第140話 まさかの逆襲
「――――おい! 起きろテイテツ!!」
「――――む……う…………どうされました、ガイ……?」
――まだ薄暗い夜明け時。興奮した様子でガイはテイテツを叩き起こした。俄かに、ホテル内にも緊張が走っている。
「――詳しいことはまだ解らねえが……とにかく敵襲だ!! この国のあちこちが荒らされてる…………もしかしたらガラテア軍がもう攻めて来たのかもしれねエ!! すぐに戦うぞ……!!」
「――敵……襲…………ですか。了解――――」
――『何か異変があれば呼べ』と言っていたテイテツ。眠気眼のままだが、早速何者かの敵襲を受け、要塞都市・アストラガーロ中が騒ぎになっている状況を理解した。すぐに手際よく防護服を着て、
「エリーとイロハ、グロウはもう飛び起きてホテルの玄関から様子を見てる!! 急げ!!」
旅の疲れも癒えぬまま、ガイとテイテツも急いでホテルの玄関へと向かった――――
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「――はぁッ!! てえいッ!!」
「――おりゃあーッ!! ぜえいッ!!」
「――脚を狙って……行けっ!!」
――ホテルの内部は突然の強襲を受けたことを見て、他の観光客は恐慌し混乱の極みにあったが、先行したエリー、イロハ、グロウは謎の黒ずくめの悪漢たちを相手にホテルの玄関を守り、戦っていた。
悪漢たちはどの者たちも重厚な筋肉からなる巨体を誇り、手に手に刃物や銃器などの武器を持っていたが――――幸い、エリーたちの敵ではなかった。
エリーは平生通り体術で。イロハは戦闘用ハンマーをぶん回し、グロウはボウガンから麻痺薬を塗った矢や投擲物を放って、悪漢たちを1人、また1人と不能にしつつ斃していった。
「――エリー!! 無事か!?」
――すぐに駆け付け、声を掛けるガイ。
「――ふうーっ……当然! 見た目はいかついけど、大したことないわね!! 練気を高めるまでも無いわ!!」
「――あっ、ガイさんテイテツさん、おはよーッス!! 朝っぱらから働かせる割りに、大した連中じゃあなくて拍子抜けしてるとこだったっス!! この分なら、他のこの国の戦士と協力して追い払えそうっス!!」
――敵の数は多いが、どうやらこちらの優勢のようだ。
――――だが……あちこちから火の手が上がっているのを見ると、例え相手が大した戦闘の玄人で無くとも、早く対処しなければこの国に重大な傷が残りそうだ。
「――――これは……どうやらガラテア軍の襲撃ではありませんね。昨夜から端末でレーダー類を見ていましたが、ガラテア軍の部隊は遙か遠方。この賊たちは、一般的な車両を脚にしてここまで来たようです。」
テイテツも、端末から周囲の反応を鑑みるが、ガラテア軍の関与を否定する。では何の賊なのだろうか。
「――――なーんか……引っかかるっスねえ…………」
「引っかかる? 奴らが何か得体の知れないモンでも隠し持ってるってか?」
「――いや、あたしも感じてたんだけど、なんつーか…………このぶん殴った手応え。なーんか、身に覚えがあるっていうか…………」
イロハとエリーは、黒ずくめの悪漢たちに、妙な既視感を感じていた。この賊とは、戦ったことがあるのかも? と。
「――んだと? そいつぁ、もしかして――――」
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――――エリーたちが訝る一方。要塞都市・アストラガーロで最も高所、あの闘技場の最も高い柱の上で、『彼女』は腕組みをして戦況を視ていた。
「――――伝令ェーッ!! 作戦通り、国中のあちこちに火ィ付けて廻って来やした!! この国の連中が消火するにせよしないにせよ!! ここの国庫からお宝を奪い切る時間は充分にありまさァ!!」
――黒ずくめの伝令が、『彼女』にそう告げた。
「――――うむうむ。そいつは重畳、重畳…………如何にこの国に強者が集おうが、宝さえ奪っちまえば目的は達成さね。早いトコ車に詰め込んで、ずらかるよ。」
――黒ずくめの賊たちを束ねる女性は、意外にも矮躯であった。
否。矮躯というよりは、見た目はまだほんの幼い少女のように見える。声質も高く細く、幼い感じだ。
「――伝令ェーッ!! こ、この国の連中、意外にやりやすぜ!! どうやら、国の警備だけでなく、冒険者も戦いに加勢してるッス!! この分だと、火は付けても消火されるのもすぐかとッ!!」
「――――うむ…………えっ? マジで…………?」
賊共を束ねる幼女は、伝令その2からの情報、ちょっと調べればすぐに理解出来たはずの目測が外れ、振り向いて素っ頓狂な声を上げる。
「――で、でで伝令ェーッ!!」
「――ええい、次から次とむさくるしい!! 何があったんだい、『アタシのかわいい息子たち』よ!?」
――伝令その3は最も重大な事実を告げる。
「――――ぼっ、冒険者の中で一等強え連中がいやす!! よ、よりにもよって――――俺らをシャンバリアの牢へぶち込んだ奴らがァ!!」
「――――なっ、なっ、なんとォーーーッッッ!!」
――――幼女は頭を抱え、一流の喜劇役者のリアクションも真っ青なテンションと間抜けさで驚愕する。
「――フウーっ……」
――幼女は一度眉間に手を当て、冷静を保とうとする。
――そう。姿こそ変わっていようと、シャンバリアの一件を知る者ならもうお解りだろう。
「――仕方ないねエ。あの時とは違うということを……あのピンクの髪の踊り子崩れに見せつけてやる必要が出来ちまったァァァ…………。」
「――おっ、お頭、それじゃあ――――!!」
「――――力の弱いツカイッパはお宝を積み出すのを急ぎな!! あの連中は……せめてアタシが足止めしてみせるさね!! 腕っぷしに自信のある子だけついて来な!! アタシのかわいい息子たちよ!!」
「――おおおオオオ…………合点承知!!
「――――あの小娘ども……アタシをこんなちっこいガキの姿になるという奥の手を使わせてまで牢へぶち込んだこと、後悔させてやるねエ――――!!」
――――盗賊皇女殿下、ローズ=エヴェル以下、クリムゾンローズ盗賊団の逆襲が始まろうとしていた――――のかもしれない。
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