第39話 イリュージョン
――ライネスが
「そろそろギアを上げていくぜい――――そりゃあッ!!」
「!? ――くっ……!」
ライネスが練気で放ったのは――――気弾。両の手から光るエネルギーの弾を発現させ、エリーに向かって投げつける!! エリーは身体を転がして何とか躱す。
「――うわッ!?」
――突然。エリーは首と四肢に平生、身に付けている『鬼』の力の開放度を制限する拘束具から強烈な圧迫感を感じたかと思うと――――体勢を崩したまま、ライネスに吸い寄せられた!!
「はいよーオーライオーライ――――でりゃりゃりゃッ!!」
「ぐうっ!!」
そのまま碌にガードすることも出来ず、ワンツーフックアッパー、締めに回し蹴り、と連撃を喰らう。
「ちいっ」
痛みを堪えて、構え直し、ライネスを見据えると――――
「――なッ…………!?」
――――ライネスの両隣に、ライネスがいる。そしてそのまた隣にも、次の隣にも――――
突然、ライネスが複数人に分身して見えているのだ――――分身したライネスたちが一斉に間合いを詰めてくる!!
(――ど、どれ!? どれが本物、いやまさか全部本物!?)
混乱するエリー。戸惑いつつも、一番真正面から走ってくるライネスを狙って右ストレートを繰り出す――――
「ッ――はアーーーッ!!」
手応えは――――無い。
まるで
「後ろだぜ――――」
「――――!!」
――いつの間にか分身は消え、左斜め後ろからエリーの頭部を、飛び上がったライネスの2連ソバットが捉える――――
ドガガッ、と鈍い音。頭部への衝撃に今度はエリーが眩暈を催す。
「――くっ…………こぉのおおおーーーーッ!!」
エリーは怒気を込め、『鬼』の力からなる火炎を全身から立ち昇らせた!!
「――あちちっちちちち…………そう来るかい――――」
さすがに全身を覆うようにとてつもない威力の火炎を纏われてはひとたまりもなかったのか、ライネスはエリーの背後から遠くに2回、3回と飛び退いて距離を取った。
「――へへっ。ならこれならどうだい――――」
再びライネスが練気を放ち、虹色のオーラを立ち昇らせた。
先ほどと同じように、両の手から気弾を、ボウッと破裂音を響かせながら生成し、宙に浮かす。
(さっきと同じ手? ど、どうする、取り敢えず距離を――――)
エリーがそう思いかけた刹那――――
「――!?」
――ライネスの気弾が、ボウッ、ボウッと幾度も幾度も破裂音を響かせながら、増殖していく!!
ボウッ、ボウッ、ボウッ、ボウッ…………。
――忽ちのうちに…………大量の気弾が生成された。辺りを気弾のエネルギーからなる光で明るく照らし出しているほどだ……。
「――さあ~て……躱せるかな!?」
――――一斉に、エリーへと大量の気弾が、戦場の集中砲火のように猛スピードで飛んでくる!!
「っ……! なんのぉ!! 避け切ってやるわ!!」
エリーは、気弾を全て振り切るべく、森の木々から少し開けた空間の草原に飛び出し、全速力で駆ける。
――何とか、避け切れる。そう思ったが――――
「――ほほーう。この数でも避ける自信があんのかい。なら――――こういうのはどうだ!!」
ライネスは気弾を撃ち切った直後、両手に練気を集中する!
「――うわッ!! ま、また――――!?」
先ほどと同じ…………またも首と四肢の拘束具を引っ張られ、バランスを崩してしまう。
「金属質の装身具は、硬くて重いけどな、けどその分、磁力や電力を通しやすいから――――こりゃ厄介だろ。バランス崩しながらどこまで避け切れる?」
「わああああッ!!」
――――途端に、気弾を次々と全身に喰らってしまうエリー。
一発一発は素手で殴打された程度のダメージに感じたが…………これを大量に何発も受ければ危険そうだ。
「オイオイオイオイオイオイ…………この程度のイリュージョンで腹いっぱいかあ? もっと楽しませてくれや――――!!」
ライネスが練気を高めて念じ――――再び両手から2つの気弾を生成し、そのまま大量に増殖させた!!
「――くっそ――――なら、こうよッ!!」
エリーは窮しながらも、『鬼』の力を出力し、足にエネルギーを集中させ、天高く舞い上がり高速で空を駆ける!!
「ほほお……あの姉ちゃん、練気で空まで飛べるんかい…………さすがにあの高さと速さで飛ばれたら…………気弾も磁力も当てられねえかも……」
果たして、エリーは気弾を避け切った。
そして、反撃だ。空で急速反転し、地上のライネスに猛然と飛び掛かる!!
「――だりゃああああッ!!」
「――うう、おっ……」
さっきのお返しとばかりに、急降下しつつライネスにボディブローを見舞う!! ライネスは激痛に目を見開き、悶絶する――――
「――おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃアアアアアーーーーッッ!!」
――――
隙を見せたライネスに畳みかける為、一気に拳と蹴りの乱打を、凄まじい勢いで浴びせ続ける――――!!
「――ぐぼぉ――――ッ!!」
ライネスは反撃も防御も出来ず、ただただ踏んでいる地を足で抉りながら、遙か後方まで仰け反っていく――――
「――だらららららら!!」
――――エリーは手を緩めず、乱打し続ける。
数百発。
数先発。
――――数万発――――
およそ、人間が耐えきれるはずもない手数と重さの乱撃を浴びせた。しかも、腕と脚には火炎の噴射エネルギーも乗せてその威力と速さを倍々にしている――――
「――――どおおおおおりいああああああ――――ッッッ!!」
――特別力を込め、フィニッシュブローは顔面へと見舞った――――!!
巨大な破砕機が、大型の不発弾でも炸裂させたような鈍い轟音が辺りに響いた。
ライネスは、後方数百メートルは軽々と吹っ飛び…………時折地面や木に激突してそれらを粉砕しながら……森の奥へと沈んでいく――――
――バガアアアアアアアアアンンンン…………。
森の奥の何処かで激突して止まったのだろうか。遠くで激しい土砂を巻き上げながら――――ライネスの気配はそのまま遠ざかった。
「――ふうううう~っ…………」
エリーは一人、ライネスをぶちのめした方を見て深呼吸をする。
(――あいつ、死んだかな…………さすがに死んだよね? よし。みんなを助けにいこ)
ライネスの遺体を確かめる暇は無い。
そう思い、エリーは仲間の気配を探った――――
「――――!?」
――――刹那。
急に空が明るくなるのを感じた。
見上げてみれば――――
「さっきの、弾――――!?」
避け切ったはずの、ライネスの気弾。
その、『避け切ったはず』の気弾をさらに何倍にもした数の気弾が空にあった!!
もはや、空全体が気弾である――――
「――んな、馬鹿な……あいつ生きて――――避けられな――――」
気弾は、また一斉にエリーへと襲い掛かる。
エリーは勇敢にも、空へと気弾の暴風雨を迎え撃つ気だ。足にエネルギーを集中し、飛び上がる――――
「――な、はや――――」
だが、明らかにおかしい。
気弾の群れは、それぞれ複雑な変化の軌道を描きながら…………先ほどまでとは比べ物にならぬ速さで飛んでくるのだ――――
「――ダメッ――――!!」
途方もない数。途方もない速さ。
エリーは、そのままサンドバッグのように、気弾を全て浴び、蹂躙された――――
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