第99話 防衛戦、開始

「――――ニルヴァ市国のみんな!! 今すぐ逃げるんだ!! ガラテアの大軍が迫っている!! 今すぐ山を下って逃げるんだ――――!!」






 ――そう懸命に国中に繋がっているスピーカーから住民たちに呼び掛けるタイラー。






 当然、非力な住民たちの多くは、急いで家財道具を持ち出し、脱出を始めた。






 だが――――腕に覚えのある勇敢なる練気チャクラ使いや冒険者たちは、既に遠くの空を覆い尽くしているガラテア軍に対し、敢然と迎え撃つ気だ。







 それは、エリーたちとて同じであった――――







「――ガラテアの糞ったれめ!! とうとうニルヴァ市国まで手にかける気かよ…………!!






「あの戦闘機……レーダー類で見ても多くの武装を積んでいます。侵略してきたというのにはまず間違いありません。」







「遂に、ウチもガラテア軍とドンパチ始めることになっちまうっスか……母ちゃん! 見守っててっス!!」






「やらせるものか…………ッ!! 私たちはここで強くなれたんだ!! 守り切ってみせるぞ!!」







「――エリーお姉ちゃん!!」








「――わかってるわ!! 当然よ――――ここは守ってみせる。誰一人死なせない――――!!」







 エリーたちは突然のガラテア軍の侵攻に戸惑いつつも、意気軒昂――――全力をもってニルヴァ市国を守るつもりだ。







 機影が見えるなり、ガラテア軍の前衛の戦闘機が火を噴いた――――バルカン砲とミサイルを撃ち込んできた。ニルヴァ市国の高所の建物が破壊される――――






「あいつら、宣戦布告も無しかよ!! マジでやるしかねエ――――!!」






「上陸される前に、少しでも撃ち落とすわよ!! ガイ!! テイテツ!! イロハ!!」









 ――――遠距離からの攻撃が可能なエリー、ガイ、テイテツ、イロハがまず前に出て空の敵を睨む。







「ふううううう…………120%開放――喰らえッ!!」





 ――もはや敵が撃ってきた以上、容赦は出来ない。エリーは高出力に練気を開放し、両腕に溜めた炎の練気を、一気に空に向けて放つ!!







 稽古とは違う、倒す覚悟をしたエリーの火炎は凄まじい。一波で巨大な火炎は軍の前衛を覆い尽くし、かなりの数の戦闘機が炭となり空に散った。






「はああああ……そりゃっ!! ふんッ!!」






 火炎を逃れた機影にも、ガイが練気を集中し、二刀に溜めて、抜き放つ――――会得した斬圧による飛び道具で、敵機は一刀の度に1機、また1機と真っ二つに切り裂かれ、爆発して散る。






光線銃改ブラスターガン・ネオ、最大出力。パラライズモードで広域放射開始――――!」






 この3ヶ月でテイテツの光線銃もますます改造が進んだ。さらなる高出力で電磁圧を空の彼方まで激しく放つ。直接機体を破壊せずとも、電気系統がいかれた戦闘機は次々と回路がショートし、やがて撃墜されていった。






「――ふふん! 練気発動サプリならたんまり用意してるッスよ…………電気を溜めて溜めて~っ――――おりゃあああああッッッ!!」







 イロハもまた練気を一時的に使えるようになるサプリを飲み、電磁力付与サンダーエンチャントを駆使して戦闘用ハンマーを振り下ろし――――大軍に対し巨大な雷の雨を降らせた! 次々爆発し、撃墜されていく。






 4人がそうして広範囲に、遠距離から絶えず攻撃を仕掛け、次々と撃墜していくうちに――――段々と機影は見えなくなり、辺りが静かになってきた。







「――あん? まさか、もう終わりかよ……?」





「私やグロウの出る幕も無かったのか……?」






 鉄風雷火が激しく音と光で辺りを揺るがしていたはずが、突然、静寂に包まれる。もう戦いに勝ってしまったのか。







 ――もちろん、そうではなかった。不気味なまでの静寂は、タイラーのスピーカーからの声に打ち破られた――――







「――みんな!! そいつらは無人機だ!! 本隊じゃあない…………ただの斥候と陽動だ!! 本隊は――――背後からもう上陸している!!」






「――えっ!?」


「――んだと!?」






 ――――エリーたちが全く気が付かぬうちに、背後を取られていた。ガラテア軍本隊は、タイラーの研究所のレーダー類にも、テイテツの端末にも反応を捉えにくい、ステルス機で音も立てずに忍び寄られていた。







「――待って! これは――――みんな、目に練気を集中してッ!!」





 エリーが呼びかけ、練気が使える者は目に練気を集中して凝らして後ろの空を見る。







 ――光学迷彩のようなモノで巨大な機影のほとんどを隠していた。練気で目を凝らせばハッキリと見える。次いで耳にも練気を集中すれば、微かにエンジン音も聴こえて来た――







「――気付かれたようです。リオンハルト准将閣下!! 指示を!!」






「――もう充分に接近した。ステルス迷彩機能を解除。砲撃で牽制したのち部隊を降下させよ。」






「――はっ!! ステルス迷彩機能オフ。威嚇砲撃ののち、部隊投下準備ッ!!」







 ――冷酷に戦いを指揮するリオンハルト。その傍らには――――






「――おやあ。やるもんだねえ。リオンハルト。いつにも増して、作戦に慈悲が無い。これなら間違いないかもねえ。」






「――作戦中は私語は慎みください。貴女に言われるまでもありません、アルスリア中将補佐……。」






 ――リオンハルトにとっては目の上のたん瘤どころではない。アルスリアも来ていた。本国にいた時と同じように奔放に、しかし残虐な笑みを浮かべてニルヴァ市国を見下ろす。








「――くそっ!! 奴らが降下する前に撃ち落とすぞ!!」






「――やってるわ!!」







 エリーたちは慌てて、背後から迫る本隊に向け、練気と銃器による攻撃を行なう。ニルヴァ市国にいる他の練気使いも懸命に抵抗し、共に戦う。







 だが……ただの航空戦闘機ならまだしも、戦艦クラスの機体は余程特殊な技術を凝らされて建造されたのか。ガイやエリーが全力で攻撃しても、目立ったダメージも与えられずこちらに迫ってくる――――






 ――突然。戦艦から何やらカプセル状のモノが投下された。爆弾などの類いではない。







 カプセルを割って、中から次々と現れたのは――――






「よおう。ひっさしぶりだなあ。ピンク髪の姉ちゃんたちよ――――」






 ――――以前戦った、ライネスたち特殊部隊4人だった――――

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