第38話 拳と拳、技と力

 ――――ガイ、セリーナ、テイテツ、グロウが戦うそのまた一方――――




「――でりゃあああ!! ふん! ぜあっ! だだだだっ!! せいやーッ!!」

「――ぬっ! おりゃあっ! ぬんっ!どりあーッ!!」




 ――エリーは既に、ライネスと一瞬たりとも止まることなく体術による打撃の応酬ラッシュを続けていた。常人には姿さえ目に映らないほどのスピードで、激しい土埃を巻き上げ、大木を粉砕しつつ拳と蹴りで乱打する!




 ライネスも武器に頼らない体術タイプなのか、凄まじいパワーとスピードを両立させていると言ってもいい鋭い攻撃を繰り出してくる。




 ライネスは、練度の差か……繰り出す技の鋭さ、巧みさではエリーを僅かに上回っていた。エリーは時々、避け切れずにジャブやフック、ローキックなどの小技を喰らっていた。




 だがエリーも対抗し、既に鬼の力を55%程度まで開放し、肉体の地力と強靭さ、そして体術に織り交ぜて放つ火炎を伴ったパンチやキックの連撃の威力によって技量のハンデを無にしていた。






 ――互角。





 少なくとも現在のところは――――





「だりゃあ、せいっ、ふっ、よっ!」

「うおっ!!」




 ライネスの右ストレートを辛うじて躱したところでその伸ばした腕を両手で掴み――――エリーは力いっぱい地に向かって投げつける!!






 55%開放の剛力。地に叩きつけられたライネスは背中から落ち、直径10メートルほどのクレーターが形成された。森に轟音が響く。





「――ふーっ……こいつ……マジで強い……てか、このタフさはどっか来んのよ…………!?」





 25%で重戦車を軽々と投げて破壊するエリーの怪力。相手はセフィラの街に来る途中で遭遇したドルムキマイラなどではなく、人間。





 だのに、ライネスはクレーターの底に沈みながらも、不敵に笑みを浮かべている。人間ならば背骨が砕けるどころか、今頃全身が裂けていてもおかしくないほどのダメージのはずなのだが。





「――へへへへへ…………」

「――くっ!」




 ライネスの底の知れなさに、思わずエリーは追撃の手を緩めて飛び退いてしまう。





 ライネスが起き上がり、右腕を回しながらゆっくりとクレーターの坂道を登ってくる。






「――――やーるねえ。思っていた通りだあ。あんたを追っかけて正解だったぜ~。まさか、練気チャクラをここまで使いこなしている奴がここにもいるたあねえ……」





「――? チャクラ? 何のことよ?」





 エリーは構えつつも、訝る。





「? 何って…………あんた使いこなしてるじゃあねえかよ? その赤いチャクラの色。奥の手は火ぃ出す以外になんかあんだろ?」





「使いこなしてるって…………もしかして、この『鬼』の力のこと? ねえ、チャクラって一体何なのよ…………!?」





 ――聞いたこともないチャクラという言葉。しかも自分はそれを使いこなしていると言う。訳の分からない会話にエリーは動揺する。





「何? もしかすっと~……あんた、その力を練気と知らずに今まで使ってきた、ってえわけえ!? ――ぶっは!! はっはっはっはっは!! マジですか! こりゃとんだレアもんと出くわしちまったぜ……俺の目に狂いがないどころか、大当たりだぜえ! 他の奴らご愁傷様っす! ワハハ!!」





 ――『鬼』の力も、練気とやらの一種か? エリーは戸惑うばかりだ。ライネスは思いもよらない相手との認識の差に大笑いする。





「――ねえ! 笑ってないで教えなさいよ! 練気って何のことよ!?」





「――アーハハハ……わりぃ、わりぃ……練気も知らねえようじゃあ、確かに対等じゃあねえよなあ」






 ライネスは笑気を何とか抑え……鋭い目つきに創面を変え、話す。





「練気っつうのは、人間の肉体の、脳を中心に全身に流れている生命エネルギーさ。使いこなせる人間はこの世にどんだけいんのかは知らねえが、とにかく使えりゃすげえ力さ。並みの人間だとエネルギーは垂れ流しの状態で無駄にしちまってるが――――」





