第139話 古くからのコロッセオ
――――それからエリーたちは、要塞都市・アストラガーロの観光を楽しみつつも、国中を見て廻り、情報を集めた。
宿はすぐに手頃な値段のものが見つかり、食料も一通り調達した。長期間の滞在も視野に入れつつ、5人で行動しつつあらゆる施設を訪ねて行った。
国立図書館。市場。役所。病院。娯楽施設。盛り場……。
主な施設は大体巡ってみたが、あまりこの国が隠し持つという『戦艦』へと至れそうな手掛かりは無かった。セリーナの行方も今一つだ。
――ただひとつだけ……この国独特の大衆娯楽と思われる施設が見つかった。それが――――
「――――国のド真ん中に闘技場、たぁな…………
「――この国で古くから大衆娯楽として……さらには富裕層や国を管理する長などもよく立ち寄るようです。金銭はもちろん、あらゆる権利や報酬――――時には生命を賭けて試合が行われるようです。軽いものは一般的なスポーツ大会や演劇から、生死を賭けた決闘まで。」
「――今は何のイベントも無いっぽいからガラガラだけど……いざ何か催されたらどんだけ人が入って熱狂すんだろね…………そしたらなかなかにヤバそ~……」
――在りし日のローマのコロッセオを思わせる円形に客席が階段状に施された闘技場。貴賓席と思われる高い身分の者も観覧するスペースが見える。
互いの血をぶちまけて戦う様を見せ付ける危険な戦闘による大衆娯楽は娯楽都市・シャンバリアにも多少はあったが、この要塞都市・アストラガーロはどうやら規模が全く比較にならない。観客が満員御礼になった時の何らかの試合の熱狂ぶりは、恐らく想像を絶するほどに凄まじい。
「――そんな…………戦争でも、憎しみ合ってる訳でも無いのに殺し合いを娯楽にしちゃうなんて…………」
「……グロウくん。気持ちはすごーく解るっスけどね…………悲しいけど、これも闘争本能を持つ人間の本性のひとつっス。覚えとくといいっスよ――――」
――血生臭い娯楽に嫌悪を露わにするグロウ。しかし人類史の、人間の性の純然たる事実を傍らのイロハは窘めて言った。
そんな人間の宿業とも言っていい闘争本能を闘技場で娯楽として根付かせてしまっているアストラガーロ。その熱量と闘争心や刺激を求める精神性はある意味ガラテア以上か。
「……次に行こう。ね? 次に…………」
――理解に苦しむ、と言った風情のグロウ。足早にその場を後にするよう皆を促した。
「……そうね。行きましょ行きましょ……」
「……ま、何も日夜殺し合いしてるわけじゃあなさそうだし、平和的な競技もするんだろ。どっちにしろ縁の無いこった……そうだろ?」
グロウを気遣い、同じく闘技場を去るエリーとガイ。自分自身はともかく、少年であるグロウにそんな血生臭い娯楽などは触れさせたくなかった。
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――その後も、密度は濃いが国の面積そのものは狭い要塞都市・アストラガーロ。1日で廻り切ったが、練気使いがゴロゴロいることが目に付く程度でそのまま陽が落ちてしまった。
仕方なく、一行は宿へ泊まることにした。
シャンバリアでかなりお金を儲けた一行はもっと高級なホテルなどに泊まることも出来たが……どうも皆そのような高級感のある場には慣れず、また性に合わないことに加え、イロハも金遣いを荒くすることに難色を示したため敢えて冒険者が多く立ち寄る宿へ赴いた。
「――――ヒィヤッホオオオオオイイイイッッッ!! ドカアアーンンンンッッッ!!」
「――わあーはははははっ!!」
――部屋に入るなり、ベッドの寝心地を確かめようと横になってみたグロウに、イロハがダイビングボディープレスを炸裂させ、珍しく大いにはしゃぐ。
「――ふっ……こーらっ、2人ともはしゃいでんじゃあねえ。他の客の迷惑になるだろが!」
――過酷な冒険の最中ではあまり見られないが、グロウもイロハも10代の子供。普段と違う寝床で見せる子供らしい無邪気さを感じ、声を掛けつつも微笑むガイ。
「――あっはは! 良いわねー! あたしもやろーっと――」
「駄目に決まってだろ馬鹿。おめえがやったら2人の骨が折れてベッドが消し飛ぶ。」
――もとい。20歳のエリーもこういう童心は忘れてはいなかった。だがエリーのような規格外のパワーではしゃぎまわると、当然怪我や器物破損で済まない。すぐにガイはエリーの首根っこを猫掴みして、自分たちの部屋へ向かう。
「――俺とエリーがあっちの部屋。グロウとイロハがここ。んで、テイテツは向こうの部屋でいいな?」
「了解です。もし何かあればすぐに呼んでください。私はもう少しこの国で得た情報を纏めてみます。」
「――今日もヤるんスか!! ねえ!! 今日もヤるんスか!! ガイさんとエリーさん!!」
「うるっせえ、このエロガキが。助かるぜテイテツ…………あー……疲れたな。風呂でも入りに行くか――」
「――混浴!? ねえ、ねえねえ!! 混浴っスか!! 共に温め合うんスか!?」
「知るか、ボケェ。」
――久々の宿に高揚感を抑えられずハイになってしまうイロハ。相部屋のグロウも苦笑いを浮かべるだけだった――――
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