9-5:魔人対勇者・魔王
ノエラの家を飛び出したロミロフは宿に置いてあった装備をすぐに着け、北門へ走る。
北門に着いたときにロミロフが見たのは、倒れた兵士達と10体程の《《魔人》。
兵士達は動けなくなっているようだが、死んではいないらしい。
(そうか、魔人の存在を知らない人にとっては魔人も魔族も変わらないのか)
魔族が10体ならばなんとかなるとロミロフは思っていたが、魔人が10体だと流石に厳しい。
1体ですらあれほど苦戦したのだ、10体もいたら流石に勝てないのではないだろうか。
そうロミロフは考えたが、退くわけにはいかない。
「おお! 勇者が来てくれたならなんもかなるぜ!」
「あんなやつらやっちゃってください!」
そう口々に魔人達を指差して、まだ無事だった者達がロミロフに期待の声を寄せる。
なぜ、魔人が10体も同時に現れたのだろうとか、それがなぜ、街を襲いに来たのだろうとか、どうせインクリスが裏で糸を引いているのだろうとか、いろいろ気になることは多いが、戦う以外にないのだ。
「さて、魔人共よ、次は俺が相手だ!」
倒れた兵士達を背に、ロミロフは魔人達に言う。
その声に反応して、魔人達はロミロフに目を向ける。
そして、一斉に襲いかかってきた。
魔人達は前回遭遇した魔人とは違って攻撃的だ。
前回の魔人が攻撃に反応して攻撃を返して来たのに対して、止まることなく攻撃してくる。
10体は幸い他の人間には目もくれず、ロミロフだけを狙ってくる。
(バルンは早く来ないだろうか)
ロミロフは内心そう呟いた。
攻撃的な魔人が10体もいると流石に、攻撃を避けることに重点を置かざるを得ない。
ロミロフは、攻撃に転じる機会を窺いながら魔人達の攻撃をしのぐ。
バルンが来れば、どうにかして1体ずつ倒していけるようにしてもらえるだろう。
→ → →
話を聞くなりロミロフはすぐに飛び出していった。
「俺も行ってくる、ノエラは待っててくれ」
「大丈夫ですか?」
「ああ、俺が負けたことがあるのはロミロフだけだからな、心配することはない」
そう言って、バルンもノエラの家を出た。
並の魔族が10体ばかり束になったところでロミロフには敵わないとはバルンも思うが、通常戦いにおいて協力などしない魔族が10体も同時に現れるというのはどう考えてもおかしい。
インクリスが関わっているのならば、ロミロフが危ない。
バルンは急いで北門へ向かう。
北門へ続く大通り、空き家が並ぶ北通りへ差し掛かったところで見覚えのある少年が姿を現した。
「やぁ、バルン。どこへ行くんだい?」
「インクリス……!」
インクリスは偶然出会った友人に声をかけるかのようにバルンに話しかける。
バルンはこの場にロミロフがいないことを悔やむが、インクリスがそういう場を狙って姿を現しているのだろう。
「魔族の集団を先導しているのはお前だな?」
「魔族の集団? 知らないなぁ、僕がこの街に連れてきたのは、魔人の軍団さ」
「なるほど、魔人か」
魔人の集団と聞いて、バルンは納得する。
どうやっているかはわからないが、魔族を集団にして戦わせるよりは、魔人を集団で戦わせた方がまだ可能性はあるように思える。
彼らも元は人間なのだから集団での行動も抵抗が無いのだろう。
(魔人10体が相手ではロミロフでも流石に分が悪い)
「そこを退いてもらおう」
「北門へ向かうんだろう? でも、それはさせないよ彼には10体用意した、そして、君にも10体用意した。
インクリスの言葉に合わせ、インクリスの背後に人影が10体現れる。
それは、全て魔人だ。
「やってくれたな」
「これくらいはね。力は渡してあるだろう、なんとか生き延びてくれよ」
「お前に渡された力など使わん」
「どうだろうね、まぁ頑張ってね」
そう言い残してインクリスは姿を消した。
「応えよ、素の力よ、汝に形を与える。それは――」
逃げながらバルンは呪文の詠唱を始める。
→ → →
(なぜだ!)
バルンは走りながら考える。
惑わしの結界で魔人達にはバルンの位置を捉えられないようにしたはずだ。
それなのに、魔人達は正確にバルンの位置を見つけ、攻撃を仕掛けてくる。
たまらず、バルンは大通りから外れ迷路のようになった路地裏に逃げ込んだが、それでも魔人達は正確にバルンを補足して攻撃してくる。
(これは、俺にあの角を使わせるためか、ロミロフのところへ行かせないためか、それとも両方か)
「応えよ、素の力よ、汝に形を与える。それは光、最後に名を【奪う光】、現れよ」
バルンが唱えた呪文に応じて、激しい光が発生し後ろから攻撃しようとしてきた魔人の視力を奪う。
それでも構わず、魔人はバルンを狙って殴りかかってくる。
(やはり、視力以外の何かでこちらの位置を把握しているのか)
全盛期のバルクロムならば、この程度の魔人など一撃で全て闇の雷で焼き尽くすことができただろうが、今のバルンでは火傷させることも無理だろう。
比較的力を使わずに、大きな効果を保てる妨害に魔術を使っているのだが、それのどれも効果が薄い。
(音か、それとも匂い、魔力を辿っているのか)
視力以外の位置を探る方法を考え、妨害を入れてみるがどれも効果が薄いように感じる。
バルンは、なんとか逃げつつ、 ロミロフのところへ向かう方法を考えながら走る。
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