しんどかったっス!! 毒喰らった人全員……念の為にこの解毒剤も飲んどくといいっス。アフターケアっスよ!」





 イロハは意識を取り戻すなり、道具袋からギルド連盟御用達の解毒剤を取り出し、全員に渡した。セリーナはテイテツに、要塞都市・アストラガーロは守り切ったがクリムゾンローズ盗賊団は逃がしてしまい、国庫の宝も大半が盗られてしまったことを説明した。





「――そうですか……この国の警備も滞在する冒険者たちも練度の高い者たちばかりだったので、深刻な事態は避けられたようですね――――そういえば、あの人質に取られた男性はどこへ?」





「――むっ。そういえばそうだな……まだあの闘技場にいるのか?」





「――私ならここだ。」





 ――突然、声がした方へ振り返ると……先ほど人質に取られていた男が歩いて来る。彼も無事だったようだ。





「――おおっ!! おっちゃんも無事だったっスか!! クリムゾンローズ盗賊団は……逃がしてしまったっス。国庫のお宝を奪われて、ご愁傷様っス……」




 ――男は、ゆっくり首を横に振ってから答える。





「――確かに幾分かは盗られた。だが、ローズたちは知らない。国庫はダミーの部屋を幾つも用意していた。彼女たちが奪っていったのは、国庫の宝と言ってもほんの一部だろう。」






「――マジか!?」




「――やっぱ、この国の役人さん、抜け目ないっスねえ~……」




 ガイとイロハが驚く。きっと冒険者ギルドの総本部でもあるこの国のこと。全員が全員、生命や財産を奪われることへの意識が徹底しているのだろう。この国がガラテアの支配を容易には受けていないことも頷ける。





「――それに、だ。我々が二度と賊たちに狙われないように、意趣返しも行なうようにしている――――」




 ――男はそう呟くと、何やら手元にリモコンのような物を取り出し、スイッチを押した――――





 <<





 要塞都市・アストラガーロから車で逃げだすローズたちだが――――





「――あーはっはっはっはっはァ!! 大漁! 大漁さね!! これでひと財産――――オワアアアアアアッッッ!?」





 ――車の上で踊り狂い豪笑していたローズだったが――――突然、乗っていた車が小爆発を起こし、豪快に吹っ飛んで地に落ちた。





「――な、なな何が起きたァッ!? この煙――――ううっ、これはッ!! 毒ガスッ!? ――ううううう、苦しいっ、たす……け――――」





「おっ、おっお頭アアアアアアッッッ!?」





 ――無事だった下僕たちは手に手に傷薬と解毒剤を持ち寄った――――





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「――まあ、あれだけタフでしぶとい連中だ。宝に紛れさせた爆弾も毒ガスも威力は弱いし、死にはせんだろう。」





「――あ、あら~……あいつら、結構な知恵を働かせてきたと思ってたのに……なんつーか、骨折り損のくたびれ儲けっスね……じゃあ、ほとんどウチらの助け要らなかったんじゃあ……」




「そうでもない」




 ローズたちの不運に顔を手で覆うイロハだったが、エリーたちの働きも徒労ではなかった、と男は言う。





「――あの戦いぶり……それも、恐らくはまだ全力は出してはいなかったろう。間抜けな親玉とはいえ、クリムゾンローズ盗賊団相手に大立ち回りを演じた君たちを、国長として称える――」




「――――国長!?」




「――そうだ。私がここ要塞都市・アストラガーロの国長、名はゴッシュ……国民からは親しみを込めて『キャプテン』と呼ばれている――――君たちを、我らの『宴』に招待する権利を与えたい。」





 ――ゴッシュと言う名の『キャプテン』はそう告げて、名刺とチケットのような紙切れを差し出してきた――――

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