第103話 投擲戦

「――があ……はあ…………ッ!!」





 ――――イロハからの雷撃混じりの強烈なハンマーの殴打を受け、バルザックは堪らず、うつ伏せに倒れ伏した。重い肉体がずずん、と沈む音が響いた――――






「――よおおおおしっ!! まずは1人――――」






「――ぜえっ……ぜえっ……ぬううううんんん!!」






「――おわっ!!」







 ――バルザックは、辛うじて気を失わず、倒れながらも練気チャクラを放ち、『弾く』磁力を以てイロハを遠くへ吹っ飛ばした。







 深手を負わせ、どうやらバルザックの磁力を操る練気はほぼ攻略したようだ。バルザックは、荒く呼吸しながらも、何とか練気で傷を癒そうとする。






「――ふううう……はあっ……はあっ……ぜっ…………どうやらァ……こいつらに俺の練気は却ってまずいみてえだなあ……」






「――隊長ッ!!」

「――隊長ぉ……!」






 ライネスとメランが、仲間の危機に駆け寄ろうとするが――――






「――ええい!! 寄るな、触るんじゃあねエッ!! 動けない俺に構うな……お前ら少しでもあいつらぶっ殺しに行けィ…………」







 苦しみながらも、バルザックは咆哮し、ライネスとメランに目の前の敵を討てと命ずる。






「――畳みかけよう!! グロウ、あの手で!!」




「――わ、わかった!!」






 後衛にいるグロウにエリーが声を掛ける。グロウは即座に練気を集中し、察した皆はグロウと敵との間に空間を開ける。







「――ふうううううう…………枯れ葉たちよ…………!」







「!! な、何だィ、あの小僧の馬鹿デケェ練気は!?」






――エリーとの組手でも見せた、自然物に練気を通して自由自在に戦う戦法。枯れ葉一枚一枚に練気を通すこともそうだが、ライネスはほんの数ヶ月前まで練気を会得していなかったはずのグロウが、とてつもなく膨大なエネルギーの練気を出力出来ていることに驚かざるを得ない。






「――ッハッ! 何かと思えば、ただの枯れ葉じゃん。あんなもん飛ばしてきたって、あたしらに傷ひとつ付けられるわけねエんだよッ!!」






「――それはどうかしらぁン……油断しないで! 来るわよン!!」







 ――蹲るバルザックを除き、3人が構える。






「――行けっ!!」







 ――グロウの練気を込めた枯れ葉乱舞が嵐の如く3人を襲う。






「――ふっ!!」

「――おりゃあっ!!」

「――ううんっ……」






 同時に四方へ回避するライネスたち。







 だが、グロウの枯れ葉乱舞は、エリーと組手をした時の強さの比ではなかった――――






「!? ――速え――――」

「うっそォ!?」






 ――――想像を遙かに超える枯れ葉の飛ぶ速さ。






 加えることの、もはや単なる刃物以上の鋭利さを持つ練気で強化された枯れ葉――――避け損ねたライネスと改子は、たちまち全身に切り傷を負った――――







「――当たった!! 『活性化』、そして『化合』だっ!!」






「――ぐっ!? あっ……!!」

「――うあっ…………しま……った……このガキは…………!」






 ――たちまち例によって、自然物に含まれる雑菌を活性化させ、血液と化合させることによる猛毒。ライネスと改子はそのまま着地するも地に這いつくばった。






「――改子!! ライネス――――ううぅうンッ!!」







 辛うじて枯れ葉を避けていたメラン。攻撃を喰らった2人を案じるも、自分にもまだ枯れ葉が飛んでくる――――メランは素早く練気を練り、瞬時に気弾を作り出して枯れ葉乱舞に撃った!!







「――んんっ……ただの枯れ葉と思ったらとんでもない威力ねぇん。あの子、凄いわぁン…………」







 ――メランは自身の強力な気弾ならば枯れ葉乱舞を突き抜け、グロウのもとまで飛ぶかと思ったが……想像以上に練られた練気の枯れ葉。メランの気弾の威力と互角程度のようだ。撃っても撃っても、枯れ葉と相殺して弾けて消える。






 それまでのメランならば、自分の生命を脅かす強者との戦闘は、情欲すら伴うほどの歓喜でしかなかった。






 だが、彼女は気付いているだろうか。目の前の強者たちに追い詰められる自分たちが生命を摘まれることに、恐怖を感じていることを――――







 ――やがて、枯れ葉乱舞は気弾で全て破壊した。だが、グロウはすぐに次を準備している――――今度は、その場に無数に散らばる石つぶてだった。元々の硬度が枯れ葉より高い分、より威力が高く危険そうだ――――






「――ううっ…………忘れてたよ……そいつは練気か何かわかんないけど……自然物を操ったり、自然物で出来た傷口から猛毒を流し込めんだ…………思えば、あたし……あれで一度死んでたよ――――」






 ――恐らく、グロウの能力で初めて毒を受けたであろう改子が、再び熱毒に魘されながらようやく思い出し、他の3人に告げる。







 職業軍人ならば一度相まみえた敵の攻撃はすぐさま仲間と情報を共有して対策を練るものだが、皮肉なことに4人は戦闘狂の改造兵。戦闘への歓喜と心地良い闘争心に溺れるあまり、リスクヘッジの精神というものが欠けていたのだ。





「――改子ぉ!! ライネス!! すぐに解毒剤で毒を治してぇ!! あの子の飛び道具はぁ…………私が防ぎきってみせるっ!!」







 ――メランはグロウの練気の石つぶてに対抗すべく、一気に出力を上げて大量の気弾を作り出した――――

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