第131話 慰め、励まし

 ――――エリー一行は再び平野をガンバで駆けていた。




 ガラテア軍をひとたび撒いたとはいえ、オアシスで悠長にいつまでも休んでいるわけにもいかない。




 事をガラテアの好きにさせないためにも…………そして、グロウが自らの運命に従うにしろ逃げるにしろ…………有効な手立て。その可能性が残されているうちは、出来ることを全て試す。その気概でグロウをはじめ、一行は再び団結している。





「――テイテツ。あとどのくらいだ? その国へは……」





「――ガンバはかなりの速度で走行中ですが、まだまだ遠いですね。このペースで走行し続けてもまだ1週間近くはかかるかと。」





「そうか……また長旅の始まり、だな。」





「――ねー。その国って、ギルド連盟の本部があるっつってたけど、具体的にはどんな国なの? やっぱ、ギルド連盟の総本部があるくらいだからでっかい国?」






「――ウチも実際に行ったことはないスけど、風の噂で聞いたことはあるっス。冒険者たちの拠点ホームだけあって、なかなかに産業も商業も盛んらしくて、ガラテア帝国には負けるっスけど……なかなかの武力や施設を備えたトコらしいっスよ。要塞型都市で名前はアストラガーロ。」






 ――次なる目的地。要塞都市アストラガーロ。






 国の面積自体は小国と言っていいほどの規模らしいが、堅牢な壁などの防備が張り巡らされており、さながら要塞都市と言うのは伊達ではなさそうだ。





 そして、要塞都市特有の中央集権型の統治で、ガラテアほどではないが冒険者などからもたらされたあらゆる機密情報を保持し、謎に包まれている部分が多いらしい。





 その謎の一部にあたるのが…………エリーたちが求める秘密兵器。古代の戦艦を隠し持っているのではないか、と言う情報だ。






 もしそれが事実ならば、ガラテア軍に対抗しつつ世界中を飛び回って逃げることも――――そして、グロウが自らの運命を見定め、幻霧大陸へと至ることも、その両方が可能となりそうだ。





「………………」





「――グロウ。今は深く考え込まなくってもいいのよ。」





「――お姉ちゃん……」





 ――エリーはグロウの頭を撫でながら、憂慮するグロウに告げる。






「あたしは…………本当なら、そんなグロウだけにとんでもない重荷を背負わせて……この星の生命の刷新進化アップデートがどうのこうの、なんてのは全力で止めたい。出来れば世界中逃げ回るつもりでいるわ――――でも…………」





「……でも…………?」





「……それがもし、グロウが心からやりたいことで、自分で決断して出した答えなら…………無理に引き止めたりしない……つもりよ。言ってる自分でも自信ないけどね…………」






「――うん…………」





「……だから! 決めるのは本当に戦艦とやらが手に入って…………グロウが自分で決断出来る瞬間までは待ち続けるから。だから……一緒に旅をしている今だけは、思い煩ったりしないで…………お願い。」






 ――エリー自身も揺れていた。自分の意見と希望を告げ、グロウの決断を尊重するとは言いつつ……まだ自分の中で覚悟が決まらないでいる。





 だからせめて…………グロウが自らの意志で決断する、その時までは『共に旅する仲間でいさせてくれ』と、俯きながら……半ば懇願にも似た低いトーンの声でグロウに声を掛ける。






「――――うん。そうだね…………先のことはまだ決められないけど……その時が来るまでは僕はエリーお姉ちゃんたちの仲間。今は仲間だよ――――」






 ――少なくとも、今は共に生きる仲間。






 グロウ以上に憂慮するエリーに、グロウは力強くそう告げた。





 その言葉に、心なしかガンバの車内に張り詰めていた空気が少し解けたような空気になったようだ。憂慮して、不安に思っているのはエリーやグロウだけでなく、全員がそうだった。





「――げほんっ……そういやあ……あのガラテアの研究所へ突っ込んだ電撃作戦は時間が無かったんで気にすることも出来なかったが……燃料が残り少ねえかもな……途中で補給できる施設でもありゃあ助かるんだが……」





「――1週間という期間と距離を考えれば民家や集落と言った土地に立ち寄り、燃料を買うことも出来そうではありますが……保証は出来かねます。アストラガーロに到着さえすれば幾らでも補給出来るでしょうが……」






「――なアーに、心配要らないっスよ!! もし燃料が尽きたら、ウチが先に黒風を走らせて要塞都市アストラガーロから、ちょちょいっと燃料を買って来るっス!! 最悪、間に合わなくてもウチは錬金術師っスよ? 燃料を調合することぐらいやって見せるっス!!」





「――イロハちゃん、相変わらず頼もしい~っ!! 本当に仲間になってくれて良かったと思うわ~!」





「――仲間、ねえ…………あいつは……セリーナは一体どうしてるんだろうな…………?」






「――あっ……うん…………それも心配だよね。無事かなあ……」





「むっ…………」






 ――つい今は行方知れずの仲間を思い出し、口に出してしまったガイ。グロウに余計な不安を呼び起こしてしまい、『しまった』と言葉を詰まらせた。






「――だーいじょうぶよ!! 大丈夫!! そんな簡単に死ぬような奴に思える~!? きっと何処かで武者修行をして、10倍ぐらい強くなって戻ってくる気でいるのよ、きっと!!」






「――セリーナ側の携帯端末の不具合や電波の届かない場所にいるのかもしれませんし、常にこちらから応答を呼びかけています。通信さえ通じるなら応えるはずです。」






 エリーは、平生通りの豪快な声で、一行の憂慮を吹き飛ばそうとする。テイテツもまた、可能性を示して深く考えすぎないように促す。






 ――――誰かが落ち込んだり悩みこんだりしたら、別の誰かが精神的にフォローする。困難があれば助け合う…………そんな、これまでと変わらない旅路の仲間意識を働かせながら…………要塞都市・アストラガーロへの旅路が1週間ほど続いた――――

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