9-3:魔族が人間を襲う理由
(バルンの問いかけ、あれはやはりそういうことなのだろうか)
ロミロフは一人宿に帰った後、突然バルンがしてきた問いかけについて考える。
(薄々気付いてはいたが、バルンは魔族なのだろう)
魔術の扱い、魔族、魔人に関する知識、その他の数多くの要素がバルンを魔族だと言っている。
先程の質問への回答通りにするのであれば、放っておく。
ロミロフは元からバルンが魔族ではないだろうかと疑っていたため、今までと態度が変わることはないだろう。
(そういえば、ノエラはこのことを知っているんだろうか)
気にはなったが、聞く機会がない。
ノエラはほぼ常にバルンと一緒にいるし、バルンもあの質問はロミロフにバレているのではないかと危惧してのことだろう。
バルンの前で知っていることを仄めかすような発言はできない。
バレたことを知ったバルンが一体どういう行動に出るかがわからないからだ。
ロミロフとしては、特にバルンが人間に対して敵対しないのであればわざわざ殺すようなことをしたくないと思っている。
(俺も明日、それとなく聞いてみるか)
→ → →
「バルンに聞きたいことがあります」
「お、おう、なんだ」
夕食後の片付けをしていたらノエラが突然聞いてきた。
「実は私、今日はずっと考えていたんですよ」
「何をだ?」
「バルンって、私が知っている魔王と印象が全然違うんですよね」
「ああ、そういう話か、どう違うんだ?」
バルンも人間からどう見られているのか興味があった。
「魔王って、全ての人間を滅ぼす悪い怪物って聞いてたんですけど、バルンって別にそういう感じしないんですよね」
「全ての人間を滅ぼす悪い怪物……? なんだそれは」
「やっぱり違うんですか?」
「別に人間を滅ぼそうなんてしたことはない」
過去の魔王の中にはそういうことを考えた者もいたのかもしれないが、少なくともバルンはそんなことを考えたことはない。
むしろ、過去の魔王にもそんなことを考えた者はいないのではないだろうか。
もし、考えていたら人間はもう滅びているんじゃないだろうか。
「じゃあ、なんで人間の街に攻めてきたりするんですか?」
「なぜってそりゃあ、強い人間の軍団と戦って力を示そうというのが主な目的だな」
「強い人間の集団?」
「ああ、人間は個人個人では弱いが、集団になると手強い者達もいる。例えばこの街に常駐している兵士達だな」
「いえ、そこではなく、戦って強さを示すってところです」
「ああ、魔族は戦って強い程偉い、自分よりも強い魔族には従うしかない、そういうものなんだ。魔族同士で戦うこともあるが、お互いに損害もでかい。
そこで、どれだけ人間を殺せるかで競ったりすることがあってだな。できるだけ強い人間を沢山殺すことを強さの指標にしたりするんだ、そして、効率をよく強い人間と戦うための方法として、っと、大丈夫か?」
話ながらノエラを見ると、少し気分が悪そうな顔をしていた。
「ああ、すまない、人間がこんな風に殺される話なんてするべきじゃなかったな」
「いえ、聞いたのは私ですし、魔族と人間で価値観が違うのは当たり前のことだと思いますし」
「まぁ、つまりは人間の恨みを買って、強い人間達から来てもらおうということだ」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「まぁ、俺が魔王をしてた最後の方では勇者が殆どの強い魔族を殺して回ってて、勇者を倒した奴が次の魔王だとまで言われていた、そういう俺も勇者には負けたんだがな」
「さすがはロミロフですね」
「ああ、ロミロフは強かった、な? まて、ノエラ」
今、さらっとノエラがとんでもないことを言ったような気がした。
「どうしました?」
「今、勇者をロミロフだと言ったな、知っていたのか?」
「何をです?」
「ロミロフが勇者と呼ばれている存在だということをだ」
「そりゃ知ってますよ、むしろ知らない人がいるんですか?」
確かに、人間で知らない奴は居ないんじゃないだろうか。
「ロミロフは知らないと思って隠している、できれば知らない振りをしてやっておいてくれ」
「? よくわかりませんが、わかりました」
ロミロフがいかにも怪しい状態だったバルンの正体を探らずにいてくれているのも、バルンがノエラにロミロフは勇者であることを話さずにいるからだ、ロミロフにはバレていないことにしておいた方がいいだろう。
「そういえば、ロミロフが持っている魔族の角っていうのは」
「ああ、俺の角だ。なんとかしてあれを取り戻しさえすれば、再び魔王に戻ることもできるのだが」
「ふぅん、そうですか」
協力してくれるという気は更々無いらしい。
「まぁ、時間をかけて力を溜めれば、取り返す必要もない、そもそも、今の状態で角を取り返すためにロミロフと戦って勝てる訳がないしな」
「ロミロフは強いですしね」
「角が揃っている状態ならば、いい勝負になるんだが」
「でも、前に戦ったときは負けたんでしょ?」
「卑怯な手を使われたんだ、油断させられていなければ負けていなかったはずだ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だとも、あの戦いのことを少し話してやろう」
そうして、バルンはロミロフと戦ったときのことをノエラに話始めた。
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