勇者、気付く

9-1:ロミロフからの手紙

 ロミロフが帰ってくる予定の日、昼過ぎにノエラの家に商人が手紙を持ってきた。


 ロミロフからだ。


「ロミロフから手紙?」


 確か何かあったら連絡するとは言っていたが、何かあったのだろうか。


 ノエラの目を治して魔人化させることをインクリスが狙っていたことから、以前遭遇した魔人もインクリスの手によるものだとバルンは考えていたのだが、ロミロフから手紙が届いたということは会いに行った医者も、魔人を産み出し続けていた、もしくはインクリスの仲間だったのだろうか。


「俺も預かっただけですからね、あんたに渡してくれって」


 手紙を持ってきた商人はそれだけ言って帰っていった。


(とりあえず読んでみるか)


『バルンへ、君がこの手紙を読んでいるということは、俺は今、非常に厄介なことになっていると思う。

 ノエラには心配する必要はないと伝えておいてくれ、最悪でも奴と相討ちになるつもりだ。

 なんとか生き残ることができたら、少し時間はかかるかもしれないけどいつか帰るよ。

 あと、バルン、角を奪われてたらすまない』


 この手紙はまるで遺書だ。


 心配はないと書かれているが、こんな手紙を送ってくる時点で危険な状況だとわかっているのだろう。


「本当に大丈夫なのか?」


 バルンが心配しているのはロミロフ本人よりも角の無事、そしてロミロフを倒すような魔族か魔人の存在だ。


(インクリスだけでも面倒なのに、まだなにかいるのだろうか…………)


 そんなふうに自分のことを心配をしていると、扉を叩く音がした。


 また来客か?と扉のところまで行くと、外から呼び掛ける声がした。


「おーい、ノエラ、バルン、帰ってきたよ」


 それは、今手紙が届いたロミロフの声だった。


 → → → 


「それで、この手紙はなんだ」


「ああ、魔術師のところに行く前に預けていたのを忘れててね、万が一戻ってこなかったら届けてほしいって言ったのに、なんでちゃんと戻ってきたのに届けちゃったかなぁ」


「知らん。で、魔術師はどうだったんだ? 魔人を作っていたか?」


「いや、色々話を聞いたけど、彼は魔人を作ったりはしていなかった。あまり大きな力を持っている角も持っていないみたいだったし、たぶん、俺の仲間の時の一度と、それ以前に一回あっただけみたいだ」


「その魔術自体はどこで知ったと?」


「大分昔に旅の魔術師に教えてもらったらしい」


「なるほどな、その魔術師についてのことは?」


「なんにも知らないって、凄い魔術師だったってことはわかるけど、それだけ」


「そうか、まぁ、昔の正体不明の旅の魔術師の話はもうどうでもいい。

 こっちもな、ロミロフがいない間に色々あってな」


「色々って?」


「ノエラがインクリスに拐われた」


「なんだって!? そういえば、ノエラを帰ってきてから見てないな、もしかしてまだ見つかってないのか?」


 ロミロフはノエラが拐われたと聞いて、掴みかかってくるような勢いで聞いてきた。


「そんなわけないだろう、今は自室にいるだけだ」


「そうかよかった、で、無事だったのか? 怪我とか、変なことされていなかったか?」


「ああ、以前かけておいたおまじないのおかげでな。そして、その過程でインクリスの本体にも会った」


「インクリスに会ったのか、影じゃなくてか?」


「ああ、本体だ。だが、魔族としては少し変だった」


「どこが?」


「ああ、インクリスは人間の少年のような外見をしていたんだが、角が無かった」


「角が無い魔族なんているのか?」


「いないはずだが、あれは間違いなく魔族だった」


「でも、角は無かったと」


「ああ、もしかしたら姿を変えてたのかもしれんな」


「そんなことできるのかい?」


「まぁ、魔術による幻覚みたいなものだな」


「なるほどね、本体には会ったけど、依然正体は不明か」


「ああ、しかしだ。奴はノエラを魔人にするつもりだったという口ぶりだった、前に遭遇した魔人は恐らく、インクリスによって作り出されたものだ」


「魔族が魔人を作るなんてことは無いって言ってなかったっけ」


「普通の魔族はだ、インクリスのような普通とは程遠い魔族のことまでは知らん」


「それもそうか、まったく、インクリスは何がしたいんだろうね」


「さぁな、もしかしたら、人間とも魔族とも敵対する、新しい魔人の集団でも作ろうとしているのかもな」


「魔人同士は争わないのかい?」


「さぁな、過去に複数の魔人が出会った、ましてや魔人の集団などという記録は無い。人間や魔族相手に暴れるだけで、知力があるのかもわからん」


「魔人を作っているらしいことはわかったけど、目的も規模もわからないか、対策しようが無いなぁ」


「地道に、何かしてきたらそれを潰すしかないだろうな」


 バルンとロミロフは現状を再確認して、はぁーっと深いため息を揃って吐く。


「バルンはなんでインクリスと会ったときに倒しちゃわなかったんだ」


「馬鹿を言うな、俺では魔族を倒せん」


「まぁ、そうだよね、バルンはそこまで強くないもんね」


 ロミロフの言い方には少しカチンときたが、今は本当のことなので同意する。


「次はお前がいるときに会いたいものだ、どうにかして探しだす方法は無いものか」


「あったら苦労しないんだけどなぁ」


 再び、二人はため息をつく。

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