 ライネスは自らの練気を強め、エリーの目にもハッキリ見えるように立ち昇らせる。





「――俺らみたいに改造手術やら薬物投与やら暗示催眠やら…………まあ、とにかく練気を身体に留めるところから始まって、色んな訓練やら措置やらで習得出来る、云わば超能力よ。まともに使えりゃあ、身体は滅茶苦茶頑丈になるし、基礎体力も飛躍的に上がる。若さを保てる……あんたらの中にももうちょいで使えそうな奴いんじゃね? 回復法術ヒーリングとか、あんたの彼氏使えっだろ? あれも練気の力のほんの一部だぜ。最も、まだまだモノに出来てねえようだがな……だから――――」






「――――うっそ――――!?」





 互角で殴り合ってきたライネス。全身殴打と擦り傷だらけだったが、練気を集中すると見る間に治癒してしまった。エリーは絶句した。





「――こうやって、重傷程度自力で治すの、朝飯前なんよ。あんただって、その力を使う度に傷が治ってっし、てっきり練気使いと思っちまったぜ――――んで、俺ら他の3人もそれぞれ練気が使える。練気ってなア、奥が深くってな。工夫次第で色んな超能力まで使えんだぜエ?」





「……そんな――――」






「あんたらの中には、あんたほど練気が使える奴ァ、いねえようだな…………今頃、ミンチにされってかもな。ひっひっひ」





「――ッ!!」





 ――みんなが危ない。そう思い、走り出すエリーだったが――――





「――おっと。だからって、逃がすわけにゃあいかねえなあ――――大人しく俺と勝負しな。」





 一瞬にして進行上に移動し、ライネスは立ち塞がる。決してエリーを逃がさない。




「――くっそ!! どけっ、どきなさいよッ!! みんなが――――」






「なら、全力でどかしてみろィ――――」





 そう、低く声を発した瞬間――――瞬でエリーの間合いに入り、みぞおちに強烈なボディブローを喰らわせてきた――――!!





「――ぐほッ……あ……あ…………!」




 ――練気を高め、ギアを上げたのだろうか。さっきまでとは比較にならぬパワーとスピード――――堪らず悶絶し、固まるエリー。




「あらよっと――――」





 そのままエリーの顔面にこれも豪烈なフック――――エリーはそのまま足を取られ空中で横に高速回転し、背には膝蹴りを当てられた!!





 吹き飛ぶエリー――――だが、すぐに受け身を取って構え、両手に『鬼』の力を溜める。





「うりゃああああーーーッ!!」





 大気をも揺るがすような気迫の叫びと共に、手から灼熱の炎を放つ!!




「――おおっとォ、強烈ぅ♪」





 ライネスは慌てず。最小限の動きで躱す。躱した先の森の100メートル先まで消し炭になってしまう。





(――――こんな奴の相手をしてたら、あたしだけじゃなく、みんな全滅だわ!! 止めなきゃ…………止めなきゃ!!)





「70%、開放!! てやああああああーーーーッ!!」


「おおおっ!?」





 エリーが、理性を保ちながら戦える限界まで『鬼』の力を開放し、今度はエリーが瞬でライネスの間合いに入る!!





「そりゃあ! でいっ!! せやあっ!! どらあっ!!」


「うおお、とっと、っと――――」





 火炎の噴射エネルギーも攻撃の助けとし、先ほどまでとは桁違いの速さと重さの連撃をライネスに叩き込む!!





 突然のペースアップに、さすがにライネスもエリーの攻撃を捌き切れず、ところどころ重い一撃を喰らう。





 ががががががががが……と、唯々、凄まじい威力と圧の打撃音の嵐だけが聴こえる。




「ふっ、ぜああああああッ!!」

「んぐうっ!!」





 一瞬、ライネスの足払いを躱しつつの低いジャンプ、からの蹴りの連打を浴びせる!!




 顔面、みぞおち、あばら骨、両肩――――5箇所に何百tもの威力の打撃。 






 堪らず、ライネスは10メートルは土を抉りながら仰け反り、膝をついた。






「――ゲホッ、ゲホッ、うううんんっ…………やっぱやるねエ。『鬼』の姉ちゃん。ここまでの力を隠してたなんて、さすがにビビったぜ――――」





 ダメージに眩暈がするのか、咳き込んだのち、頭を抱えてふらつくライネスだが、相も変わらず、他の3人同様喜色満面のままだ。





「――なら降参する!?」





「――へっ。馬鹿言っちゃいけねえよぉ。俺はこれからだっつーの。」






 ゆっくりと立ち上がり、顔面に受けた蹴りで切った口元の血を舌で舐め取り――――練気をなおも昂らせた。






「そんじゃあ、見せてやるぜ…………俺のとっておきの練気のイリュージョンをな――――!!」

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