第110話 街道に独り

 ――――突如としたガラテア軍のニルヴァ市国への侵略。





 エリー一行とニルヴァ市国に滞在していた冒険者や練気チャクラ使いは奮戦し、一時はガラテア軍特殊部隊改造兵をも圧倒した。






 そのまま防衛は成るかと思われたが…………やはりガラテアは狡猾なまでにエリー一行より上手であった。






 エリー一行の前に突然現れた女――――アルスリア=ヴァン=ゴエティアの圧倒的な力により、為す術もなくエリーとグロウはガラテアへと攫われ、ガイたち他の仲間たちはイロハが編み出したはずの転移玉テレポボール……あっさりとガラテア軍技術開発部によってガラテア式のコピー品が作り出され、皆、世界中に散り散りに放逐されてしまった。







 エリーたちの命運は、如何に――――







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「――――はっ!? こ、ここは…………!?」








 ――ニルヴァ市国より遙か遠くに放逐されたイロハは、何やら見慣れぬ土地の街道の近くで意識を取り戻した。








「――何だあ、あの娘っ子は…………?」






「――遠くからいきなり飛んで来たぞ……魔性の類いか何かじゃああるめえな?」







 ――傍から見れば突然テレポートして現れたイロハ。街道を往く往来の者たちは彼女を好奇と猜疑の目で警戒しつつ見遣る。








(――そっか……あのアルスリアとかいう軍人さん…………いや、あんな禍々しいオーラをバチバチに放ってた奴が人間な訳ないっス!! ……に、あっさりウチの業物たる転移玉を使われて…………遠くへ飛ばされたんスね。――――くっそォ。まさかガラテア軍の技術開発部とやらがこんなにもあっさり、ウチの鍛冶錬金術の技を盗むなんて――――!!)






 ――情況を理解し、イロハはひとたび、拳で地を打ち据えた。無論、自分の分野を横取りされたこともそうだが、ニルヴァ市国を守り切れなかったことに悔恨と怒りが湧いてくる。







(――――いや。今は悔しがって不貞腐れてる場合じゃあないっス!! ここは何処か――――そうだ、端末!!)







 イロハは取り敢えず、自分の携帯端末を取り出し、現在地などの情報収集を始めた。







(――ううむ……ニルヴァ市国からはかなり離れた街道上っスね。近くに街がある場所に飛ばされたのが不幸中の幸いっス。他のみんなの行方は――――)







 ――イロハは専用のアプリで、他の仲間たちの現在地を調べてみた。







(――よっしゃ! まさか、こんな時にシャンバリアの街以降持たせていた発信器が役立つと思わなかったっス!! みんな、それぞれかなり離れてるけど、生体反応もあるっぽいっス。良かった…………ん?)







 散り散りになった仲間たちが取り敢えず生きていることにしばし安堵するが、エリーとグロウの行方を見て訝る。







(――――エリーさんとグロウくんだけは、同じ地点に…………でも、航空機みたいなので高速で移動してる…………行先はガラテア本国のデスベルハイム――――そっか。あのアルスリアとかいう奴に攫われたんスね! あの2人なら簡単に殺されたりしないと思うけど…………何としてもみんなと合流して助けに行くッス!! こっから近い地点にいるのは――――)







 イロハは、さらに端末で検索する。







 すると、真っ先にイロハ宛てに反応があった。







(――さっすが、こういう情報が欲しい非常時には頼りになるっスね、テイテツさん! 細かい現在地の情報と救難信号、さらに現地の状況をカメラでライブ配信までして知らせてくれてるッス!!)






 ――思えば、テイテツはモンスタースペックな端末を得たばかりであった。彼ならば、世界中の何処にいてもネット環境に接続し、仲間と連絡を取れるだろう。






 イロハはすぐさま、テイテツに向けて通話を試みた。






(テイテツさんと連絡が取れれば……すぐにでもみんなを助けに行けるはずっス。お願いっス…………!!)







「――はい。イロハですね?」







 ――切実な想いで反応を待っていたが、意外にも早く、いつもの通り抑揚のないローテンションで端末からテイテツの声が聴こえた。







「――ハイっス!! テイテツさん、無事なんスね!? あ~ん、良かったっス~!! こちらはニルヴァ市国から遙か南東……マサリクの街から出た街道の上っス!! テイテツさんは何処に!?」







 通話越しに仲間の声を聴き、安堵する。







「――こちらは、かつて通った場所……グロウのいた、ナルスの街の近くの山岳地帯ですね。タイラーの協力で製造したこの端末があって本当に良かった。多少通信環境が悪くとも世界中何処へでも繋がります。」







 イロハの端末からは、山岳地帯の風のごうごうと鳴る音が聴こえる。画面を見ると、確かに荒野の上の山の中に彼はいるようだ。







「――イロハ。貴女は全員に発信器を持たせていましたね? こちらと位置情報を同期してください。より精密に全員の居場所がわかるかも。」







「――あ、ハイっス!!」






 すぐに手早く端末を操作し、情報を同期する。







「――ふむ。なるほど……どうやら全員生きてはいるようですね。エリーとグロウのみ一緒にいて、行先は――――」







「――ガラテア本国のデスベルハイム、っスよね? あのアルスリアとかいう奴、とても人間とは思えないっス!! 得体の知れないことこの上ない……」







 ――豪胆なイロハですらも、あのアルスリアから受けたドス黒いプレッシャーには今なお強烈に恐怖していた。思わず泣き言も出る。







「――――ふむ。やはり位置情報は解りますが、こちらから2人に通信を取るのは不可能なようです。戦闘機に類する妨害電波ジャミングがかかっている。まずは早急にエリーとグロウ以外……そうですね。ちょうど私とイロハの中間地点近くにガイがいるようです。まずは彼と合流しましょう。こちらから連絡を取ってみます。貴女はそこまでの行く道筋は解りますか?」








 ――こんな情況でも冷静なテイテツ。その冷静さにイロハも我に返り、気丈に振る舞う。







「――勿論っスよ!! 幸い荷物も無事っス。ウチのバイク・黒風で地の果てまでも助けに行くッス!!」







 ――記した通り、黒風くろかぜとはイロハの愛車であるバイクに彼女が自ら命名したものである。インスタント・ポータブル・カプセルの中に収まっている。







「――了解です。まずはガイのもとへと急ぎましょう。――――旅のリーダーには、やはり早く近くに居てもらわなくては。」







「ハイっス!! じゃあ全力でカッ飛ばして行くッス!! テイテツさんも道中、ご無事で!!」






 ――テイテツからの、珍しく仲間を想う言葉。イロハはまだ希望が潰えていないことを確認し、俄然勇気を漲らせた。






 そして、黒風を取り出し、エンジンなどが無事であることを確認し――――街道を駆けて行った――――

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