第146話 逃げるが勝ち
――――クリムゾンローズ盗賊団を、一気に総崩れまで追いやったセリーナ。「きっと10倍ぐらい強くなって帰って来るさ」とエリーは本音はともかく楽観的に述べていたが……どうやら本当に格段に強くなって戻って来たようだ。巨大な
「――来いッ!!」
再びセリーナが練気を念じると、龍が頭部をセリーナのもとへ近づけて来る。
セリーナはローズを逆に人質に取ったまま龍の頭に飛び乗り、闘技場内のガイたちのもとへ降りて来る。
「――セリーナ!! おめえ、本当に戻って来たんだな……無事で良かったぜ!!」
「――そうだな。だが、今はとにかく、こいつらを何とかしないと――――賊共!! 今度はお前らの首魁が人質になる番だ!! 国庫から盗み出した財宝を返して国から出て行けっ!!」
――お頭が人質に取られ、狼狽する下僕たち。ローズ自身もまたも苦汁を舐めさせられた怒りと悔しさで、ぐむむぅ……と獰猛に唸るが――――
「――アタシのかわいい息子たち……しゃあない、降参だ……お宝をひとまとめにしてたろう。まず、金塊を詰めた箱から持って来な――――」
――ローズの表情と気迫は、手負いの獣の如く荒々しく昂っている。下手をすれば文字通り噛みついて来るだろう。だが、そこはセリーナも抜け目ない。不意打ちを喰らわぬように絶えず重心をずらして、ローズに身動きさせないようにしている。
やがて、そう間もなく側近の1人が、黄金のインゴットがギッシリ詰まった宝箱を素早く持って来た。クリムゾンローズ盗賊団は敗走する時すらも手際よく訓練されているようだ。なるほどローズが牢獄を抜け出せたのも頷けそうなものである。
「――よし、一旦そこに置け。奪い取った物は全部持って来て国長に返すんだ。」
油断なくローズを捕らえ、側近に命じるセリーナ。この調子で宝を全て返還させるつもりだ。
しかし――――
「――ハッ! 馬鹿丁寧にアタシのかわいい息子たちにわざわざ持ってこさせるなんてねエ――――」
「――もしや……待て! それは――――」
「――――何ッ!?」
――ローズがそう呟き、先ほどの人質にされた男が叫んだ瞬間――――闘技場の中央に置いた宝箱から眩い閃光と煙が大量に放出された――――罠だ。
「――ぐっ……こりゃあ――――毒か!!」
――閃光で目が眩むと同時に立ち込める毒霧。皆、目を閉じて口と鼻を塞いでしまう――――
(――くっ……しまった、すり抜けたか――――!!)
セリーナが目眩ましと毒霧に身を縮めた僅かな隙に、手元に掴んでいたローズはすり抜けて逃げてしまった。
「――ガイ!! セリーナ!! ――はっ。」
闘技場の高所から見ていたエリーはそう叫ぶが、同時に先ほどまで近くにいた賊たちが俊足で闘技場の裏側へと降りていく。どうやら中央でセリーナに蹴散らされていた賊たちも一目散に同じ方向へ逃げたようだ。
エリーが追いかけようと円形闘技場の裏側を見遣る頃には――――クリムゾンローズ盗賊団の改造車両が列を成して走り出し、そのうちの一台の車体の上で、ローズは勝ち誇った顔で片手でビクトリーサインを決めている。
「――あーはっはっはっはっはァ!! 悪いねエ。ここまでほぼ読み通りなのさア!! 別働隊を幾つも分けて国庫のお宝、一切合財奪い取るつもりでいたがァ……これだけ盗れりゃあ充分さね!! 全てはアタシが時間稼ぎしてるに過ぎなかったのさ――――ざまぁ見ろってんだ、ヴォケ共め!!」
――そう。多少のイレギュラーはあったが、全てローズの計算通りに事は運んでいた。下僕たちに国庫の宝を可能な限り奪い取らせる代わりに、自ら囮となってエリーたち相手に時間を稼いでいるに過ぎなかったのだ。宝は全部は盗れなかったが、まずまずの戦果を得て彼女たちは去っていく。
「――――あいつ~っ……でもガイたちが…………!!」
エリーは激昂してローズたちを追いかけたい衝動に駆られるが、すぐにガイたちの身の危険を案じ、毒霧が立ち込める闘技場内に戻った。
――『鬼』由来の、毒物などに強い耐性を持つエリー。毒霧の中で倒れ伏すガイたちをすぐに抱えて、その場から一旦遠ざかる。
「――――エリー! まずはこの解毒剤をグロウに飲ませろ。グロウが立ち直れば毒ぐらい何とかなるはずだ!!」
「――セリーナ!? あんたも毒喰らったでしょ、大丈夫なの!?」
「……話は後だ。とにかく私は大丈夫だ。全員連れて、すぐ手当てをするぞ!!」
「わ、わかった!!」
――毒と目眩ましを最も近距離で受けたはずのセリーナ。だが平気だという。
しかし、今細かいことを詮索している場合ではない。2人で他の仲間たちを担ぎ、足早に市街地に退く。
――果たして、ローズたちクリムゾンローズ盗賊団は財宝を盗み出し、今度はエリーたちに煮え湯を味わわせることに成功したようだ。戦闘そのものでは本来エリー1人で圧倒するほどに負けていないのだが、『宝を奪い取ってすぐに逃げる』というローズの作戦勝ちだったようだ。
「――――エリー……それにセリーナと言ったか……クリムゾンローズ盗賊団相手にあれほどの大立ち回りをするとは――――彼女たちにこそ、我々の『宴』に参戦する資格がある、な――――」
闘技場の高所に取り残された人質だった男。手当ての為に市街地へ退いていくエリーたちを遠巻きに眺め、誰ともなしにそう呟いた――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます