第61話 結束とカリスマ、逆襲
――――地下カジノ都市、シャンバリアの財も快も悦も何もかも喰らいつくす。
そんな蛮勇を持って攻め入ったはずの盗賊皇女殿下・ローズ=エヴェルだったが、突入して間もなく、何やら外来の民に返り討ちにされかかっている。
タフで屈強な『かわいい息子たち』こと大勢の子分たちが、ものの6人程度の敵相手に大きく突き崩されて、形勢が不利に転じてきている。
おかしい。我らは世界を荒らしまわる盗賊の中の盗賊。ものの6人程度の余人に負けるはずがない――――
「――――――。」
ローズは何事か、近くの最も信頼の置く子分に耳打ちしたのち、怜悧に引き締めていた創面を再びその争気に満ちたギラついた喜色に変え、地をひと打ちしたのち、鞭を撫でながら一歩、二歩と前へ勇み出た。
「――――フッ!! 容易く街を喰っちまうわけにはいかないかい。そうでなきゃあ面白くないと思っちまってたところさね!」
急に前進し出したローズの前方を守っている子分が叫ぶ。
「お頭ァ!! お退きをォ!! このままじゃあやべ――――あだっ!!」
――首魁の身を案じる子分の愛――――否。首魁自らが攻勢に出ることを遮るという
「――退きなっ!! んなことは百も承知さ。だからアタシが自ら奴らを処刑してやろうってんだい!!」
「――――ッ!! ガイッ!!」
「――うおっと!! 危ねえ……」
突如、遠方からローズが手に構えた巨大な装飾銃を吼えさせ、ガイを狙い撃ってきた!! エリーの声に間一髪反応したガイは刀で弾丸を弾く。
不意打ちとは言え、遠方で子分たちが敵ともみ合っている中、子分に当てないようにガイだけを狙って撃ってきた。猛り狂う女傑の気質に反し、驚くほどの精密射撃である。
「――ちっ。このままいけるかと思ったが……そうもいかねえか。どうやらお頭自らのお出ましだぜ――――一旦距離を取れ!!」
ローズ自ら攻撃を仕掛けて来たのを見て、状況が変わったことに気付くガイ。皆に号し、素早く飛び退く。
「――おや。今の一射でもう状況判断が済んだのかい。相当戦い慣れしてるねえ……やっぱ舐め腐ってたのはアタシの方だったねえ。せっかく街の警備の薄いタイミングを狙ったってのに、こんな強い冒険者共とたまたま出会っちまったのがケチのつき始めかい?」
ローズは、誰ともなしに己の不運と油断を語りながら、鋭いヒールで地を突き刺すように踏み鳴らしながら前へ、前へと歩み出てくる。察した子分たちが横側を守りつつ、道を開ける。
「――いいやッ!! ケチのつき始めにしてたまるモンかい!! 墓穴を掘ろうが、罠にかかろうが…………アタシは喰らい尽くして進んできた! これからもそうさ――――アタシのかわいい息子たちよ!! アタシは一体何者かい!?」
突如、両手に持った拳銃と鞭を高々と頭上に掲げ、ローズは子分たちに問う。
「――――ローーーーーズッ!! ローズ=エヴェル!! 俺らのお頭ァア!!
――エリーたち6人と言う思わぬ強敵を前に士気が下がりかけていた子分たちは、再び一斉に轟然と猛り狂った雄叫びを上げ、ひとたび、ローズに頭を垂れてかしずく姿勢を取った。ある意味、ガラテア軍人以上に訓練された主君への奉公と忠誠心だ。
「――そおおおおおうともッッッ!! それじゃあ……そんなアタシに付き従うアンタたちは何者かい、かわいい息子たちよ!!」
「――――ローズ様!! ローズ様の子分!! しもべ!! 従僕!! 誰よりも誇り高き賊の騎士!! うおおおおおおおーーーーッッッ!!」
ローズの呼びかけに、ますます子分たちは高揚し、蛮族がまさに闘争で雌雄を決す場における雄叫びを上げる――――もはやローズのコール・アンド・レスポンスひとつで士気は完全に回復した。
――――どうやらこの盗賊団、ただのやくざ者の集まりではない。ローズを筆頭に金剛石よりも固い結束で結ばれた一団のようだ。
それは、力のみを信奉するガラテア軍にはあまりないものだった。案外、その結束力ゆえに世界に悪名高き盗賊団と恐れられているのかもしれない。
「……な、何なんだぁ、こいつら…………お頭の女のひと声だけで、まるで今戦いがおっぱじまったばかりみてえに元気になりやがった……」
「すっごい気合いと熱気ね……」
「本当にこれが盗賊共の集まりなのか……?」
――もう一押しで戦況は決するかと思われたエリーたちだったが、ガイもエリーもセリーナも、クリムゾンローズ盗賊団の士気の高さとその結束力…………ひいては、ローズ=エヴェルという女傑の得体の知れないカリスマ性に動揺する。
「――ふむ……少なくとも数では圧倒的に不利……このまま攻めあぐねると戦況は反転しかねませんね。それに、彼らには…………」
