第141話 盗賊皇女殿下の再誕☆

 ――――それからほんの30分程度戦っただろうか。黒ずくめの賊たちは次々とエリーたちをはじめ冒険者や警備に昏倒させられ……どんどんと頭数は減り、士気も下がっているようだった。冒険者も警備も皆練度が高く、戦闘はもちろん、放火された箇所の消火も極めて迅速だ。この分なら被害は最小で済むだろう。




「――へっ! どんな賊共かと思ったが、てんで相手にならねエな――――おっ?」




 ガイが、二刀で斬るまでもなくみねうちのみで敵を昏倒させ、健啖を吐いた頃合いで……黒ずくめの賊たちは何やら国の奥の方へ走って引っ込んでいく。




「――何だ? 形勢が不利と見てもう逃げやがったのか?」




 テイテツが、要塞都市・アストラガーロの地図を端末画面に立体表示したもので確認する。




「――いいえ。確信はありませんが…………要塞都市の形態上、国の中心部に向かえば向かうほど、国の政治部、国長などの居住区に近くなります。権力者を人質に取り、我々に不利な要求を突き付けるか、退却しようとしているのかも。」




「――なるほどな。よおし、おめえら! 奴らを追うぜ。誰も人質に取らせんな!!」




「よっしゃ!!」

「ハイっス!!」

「おーっ!!」




 エリー、イロハ、グロウは同時に応えた。寝込みを奇襲されたというのに、実に意気軒昂としている。こちらの士気は充分だ。





「おし、行くぜ!! ――――待てェ!! この黒野郎共ーっ!!」




 ――ガイは先頭に立ち、次いでエリーと、黒ずくめの賊たちを追いかけ始めた――――





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「――むっ。この道って――――」





 エリーが道の先にあるものに気付いた。と、同時に、突然賊たちが雄叫びとばかりに叫び始めた。





「――――下僕以下、俺たちゃ盗賊皇女殿下のもとへ!! 盗賊皇女殿下のもとへーーーッッッ!!」




「――――盗賊皇女殿下のもとへ!! 御力になる為に――――闘技場へ突っ走れェーーーッッッ!!」




「――――おおおおおオオオオオオーーーッッッ!!」





 ――走って国の奥へ、奥へと逃げながらも、雄叫べば雄叫ぶほど、賊たちは熱を高め、士気がどんどんと上がっていく――――





「――この感じ……それに、盗賊皇女殿下って――――」




「――マぁジかよ……! あいつ、シャンバリアから脱獄しやがったのか!?」




「――卑怯な手と足りない頭で筋肉働かせて動くだけって感じなのに、なっかなかにしぶとい連中っスね!! ……もっかい取っ捕まえてギルド連盟に差し出したら、追加で報酬貰えたりするんスかね?」




「――もしそれが有効であれば、我々にとって望外の臨時収入となりますが……恐らくは脱獄を許したシャンバリア行政の落ち度とみなされるでしょう。可能性は低いかと。15%±7%と試算。」




「――お金なんてどうでもいいよ!! もう国のあちこちに火を付けていっているんだ……今度こそ大人しくさせないと、大勢の人に迷惑がかかるよ!!」




「――そうよね……もっかいぶっ飛ばして、今度こそ厳重に牢へぶち込むか、せめて追い払わないと――――見えたわ! 闘技場よ!!」





 ――エリーたちが口々に会話しながら連中を追いかけるうちに、視界が開け、昼間訪れたコロッセオを思わせる円形闘技場へと辿り着いた。





 闘技場の内部には、その手で火を放ったのだろうか。賊たちが手に手に松明を掲げ、夜明け前というのに辺りは明るく照らし出されている。





「――――お頭!! 我らがお頭!! 盗賊皇女殿下!! お頭!! 我らがお頭!! 盗賊皇女殿下!!」





 ――闘技場内のあちこちに陣取った賊たちは、武器や松明を大きく掲げながら、まるで人気アイドルのライヴ会場の熱狂のように猛り狂った雄叫びのコール&レスポンスに燃えている。





 熱狂の渦は、どんどんと烈しく高まる――――





「――――いた!! あの塔の頂上――――って、アレ……?」





 ――現れた首魁を見つけ、エリーが叫ぶが…………同時に予想と外れた姿が見える。





 馬鹿と煙は高い所を好む――――もとい。下僕たちの士気を最高潮まで高め、期待に応えるべく、敢えて目立つ位置に立っている(多分)、その首魁の第一声と姿は――――





「――――ッィエエエーーーイッッ!! アタシのかわいい下僕たち♪ いつものみんなのアイドル――――ローズ=エヴェルちゃんのご登場だよー!! キラッ☆」





 ――もはや疑う余地もなく、雄叫ぶ盗賊たちを束ねる首魁はローズ=エヴェルその人だが…………やたらギラギラ電飾で光るマイクを手にして、アイドルらしいかわいらしい決めポーズを取って媚び媚びの嬌声を上げるその姿は――――やや華美な、アイドルらしい制服型衣装を纏う、どう見ても年端もいかぬ幼女であった――――





「――えっ……は? 何これ……何…………?」




「――どういうこった……これどういうこった……?」




「――あのケバいローズ=エヴェルが…………何かロリロリの幼女に変身してるッス…………嘘っしょ……ナニアレ……」




「――これは……これも練気チャクラを使っているのでしょうか…………練気の力は……測定不能。不明な現象です。」




「……なんか、かわいいー!! 本当にアイドルみたーい!!」




 グロウだけがワクワクしているが、他の皆は、自分たちの危機とはまた違う意味で顔面を蒼白とさせた。悪い意味で信じられないモノを見てしまった、と。





 ――何故ゆえか、幼女と化したローズ。ふりふりのミニスカート、どぎつい金髪は所々に紫のグラデーションと毛の端に黒のアッシュがかかり、髪質は鋭的で尖っているが、ツインテールにして結び目にラメをこれでもかと貼った星型のアクセサリーを撫で付け、ヒールの極端に高いブーツを履き、上半身はヘソ出しで、元々『あった』はずの胸元にはカラフルなビキニのようなブラを留めている。両手と首にはトゲトゲの腕輪とチョーカーを巻き、メイクはかつてのどぎつい濃いものではなく、あざとくかわいい地雷系っぽくなっている。





 本人の口から「ローズ=エヴェル」の名を名乗り、重厚な筋肉の息子たちならぬ下僕を従えてはいるが…………かつての女傑、クリムゾンローズ盗賊団の首魁の容姿のイメージとは程遠いと言わざるを得なかった――――





「――――みんなーっ!! アタシのゲリラライヴ……しっぽり楽しんで、そんで息の根止めていってね♪ テヘッ☆」

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