第98話 熱源反応


 ――――エリー一行たちが着実に、それも目覚ましい早さで実力を付けてきているのを感じ、ヴィクターとカシムは2人、エリーたちが飯を食いに行っている間に、修行場近くの公園で茶を嗜んで、しばし憩いの時間としていた。





「――最初にドルムキマイラに襲われているのを見た時は……まさか、ここまであいつらが上達するとは思わなんだなあ…………」





 ヴィクターは茶を一口啜ったのちにそう呟いた。カシムもまた微笑みながら話す。





「――確かに、あの時点では練気をある程度修めた私たちから見れば赤子のように頼りないと思えてしまったな。だが……それでもドルムキマイラを自分たちで1体は倒したのを見れば、やはり資質はあったと見るべきだろうな。それも、とてつもない逸材たちを――――」






「――ああ……とうとう、俺らの知る限りではエリーたち……あいつらが、これまで稽古を付けて来た修行者の中で間違いなく最も強い使い手になってしまった。もはや、ガラテア帝国軍にもあれほどの使い手は存在せんのでは?」






「かもしれないね……だがいずれにせよ問題なのは…………これからの彼女たちの旅の行く先に待ち受ける困難。練気チャクラの実力を付けていても、彼女たちの境遇や求めるものを考えると、いつでも平穏な心持ちというわけにはいかないだろう…………」







「――うむ。ガラテア帝国軍の支配を掻い潜りながら安息の地を求めること、愛する伴侶との未来の為に知見と強さを求めること、何より…………己の存在の意味を知る為に、幻霧大陸なる人類未踏の地への挑戦。ガラテアの脅威を考えると、あいつらの行く先は波乱に満ちていると言わざるを得ない。いずれここニルヴァ市国から送り出すのが、まっこと惜しい連中よ。」






「左様だ――」






 2人は神妙な面持ちで、また一口茶を飲み、溜め息をつく。






「――だが、もう一生出会えないだろうという逸材相手に、私たちは教えることが出来た。彼女たちの未来に少しでも幸多からん事を祈るばかりだ。他に出来ることはそうあるまい?」






「――そうだな。寂しい限りだが、その時は盛大にあいつらを祝福して送り出したいものだな――――無論、事を成し遂げてまたこの地を訪ねてくれた時にも、な――――」







「うむうむ。ほんの短い間かも知れないが、彼女たちの師匠になれた。それだけでもむしろこちらにとって喜ばしいことだ。なあ相棒よ――――」






「ふふ」


「はっはっは」







 ――着実にエリーたちが、これまで指導して来たどんな修行者たちよりも実力も心胆も養ってきたがゆえに感じる、一抹の別れの寂しさ。それなりに年も召してきた2人の修行僧は忍び難い思いを感じながらも、密かにエリーたちの前途が良きものでありますように、そう祈った――――







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 ――一方。当初はグロウの身体と能力、そしてルーツを調べる為に動いていたテイテツとタイラーだが、一行が本格的に修行に入ってからは、新しい端末の開発やニルヴァ市国内の人々との交流、そして今後の旅の算段などの計画に明け暮れていた。







「――おお。テイテツ。遂に出来たぞ…………! 完全に設計図通りにはいかなかったとはいえ、お前が使いこなすのに値するモンスタースペックな端末が! これで、あらゆる情報処理やネット行動に使えるはずだ。ささ、起動してみろ。」







「そうですか。ではお言葉に甘えて…………ふむ。起動も早く、読み込み《ローディング》も滑らか。通信ユニットも搭載で、実質世界中の何処でもネット接続が可能。スーパーコンピューターで管理するようなビッグデータにすら大部分を対応可能。しかも頑丈、軽量。ガラテア帝国軍の最新の軍用端末を遙かに凌ぐスペックです。ご協力をありがとうございます、タイラー。貴方の協力と設備がなければここまでの端末は制作不可能でした。」






「礼なら、あのタタラ=イロハちゃんに言っといてくれ。あの子が作ったパーツ類こそまさに神がかり的、職人技の極致だったぜ。いずれあの子とも業務提携させてもらって、デバイス類の正統進化への礎とさせてもらう目標が出来たよ。」







「ええ。ガラテアとは違うデバイスの進化は、大いに科学者たちや端末愛好家たちに可能性を示すでしょうね。」







 ――タイラーは微笑み、テイテツと握手をした。お互いに、真に得難き友がいてこそだ、といった風情だ。







「――そして、話は変わるのですが…………グロウのルーツが幻霧大陸にある可能性がまた上がる根拠が増えました。30%±5%程度は上がったでしょうか……」






「何? というと…………?」






「――以前、ナルスの街近くの遺跡…………グロウと出会った場所で採掘した遺物です。謎の文字が書かれた石板や、家畜の飼料と思われる残骸、儀式的な意味合いが強そうな刀剣類など――――幻霧大陸から流れ着いたとされる人間の遺体に残されていた情報に多くが照合しました。」






「!! …………つまり……グロウはやはり、発見された遺跡からしても、幻霧大陸の謎の民族と関係が深い、と言うことか――――!!」







「まだ100%の確定事項ではありません。ですが、信憑性はかなり高いかと。練気の修行もかなりエリーたちは身に付けた様子。今後の判断は全員に相談して委ねますが……」






「――旅立ちの時が近いってことか…………だとしたら、寂しくなるな……」





 ――感慨深く溜め息をつくタイラーだったが――――次の瞬間、2人に緊張が走った――――





「――――!! お待ちを……タイラー。ここのレーダーを見てください。」







「――何? …………!! これは――――なんてこった…………ッ!!」







 ――研究所と、今しがた完成したばかりのテイテツの端末のレーダー類には、熱源反応が幾つも映っていた。






 そしてその熱源のパターンは戦闘機の類い――――ガラテア軍が目の前まで迫ってきていた――――

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