中衛で敵と距離を保ちつつも冷静に大局を見ているテイテツも、軍勢において士気と結束力の高さがいかに厄介かは、己の感情が上手く機能しないまでも頭で理解はしていた。そして手数が多いがゆえに、数々の懸案事項を頭の中で試算してみる。
「――すっごい熱気……これがヒトの結束の…………ヒトがヒトに仕える絆の力…………」
「……みんなーッ!! 慌てふためいてる場合じゃあないっスよー!! 確かにこいつらすっげえ気合い入ってるっス!! けど、冷静に息を合わせたウチらに勝てないはずはないっスー!!」
――グロウがクリムゾンローズ盗賊団の絆に感じ入り驚嘆する中、イロハは首を振って不安を振り払い、雄叫ぶ賊たちには負けつつも大声で他の5人全員に平常心を呼びかける。
エリーたちは、士気を取り戻した子分たちが一斉に襲い掛かってくることを覚悟した。
だが――――意外なことに、子分たちは守りを固め、注意深くローズの後ろへと退いていく。ローズが突き進む道を開け、すかさずローズの背後を守る。
「――ふふん。いい子だ…………アタシのかわいい息子たち…………」
ローズはとうとう子分たちのガードから離れ、単騎でエリーたちの前に進み出た。そして自らのコール・アンド・レスポンスに応じた子分たちの反応のせいだろうか。実に心地よさそうに恍惚とした表情を浮かべる。
ローズは夢見心地――――されど、眼光は目の前の邪魔者たちに鋭く突き刺している。
「――アンタたち……時にはガラテア軍すら恐れるアタシらクリムゾンローズ盗賊団相手に、それもたった6人で……よくもここまで邪魔だてしてくれたモンだねえ。」
先ほどまでとはひと味違い殺気――――エリーは構えつつも、勇敢に笑みを浮かべる。
「そっちこそ、たった一人で前に出てくるとかすっげえじゃん。『かわいい息子たち』とやらには頼らなくっていいわけ~? 他に隠し玉でもあんの~!?」
「フンッ!! それを教えてやる筋合いはないねえ。だが、一個だけは教えてやろう――――アンタらをぶちのめすには、アタシ単騎が一番相応しいからさ!!」
「……何…………!?」
――――勢い込んで鼻を鳴らしたローズ。鼻息の圧で片方の鼻の穴に詰めた懐紙が吹っ飛んでしまい、再び鼻血を噴くが、構わず驚くエリーに続けて言う。
「――アタシがお頭を務める理由……そりゃあ当然、アタシが一番強いからさね。本気で暴れちまうと…………巻き添えになるかわいい息子たちがかわいそうだからねえ…………だから一人で飛び出してきた。」
途端に、ローズは身を屈める!!
「例えば――――こんな攻撃とかねエッ!!」
見るや否や、一瞬にしてローズの全身から銃火器が飛び出し、一斉に光を伴って砲撃して来た――――!!
「はッ!!」
エリーはその場で高くジャンプし、砲撃を躱す。
しかし――――全方位に放たれた砲弾は後方に飛び退いたガイやセリーナだけでなく、上空に飛んで避けたエリーにも襲い掛かってくる――――
「40%ッ!! でりゃあッ!! せいっ、おりゃあッ!!」
『鬼』の力を開放度を上げ、冷静に、最小限の動きで砲撃をパンチやキックで弾き飛ばすエリー。
「むっ! お前たち!! 避けなーっ!!」
「うわああああっ!!」
エリーが弾いた砲弾が炸裂する前に子分たちの方へ流れ弾。ローズはすぐに叫んだ。子分たちは慌ただしく砲弾から逃げる。
忽ち砲弾は爆発し、辺りに爆風と火花が激しく散る。
一方、前方から砲撃を受けたガイとセリーナは――――
「――――ウッソぉ!? またこのパターン~!?」
上空のエリーが見下ろすと……砲弾の中に混じっていた、砲弾に見せかけた『捕縛弾』が展開し、丈夫な棘付きの網がガイとセリーナを絡め取っていた。初めてセリーナと戦った時のリプレイを想起したエリー。
だが――――
「ほっ! せえいっ!!」
「はああああッ!!」
――ガイもセリーナも、もうかつてのレベルではない。素早く対応するだけの技と身体、そして心力を身に付けつつある。冷静に投網を二刀と、大槍の刃で断ち切ってその身の拘束を無にする。
「…………?」
しかし、中衛で光線銃を構えていたテイテツだが、突如、異変を感じた。
「これはバイザーの故障か……? 目の前が歪んで見え――――」
その次の瞬間――――
「――ぐあっ!!」
何と、何も飛んできていないはずのテイテツの手元が爆発した!! 堪らず後方へ吹っ飛ぶ――――
「――え!?」
「何ぃッ!?」
「テイテツ!?」
「な、何が起こって――――」
「テイテツさん! 生きてるっスか!?」
前衛の3人が振り返って驚嘆。後衛のグロウ、イロハが倒れ伏すテイテツに駆け寄る――――
「ふはーっはっはっはっはぁーっ!! まずひとぉーつッ!!」
謎の攻撃に、盗賊皇女殿下、ローズ=エヴェルはほくそ笑み、人差し指を立てて被弾者を数え、豪笑した――――
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