10-2:始まりの魔人
「これで俺も数日したら魔人かぁ」
バルンに角を渡して腕を治してもらった。
なくした腕を魔術で復元すれば、数日の時を置いて魔人になる。
「お前が魔人になる前に俺が殺してやる、安心しろ」
「それは頼もしいな」
(まぁ、魔人になるわけにもいかないし、それしかないか)
魔王を倒した勇者は、新たに生まれた脅威を倒すために死を選ぶ。
「それで、腕はなんとかなったが武器はどうする? あの剣でなくとも戦えるか?」
「まぁ、魔人に致命傷は与えられないかもしれないけど、普通の剣でも戦えるよ。俺が引き付けるからバルンが魔術で攻撃してくれればいい」
「そうか、わかった。それじゃあ行くか」
「そうだね、行こうか」
ロミロフは兵士が落としていった剣を一本拾った。
そして二人は魔王城へ向かって走り出した。
→ → →
(力が漲ってくる……)
ついにロミロフから角を取り戻し、本来の力を取り戻したが、それでも始まりの魔人を倒せるかどうかはわからない。
なんせ、当時の魔王ですら倒しきれなかったのだ。
当時の魔王とバルンは直接戦ったことはないからどちらが強いかはわからないが、今まで戦ったどんな魔族よりも強いだろう。
(一応こちらにはロミロフがいるが、武器を失っているし、腕も一度飛ばされてまだ本調子ではないだろう、俺も力を取り戻したが馴染みきってはいない)
なんにせよ、急いで走らねばならないことには変わらないと、ロミロフに言う。
「魔術で加速する、気を付けろよ」
「おお、わかった 」
「応えよ、素の力よ、汝に形を与える。それは風、それは疾さ、最後に名を、【疾き追い風】、現れよ」
バルンの詠唱が終わると、後ろから強い風が吹き二人の走りを加速させる。
ロミロフは一瞬だけふらつきそうになるも、体勢を立て直し、風にのって走る。
(そういえば、ノエラにはなにも言わずに出てきてしまったな、帰ったら怒るだろうか)
← ← ←
ロミロフの腕ごと剣を持っていった魔人達は封印されている部屋の前まで来た。
インクリスは自分が到着するまで、魔人達をその場に待機せておく予定だ。
一部はきっと来るであろう勇者と魔王の迎撃に、時間稼ぎになるかどうかも怪しいが、向かわせた。
今ごろ本体である角も使い魔に運ばせて、高速で魔王城に向かっている。
地上を走っている勇者と魔王の方よりも早くたどり着くだろう。
魔人達はインクリスがやって来るまでの間、動きを止め、待機する。
はずだったのだが
ロミロフの剣を持っている魔人が勝手に動き始めた。
魔人達はインクリスの使い魔を寄生されていて、自分の意思では動くことができず、インクリスの指示以外では動かない。
他の魔人はそれを止めることをしない。
インクリスからは他の魔人を止めろという指示は受けていないからだ。
動き出した魔人は、ロミロフの剣を扉に向かって振るう。
→ → →
「着いたな」
「ああ」
二人は魔王城に着いた。
魔術で加速したこともあり、走り続けても2日かかる道程を1日で着いた。
力を取り戻したバルンがいることもあり、途中で1体ずつ待ち構えていた魔人4体は全て1つの詠唱で倒された。
周囲に魔人の姿は見えない。
「もう封印を解かれたかな?」
「どうだろうか」
開け放たれたままになっている魔王城の門を潜ろうとしたとき、上から声をかけられた。
「やぁ、君たちは強いかい?」
その声は知らない声だった、反応して二人が上を見ると、黒い両腕、黒い両脚の魔人だった。
「お前が、始まりの魔人か」
「ああ、今はそう呼ばれているらしいね」
今まで戦った魔人と違い、話が通じる。
見た目はロミロフよりも少し若いくらい顔だけ見れば普通の人間と変わらない。
「それで、君たちは僕と戦うんだろう?」
「お前の返答次第だ、お前は人間を滅ぼすものか?」
ロミロフが尋ねる。
「僕が人間を滅ぼすかって? そうだなぁ、そんなつもり僕にはないよ」
「それならば戦う理由は」
「でも、僕がいることで勝手に人間が滅びるかもしれない」
戦う理由はないと、言おうとしたロミロフは言葉を失った。
「僕より弱いなら全部滅びてしまうだろうね、僕は全てと戦う、もちろん君たちともだ、例え君たちに戦う理由がないとしても、僕と戦ってもらうよ」
始まりの魔人は二人の目の前に飛び降りてきた。
「さぁ、準備はいいかい?」
「まて、」
バルンが止める。
「戦う前にいくつか質問に答えろ、その後ならば戦ってやる」
「いいよ、何が聞きたい?」
「お前の封印を解いた魔人はどうした?」
「殺したけど? あいつら弱かったし」
魔人が弱かったとあっさりと言われ、すぐに納得する。
彼はかつての魔王に気に入られて何度も戦う程強かった、それが魔人になったのだ、他の魔人とは比べ物にならない程強いのは当たり前だ。
「そいつらの内の1体が剣を持っていなかったか?」
「さぁ、よく見てなかったからわからないけど、たぶん持ってたんじゃないかなぁ」
「それはどうした?」
「知らないよ、僕は武器を使わないし、気にもしなかった、質問はそれだけかい?」
「ああ、それだけだ、じゃあ始めようか」
「わかった、なんとか耐えててくれ」
ロミロフはバルンがした質問の理由を汲み取り城内へ走った。
「あれ、二人同時でもよかったのに」
「ああ、すぐに戻ってくる。ちょっと奴には取りに行くものがあってな」
「ふぅん、それで彼は強いのかい?」
「ああ、俺に勝ったこともある」
「へぇ! それは強そうだ、僕を楽しませておくれ!」
「いいだろう、応えよ、素の力よ――」
バルンの詠唱で魔人との戦いは始まった。
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