第86話 脳力
――一行が食事を終え、それぞれのやるべきことへ専心することへ戻る。グロウも再び、タイラーの研究所に訪れ、検査を再開していた。
「――ふむ……どうやら内臓などは本当に普通の人間の10代前半の少年と変わらないようだな…………遺伝子情報があれほど特異なら……内臓も大きく異なると思ったが――――」
「――確かに、身体能力そのものは少年そのものです。他の体液からも異常な数値は見られませんでした。思えば……ここニルヴァ市国へ至るまでの厳しい登山で疲労困憊に陥った様子を見れば、少なくとも体力は頷けるものですね。」
「ああ。だが…………恐らく本題はここからだ。脳波系を詳しく調べるぞ。」
「了解です」
――テイテツは検査室に入り、グロウに断りを入れてから、無数の電極と配線が付いたヘルメットを頭に被せた。
脳の仕組みは未だに人類の科学を以てしても未知なる部分が多い要の箇所。タイラーとテイテツは、何か特殊なものが解るのではないかと期待をした。
「――――よし。始めるぞ……グロウ。まずは平常心だ。自然体のままそこの椅子に座っててくれ。」
「うん、わかった。」
まずは、通常の状態から見てみる――――
「――これは……」
「もう何か解ったのですか、タイラー?」
「……平静時の脳の状態を見ただけだが……脳組織そのものに異状は無いし、年齢相応の脳と言えなくもない。ただ――――」
「……ただ?」
「テイテツ。お前たちはグロウと出会ってどれくらいになる…………?」
「……遺跡で出会った頃から4ヶ月ほどですね。まだ半年にも至っていない。」
「たったそれだけか! グロウの脳は、思春期を迎えた少年のそれとは比べ物にならない早さであらゆる箇所が発達している……! とても4ヶ月程度でここまで成長するとは思えない。知能や情緒などを示すIQやEQも、たった4ヶ月で別人と見紛う程成長している!!」
まだ平静時の脳を調べた程度だが、まずタイラーはグロウの脳の異様な成長速度に驚愕する。やはりこの辺りは人間とは異なっているようだ。
「――そういえば、そうでした。遺跡で出会った当初のグロウは、肉体はともかく精神的には何も知らない幼児のようでした。冒険を共にするうちに精神年齢とでも言うべきものがかなりの早さで成長していったように思えます……出会った当初が5歳児程度だとすると、今は14歳かそれ以上かも。」
「それを早く言わないか! ……と言っても…………一番細かくグロウを観察して来たお前は感情系が機能しにくい状態だと、そういった変化に疎いのも頷けるな。すまん。」
「いえ。こちらも申し訳ございません。違和感に気付いてはいたのですが、盲点でした。」
グロウの脳や精神系の変化の兆しに、思わず一瞬取り乱しかけるタイラー。平常心を保ちながら、次の検査に移るべく、マイクのスイッチを入れる。
「――よしグロウ。目の前に植木鉢に入った、枯れかかった花があるだろう。そのヘルメットをしたままだと重いだろうが、すまん。君の治癒の力でその花を生き返らせてみてくれ……」
「――う、うん……」
グロウは、重たく鬱陶しいヘルメットを不快に思いながらも、すぐに目の前の机に置いてある枯れ花の植木鉢に手を差し出し、精神を集中した――――
「――――すうううううう…………」
――例によってグロウが深呼吸をしながら念じ、緑色の光と風を伴って目の前の枯れ花を蘇らせていく。その状態の脳の状態を観測していくと――――
「――――これは…………一体何だ…………!?」
つい先ほどの、グロウの異様なまでの脳の成長速度を見た時より殊更大きな動揺がタイラーに走る。
慌ただしく目の前にある計器類をチェックしながら、大型の端末にキーボードで様々な入力処理を行なっていく。
「――――や、やはり……ヒッズ、お前が最初に観測した通り、
「――やはりそうでしたか。全く未知の物理現象……活性化と急成長の力までは観測出来ますが、これほどの波動が脳から発せられているのを見ると……人間に未だ到達していない強力な能力が使えるはず――――」
「――――い、いや、待て…………この波動のパターンの特徴は……もしかして――――」
――全く未知の物理現象。
そう思ってきたテイテツたちだったが、ここでタイラーはある可能性に思い当たった。
――やがて、グロウにとっては当然のように、枯れた花は枯れるどころか、今にも花弁から蜜を垂らすほどにつややかに、生き生きと若返った。
「――ふうーっ……」
グロウが集中を解く。途端に、大きなエネルギーを費やした疲労感が少し湧き出る。
「――むう……あれだけの高エネルギーと波動…………常人ならば少し疲労するどころか、過労で気絶してもおかしくないはずなのに…………」
「――実際に、グロウは力を高頻度で乱発すると、エネルギーの消耗に耐え切れず気絶します。セフィラの街近くでのガラテア軍人たちとの戦いでもそうだったようです。イロハから聞いたのですが……」
「……そうか…………だが、精神集中状態であれほどの高エネルギーで『少し疲れた』程度で済むのは、やはり人間の力では……いや、しかしこれは――――」
タイラーは、半ば狼狽し、半ば混乱しつつも、必死に目の前のグロウに起きている現象について分析する。
「――――うむ……可能性はあるが、まだ結論を急ぐのは先か――――すまん、グロウ。力を使うのは疲れるだろうが、お陰で君の能力やルーツが少しでも解りそうだ! 引き続き、君が自覚している限りの能力をやってみせてはくれないか? 疲れ過ぎた時は決して無理はするなよ!」
「――本当に? う、うん…………やってみるよ。」
グロウは、タイラーの『少しでも謎が解明できそう』という言葉に若干の安堵と期待が胸に湧いた。
続けて、グロウは気力が許す限り、検査を続けていった――――
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