第102話 対練気磁力攻略

 ――エリーと改子は痛み分け。仕切り直す形となった。





 エリーたちは、以前のセフィラの森林地帯での戦いの後から、改造兵4人が見せてきた練気チャクラの能力の情報を共有し、思い返していた。





 バルザックは、磁力を操って引き寄せたり弾いたりする能力。改子は今まさに見た通り、幻覚を見せて来る能力。






 メランは練気で練った気弾を縦横無尽に撃って来る能力。そして、ライネスは他人の練気を模倣コピーし、組み合わせて使う能力。エリーの練気すら既に僅かながら模倣しつつある。






 どれも戦闘において非常に恐ろしい能力だが、シンプルに考えると怪力を誇るバルザックと、突然幻覚を見せて来る改子辺りが厄介だろうか。しかもこの2人はグロウの精神干渉を受けていないので依然として戦闘狂のままだ。






 そもそもグロウの精神干渉がどのような精神的効果をもたらしているのか、未だ不明な点は多いが、ライネスとメランは少なくとも他人の生命を奪うことに躊躇いを見せている。そこに付け入る隙はあるだろうか。







 いずれにせよ、エリーたち6人でのセオリーな隊形はあまり変わらない――――






 いつもの通り、最前衛を攻撃、耐久共に最も優れたエリー。次いでガイ。空中走行盤エアリフボードを媒介にした練気の翼竜で空中を飛び回れるセリーナが遊撃手。中衛から攻守のアシストをするイロハ。そして体力的には最も心許ないテイテツとグロウは後衛だ。







 皆、素早く陣形を組み、次の敵の攻撃に備える――――






「――ふはあっ!! そこのロン毛の兄ちゃんよォ!! 俺と戦って学習したはずだろォ!! そんな金属の鎧を着てちゃあ――――すぐに圧殺だぜエ!!」






「――うおおッ!!」







 ――バルザックが両手に練気を集中し、たちまちガイが宙を飛んで吸い寄せられる。今度は改子の幻覚ではない――――!!








「――むううん!?」







 ――だが、バルザックは金属質の敵を捕まえる、いつもと違う感覚に唸った。







 強制的に吸い寄せられるはずのガイは空中で巧みに姿勢を制御し――――身体の捻りを効かせて二刀による斬撃を見舞う!!






「――せりゃああああッ!!」





「――ぐおお…………ッ」







 ――以前とは桁違いの切れ味に達した、ガイの斬撃。新装した刀の威力もあり、バルザックの胴に深々と十文字に斬りつけた!!







 すぐに飛び退くガイ。








 そう。ガイはバルザックの練気で吸い寄せられたのではなく、自ら飛び掛かっていたのだ。







「――このイロハが誂えてくれた鎧に防具、そんで刀。切れ味もすげえが、マジで磁力の類いもあまり通さねえたぁな……すっげえ業物。さすがイロハだぜ。」







「――にっひひひひ~。あんま褒めないで欲しいっス~。そんなウチが宇宙一どんな鍛冶錬金術師をも超えたスーパー鍛冶錬金術師だなんてそんなそーんなあ。」







 ――ガラテア軍に侵略され、窮した状況に変わりはないがタフなイロハはこの修羅場でも快活に微笑んで見せる。






「――ぬっ!! ……ふううううう…………」







 ――一瞬、逆上し怒りに我を忘れかけるバルザックだが、顔に血管を浮き上がらせつつも堪えて、練気を集中し、深手を負った傷を治す――――







「――ぐほああああッ!?」







「――練気で回復させる間も与えん!!」







 ――だが、隙を見せれば、即座に空中を練気の翼竜で飛び回るセリーナが追い討ちを加える。すれ違いざま、大槍でバルザックの身体を、穿ち抜くまでは至らずとも幾度も削り飛ばす。






「――隊ッ長!!」

「――やっぱり、やるしかないのねえん……」






 ――躊躇っていたライネスとメランだが、さすがに仲間の危機に自然と身体が動いた。練気の気弾を2人で撃ってセリーナを狙い、牽制する。







「――飛び駆けろっ!! せえいッ!!」







 ――翼竜を乗りこなしてきたセリーナは気弾の嵐を華麗に避け、一撃即離脱の遊撃手としての働きを十二分に行なった。







「――ぐッ…………ぬうううンンン!!」






 ――バルザックはダメージに膝を付きながらも、練気で磁力を集中し、セリーナを捕らえようとするが……当然新装備はガイの物と同じイロハ謹製の特殊鉱物で出来た槍と鎧なので、充分に引き寄せられない。







「――ぐむむッ――――なら、てめえからだあああああーーーッ!!」






「――うわっち!!」







 思う通りに磁力を操れないバルザック。激昂し、ならば鉄塊を担ぐ者なら、とばかりにイロハを狙った。






 さすがに巨大な戦闘用ハンマーを担いでいるイロハは吸い寄せられ、宙を舞う。






 しかも本来は頭脳明晰であるバルザック。激昂しつつも冷静に、ハンマーとイロハがくっついて離れない状態のままその両の手に掴もうとする。






「――ヤッバ……イロハ!!」






 イロハの危機に咄嗟にエリーが走る。捕まれば以前ガイが喰らった投げ技一発で生命の保証は無い。間に合うか――――






「――にっひっひっひっひぃ……そう来ると……思ってたっスよ!!」







「――――なあにぃ――――」







 イロハは、自ら開発した『練気発動サプリ』の効き目はまだ充分に残っていることを確認し、ニヤリと笑った。







 瞬時に全身に電磁力付与サンダーエンチャントによる電気を纏う。自ら強力な電磁圧を纏えば、バルザックの練気の磁力も乱れる。








「――――どおおおおおりゃあああああーーーッッッ!!」







 ――豪烈にハンマーがバルザックに振り下ろされる刹那。巨大な雷がバルザックの全身を打ち砕く――――!!

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