9-2:バルンの問い

(ノエラには魔王だとバレてしまったが、ロミロフにはバレていないよな?)


 バルンは少しだけ不安になった。


 ノエラにはあっさり魔族だとバレていたのだ、もしかしたら勘の鋭いロミロフにもバレているのではないか、そんな気になった。


(しかし、どうやって確認したものか)


 率直に、「俺が魔族だってこと気づいているか?」などと言えるわけがない、それを言えるのは馬鹿だけだ。


 幸いバルンは馬鹿ではないので、ロミロフに違和感を抱かれない鎌のかけ方を考える。


「もし、俺が魔族だったらどうする?」と聞くと恐らく、訝しげな顔になり、「なぜそんなことを聞く?」と言いつつも真面目に答えてくれるだろう。


 だが、その回答からはバレているかどうかの判断はできないだろう。


 バレていなかった場合は、バレる危険性が増すだけだ。


「もし、魔族が人間に混じって生活していたら、どうする?」と聞くとする。


 恐らくこれも真剣に考えて、答えを語ってくれるだろう。


 この質問ならば、バルンが魔族であると気づいているとしたら、そこそこ肯定的な答えを返してくれるに違いない。


(よし、それでいこう)


「なぁ、ロミロフ。もし、人間に混じって魔族が生活していたとしたらどうする?」


「ん、どうしたんだい? そんな質問をして」


「少し気になってな」


「うーん、そうだなぁ、人間に混じって生活しているとしたら、放っておくかな。別にそれはただ生活しているだけなんだろう?」


「まぁ、そうだな」


「じゃあ放っておくよ、わざわざ暴いて殺しに行く必要もないだろ?」


「そうか、ロミロフはそう考えるのか……」


「それで、バルンはどうするんだい?」


「何がだ?」


「俺に聞いてきたってことは、バルンも自分の考えがあるんだろ? バルンは人間の中に魔族が混じって暮らしていたらどうするんだい?」


「ああ、」


(しまったな、ロミロフに鎌をかけるつもりで、自分ならどう答えるか考えていなかった)


「そうだな、俺はできるだけ排除した方がいいと思っている」


「へぇ、なぜだい?」


「例え、今は問題なく暮らしていてるとしても、いつ問題を起こすかわからん、魔族は利己的であり、他人のことは考えない、そういう奴らだ 、集団での生活が基本にある人間の中で暮らし続けられるとは思えない」


 バルンは自分のために人間に紛れて生活しているのだから隠れ続けていられるということを理解している。


 今の生活を続ける理由である力を取り戻したら、いつでもこの生活をやめることもできる。


 それ故に、バルンは他の魔族も隠れている間に目的があれば隠れ続けられるが、その目的を達成した、もしくは失った途端にその生活は破綻することを知っている。


「なるほどね、そうかぁ」


 ロミロフは、バルンの回答を吟味している。


「今の質問は、インクリスがもし、街の中で、人間に混じって生活しているとして、他者に何も迷惑をかけていないとしたらどうする?という意図で聞いたのだが、それでロミロフはインクリスを倒せるのか?」


「なに言ってるんだよ、インクリスは元々は街にかくれていたかもしれないけど、少なくとも今は魔人を産み出したり、ノエラを誘拐したり、そういえば、人に使い魔を寄生させたりもしていたな、十分に倒す理由はあるだろ?」


「ああ、そうだな」


「変なことを聞くなぁ」


 ロミロフも言ったように、バルンの質問はロミロフに対して少し変な印象を与えてしまったようだ。


 しかし、それがバルンは魔族であるということには直結しないだろうとも思われる。


(しかし、少し肯定的な意見だったが、よくよく考えてみればロミロフは元々そういうことを言ってもおかしくない性格だったな、質問は意味がなかっただろうか)


 バルンはロミロフの回答を考えてみる。


 確かに何もしていないのならば放っておいてもいいというのはバルンが魔族であることを知っていても出る言葉だと思う。


 しかし、知らなくてもロミロフならば言いかねない。


 もっとよく考えてから聞くべきだったかとバルンは思ったが、逆にこれは好機なのではないかとも思った。


「よし、もうひとつ質問だ」


「なんだ?」


「もし、知り合いが魔族だったらどうする?」


 この質問はかなりギリギリだが、この流れならば違和感なく答えてもらえるだろう。


「知り合いが魔族だったらかぁ、そうだなぁ、かなり迷うと思うけど、人間に危害を加え始めたら、斬るよ」


「何もしていないとしたら、魔族だと知っても今までと同じように付き合えるか?」


「あー、それはどうだろう」


 ロミロフは少し何かを考えてから答える。


「やっぱり、少しだけ警戒しちゃうようになってしまうかもね、まぁこれは仕方ないよ」


「そういうものか」


「まぁ、俺はそうだよ、バルンは?」


「俺は、街から出るように説得するかもしれんな、殺すことはしない、と思う」


「ふぅん、意外だなぁ、バルンって知り合いでも敵になりかねなかったら躊躇なく殺すとか言いそうだったけど」


「俺も知り合いには多少慈悲を持つさ、敵対しない限りはな」


「敵になったら?」


「その時は容赦はしない」


「うん、それはバルンらしい」


「まぁ、そうだな」


 なんとなくだが、ロミロフはバルンが魔族であるということには気づいていないのではないか、バルンはそう考えることにした。


 フードと角が擦れる音が聞こえるのはノエラだけだろうし、普通は気づかないものなのだろう。


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