9-4:魔人集結

(そろそろかな)


 インクリスは、光の届かないそこから使い魔の目を通して魔族の領域、森の中に整然と並ぶ魔人達を見る。


 その数、30体。


 人間の兵士の軍団はおろか、魔王ですら対抗できない戦力だ。


 勇者が魔王を倒しに行く動きを見せてからコツコツと集めた人間の体を使って作った魔人の軍団だ。


 使い魔を元に彼らの前にインクリスは姿を現す。


 バルンの前にも現れた少年の姿だ。


「さて、君たちは今から僕のために、僕だけのために、あの街に行き鍵を手にいれてくる」


「…………」


 魔人達は静かに話を聞く、身じろぎひとつしない。


「そして、君たちの祖である始まりの魔人をあの部屋から解放する」


「…………」


「もちろんそれは僕のためだ、僕だけのためだ!」


 インクリスは大きな声で演説をするが、答えるものはない、聞いているものも物言わぬ魔人達だけだ


「さて、そろそろいいかな」


 一通り、過去に見た人間が戦闘前に行う演説を真似してみたが、魔人達の士気には影響しない。


 それは当たり前のことなのだ。


 彼らはインクリスの使い魔に寄生されており、インクリスが操り動かす戦闘人形だ。


 そして、元は人間の街で兵士だった者達だ。


 → → →


(なんて聞くかなぁ)


 朝、いつものようにノエラの家の前まで来たロミロフは考えていた、ノエラにバルンが魔族であると知っているのかと、知らなかった場合に出きるだけバレないように、そしてバルンに気づいたことがバレないような質問のしかたを。


「バルンって、何であんなに魔族について詳しいんだろうな」


 この質問は以前聞いたことがあったはずだ。


 確か答えは、「研究していたことがある」だった。


 そして、この質問ではノエラが知っているのかどうか判断することができない。


 そして、バルンにも気づいていることがバレるだろう。


(ダメだな)


 ロミロフにはこういう、鎌かけみたいなことは向いていない。


 相手に面と向かって聞く方が性に合っているし、実際そうしてきた。


 以前疑いが深まったときもそうだ、バルンに対面して、「お前は何者だ」そう、まっすぐに聞いた。


(そういえば、約束もあったな)


 ノエラに勇者であるということを隠してもらう代わりに正体に関しては詮索しない、あのときの話はそれで終わったのだ。


(そういえば、ノエラに勇者であることを隠している理由ももう、無くなったようなものか)


 しかし、一方的に約束する理由がなくなったから破棄したい、などと言うのはどうかとロミロフは思う。


 彼ら魔族だったとはいえ、約束は守っている。


 信用するに値する存在であることも理解できている。


(しかたない、ノエラに聞くのは諦めよう、うまいこと機会が巡ってきたらその時だ)


 考えるのをやめ、いつものように笑顔で扉を叩く。


「おはよう、バルン」


「ロミロフか、おはよう」


 ノエラはまだ起きてきていないようだ。


「今から朝食なんだが、お前も食べるか?」


「ああ、戴くよ」


 魔王城から帰ってからは誘ってもらったときは食べるようにしている。


 見た目は悪くとも味は良いことを身をもって確かめたからだ、もはや不安はない。


(そういえば、魔族って何を食べるんだろう?)


「なぁ、バルン」


「どうした? ロミロフ」


 バルンは料理をしながら背中越しに返事をする。


「魔族って何を食べるんだ?」


 人間だろうか、脳裏にそう過るよぎるが、バルンの答えは違った。


「魔族の食事か? 魔族それぞれの姿によって違ってくるな、動物に近い姿のものはそれと同じものを食べることが多い、狼の姿を取る魔族は肉、牛の姿なら草みたいにな、絶対にそうというわけではないがな」


「人に近い姿の魔族は?」


「料理をするものもいるぞ、魔族によっては畑を作ったり肉を取る用の動物を育てているものもいる」


「ふぅん」


 バルンはこういう質問は当たり前のように答える。


 普通、人間ではそんなことは知らないはずだ。


「まぁ、力を持っていることと考え方以外は、大体見た目通りだよ」


「人間でも食べるのかと思ってたよ」


「人間なんて食べるわけ無いだろう」


「それもそうだね」


 既にバルンが魔族であると気づいているからか、バルンの発言は魔族ならではの物が多いことがわかる。


 変につついても気づいていることに気づかれるだけなので、すんなり同意して流す。


「さて、できたぞ」


 バルンが持ってきた料理は見た目からはあまりおいしそうには見えない。


 魔族の生態は見た目通りでも、作る料理は見た目通りにいかないのはなぜだろうか。


 → → →


「ここにロミロフさんはいるか!?」


 昼過ぎ、ノエラの家に慌てた様子の男が飛び込んできた。


「俺がロミロフだが、どうかしたのか?」


 ロミロフが対応する。


「魔族が、北門に魔族の群れが来ている!」


(魔族の群れ?)


 バルンは群れをなす魔族などいないとは思いつつも、どうするかと考える。


 男の話では北門におおよそ10体程の魔族が来ているそうだ、今は兵士達がなんとか押し止めているが、男が伝令を任された時点で既に崩壊寸前だったらしい。


「わかった、俺もすぐに北門へ行くよ、安心してほしい」


「ああ、あんたが来ればなんとかなるよな!」


「もちろんだ、俺は…………」


 ノエラがいることを思い出したのか、勇者だからなと言おうとして飲み込む。


「俺は魔族なんかには負けない」


 そう言って、ロミロフは飛び出していった。

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