第113話 怒りを突き付ける先

 ――――ガイ、イロハ、テイテツ一行はエリーとグロウを救う為、進路をガラテア本国近くにある研究所に向けてガンバを駆り、荒野を走っていた。





 だが、ガイにとっては…………その途上で自分の中でケリを付けなければならない、としている場所へも向かっていた。






 エリーもグロウもセリーナもいないガンバの車内は広々と空いている。テイテツはいつも通り2階席でレーダー類と端末を操作してアシストしているが、イロハは3人との会話を聞き取りやすくする為(ついでに黒風の燃料を節約する為)、本来ならばエリーが座っているはずの助手席から運転するガイの顔色を窺っている。






 身だしなみを整える暇もなく、宿にも立ち寄っていないガイはボサボサの髪に髭面のせいか、エリーとグロウを救うという決意に目覚めたとはいえより一層険しい顔つきに見える。







 イロハはずっと気になっていた。訊くべきか迷っていたが……思い切って尋ねた。







「その……ガイさん…………途中にいるとかいう、叩き斬らなくちゃならない奴って…………誰なんスか? 敵、なんスよね…………?」







 ガイは表情ひとつ変えずに、冷徹にハンドルを操作しながら、低い声で答える。







「――あア。少なくとも俺にとってはな…………さっきの吹き溜まりみてえなスラム街でたまたま聞いたんだよ。生きてることにな…………」









「……それは…………どうしても先にやっちゃわないといけない相手なんスか……? エリーさんとグロウくんを助けてからでも…………」








「……そいつはならねえな。ガラテアの鳥頭野郎共からエリーたちを助けるとなったら…………俺らは生きて帰れる保証は何処にもねエ。幸い、グロウみてえに殺すことを咎める奴ァ、今はいねえ。だったら、斬るには今しかねえんだよ…………」








 ――ガイの双眸は冷たく、鋭い。そして今でこそ静かだが、確かな殺意に満ちていた。豪胆なイロハですら、そんな精神状態で標的の生命を奪いに行く決意をしたガイには上手く声を掛けられないでいる。内心、恐ろしいとすら思った。







「…………その、斬る相手について、訊いてもいいっスか…………?」







「――ツラを拝めばすぐに解る。会えばすぐ説明するぜ。俺にとっては、今なら奴を生かしておく百万の理由よりも殺しておく意志の方が勝るぜ…………」







「ガイさん…………」







 車内に張り詰める重々しい緊張感。






 いつもならエリーが場を和ませてくれるものだが、そんなムードメーカーたる仲間は今のところイロハぐらいしかいない。







 エリーとグロウ。ガイにとって最も大切な仲間であり、恋人であり、家族である。そんな2人がいないだけでここまで張り詰めてしまうものなのだろうか。







 イロハは、恐縮してそれ以上訊けなかった。








「――――間もなく目的地に到着します。ガイ…………もしやここは…………。」








 感情の起伏が無いはずのテイテツですら、心なしか動揺したような声色に感じられた。








「――――あア。アナジストン孤児院…………その跡地だな。奴はそこに住んでやがる――――」








 ――目的地はアナジストン孤児院跡地。エリーとガイのかつての故郷であった――――








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 ――かつてのアナジストン孤児院は、さすがに跡地という響きに相違ない。かつての子供たちや保護する大人たちの賑わいはなく、酷く寂れた廃墟のようであった。







「――着いたぜ。廃墟同然だが……間違いねエ。人が住んでる気配がするぜ。」







 ガイは車を停めるとすぐに、二刀を携え急くような足取りで跡地に往く。






「――ま、待ってくださいッス!!」







「――敵がいるのならば、仲間である私たちも同行する理由はあります。」







 足早に行こうとするガイに、慌ててついて行くイロハとテイテツ。








「――おめえら…………心配してついてきてくれんのはありがてえ。だが…………これは俺の問題だ。事が起こったら手出しすんなよ。」








 そう告げて跡地の一角の傷んだ木の扉をノックする。






 ガイが言ったように、辺りには薪を割ったり、バケツに水を汲んだりなど人間が生活していると見える痕跡がある。






 一体誰がいるのか――――








「――――誰だ。」







 扉の裏から声がする。しゃがれた、それなりに老いた男と思しき声だ。








「――――ガイ。ガイ=アナジストンだ。ガキの頃かつてのあんたの庇護にあったモンだよ――――あんたをぶった斬りに来た。まさか、逃げるとは言わねえよな…………?」








「――――!! ガイ…………本当にあのガイなのか!? なんと、懐かしい…………エリーとグロウを追ってガラテア軍に向かったと聞いた時、もう生命は無いと思っていた…………!!」








「――御託も、懐かし語りは要らねエぜ。とっとと出て来やがれ。そんで俺に殺されて、恨みを晴らさせろ――――アナジストン孤児院長先生よ。」







「――えっ!? い、院長……さん!?」



「やはり、目的は復讐でしたか――――」







 イロハが驚き、テイテツもどこか重々しく呟く。







 扉を開けて出て来たのは、かつての孤児院の院長――――真っ白な髪と髭を蓄え、よれよれの神父の装束を着た初老の男。かつてガラテアに加担し、エリーとグロウをあの悲劇の当日まで養い、そして差し出してしまった男だった――――

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