8-5:ノエラは知っていた
ノエラはまるで、以前はそういう仕事をしていたんですか、と聞くかのように聞いてきた。
「なんの話だ」
「さっき、インクリスが言っていたでしょう、魔王として再び君臨してほしいって、それはやっぱり、バルンが以前魔王だったのかなって」
(バレた、どうする? ノエラを殺して逃げるか?)
言われてバルンが最初に考えたのは、それだ。
「でも、その話は後にしましょう、先にご飯が食べたいです」
ノエラは何を考えているのかわからないが、その様子からは普段と違うところは読み取れない。
しかし、先にご飯をという提案で、バルンは少しだけ落ち着いた。
「そうだな、そうするか」
声にはあからさまに焦りが浮かんでいるが、ノエラは特に気にするようすがない。
バルンが料理をしている間、お互い無言だったが普段から料理中の会話は少ない。
「できたぞ」
少し経って、バルンが夕食の用意を終えた。
二人は食卓につき、普段と比べると少し味が落ちる夕食を食べ始める。
「ノエラ、俺が魔王だったと知って驚かないのか?」
料理中に覚悟を決めたバルンが話を切り出す。
「そうですね、ロミロフは魔王は死んだって聞いてたのに、生きてたってことには少し驚きましたね」
「いや、なんというか、もっと他に驚くところがあるんじゃないか?」
バルンも、自分とノエラの温度差に慌てている自分が馬鹿なんじゃないかと思えてきた。
「例えば、俺がそもそも魔族だってこととか」
「それは知ってましたけど?」
「は? なんだって?」
思わずバルンは聞き返す。
「いやだから、前からそれは知ってたんですって」
「いつからだ」
「いつからって、最初からです。最初から、魔族だって知ってて声をかけました」
「…………どうやって気づいた」
来たばかりの頃はフードを被ってはいたものの、顔を隠してはいなかったし、魔王バルクロムの顔を知っている者ならば、気づいたかもしれない。
しかし、ノエラは目が見えず、もし見えたとしても魔王の顔など知らないはずだ。
「最初からフードのと角が擦れる音がしてましたし、出会う前に二人を一瞬で倒したのも聞いてましたから、ああ、こんなに強くて角があるのなら、彼は魔族なんだなって。一応角の存在は夜寝ているときに触って確かめたりもしました」
「…………そうか」
バルンは少しだけ頭が痛くなったような気がした。
バルンの皿にはまだ料理が残っているが、ノエラの皿はもうすぐ空になるところだ。
「それで、なんで魔族と知ってて俺を泊めてくれたんだ?」
「最初に言った通りですよ、困ってそうだったからです。
まぁ、強そうだしその辺の人には負けなさそうってのと、魔族だしもしかしたら人間の常識に疎くてうまいこと使えるんじゃないかなとは思いましたけど」
「なるほどな、よくわかったよ」
バルンが思っていたよりもノエラはずっと強かで、図太い性格だったらしい。
「で、ですね、私が聞きたかったことはですね」
(そういえば、この話はノエラが聞きたいことがあると言って持ち出してきたんだった)
「もし、力を取り戻したとして、バルンは魔王として魔王城に帰ってしまうんですか?」
「…………そうだ」
(当たり前のことなのに何故、何故俺は今言い淀んだ? 最初から力を取り戻すまで隠れ住むだけのつもりだったはずだ)
「やっばり、そうなんですか」
「ああ、そうだ。まだ、当分その予定はないがな」
「そうですか、では約束してください。もし、その時が来たら、きちんと見送らせてくださいね」
「見えないのに見送りか」
「そういうものでしょう」
「そういうものか」
少しの笑いが生まれる。
バルンの皿も、もう空になっていた。
「さて、そろそろ片付けるか」
「そうですね、今日くらいは手伝いますよ」
「ああ、ありがとう」
→ → →
「おひさしぶりです」
「んん、勇者様ではないですか、どうしましたかな?」
ロミロフは、かつて仲間だった者がお世話になった魔術を扱う医者のところに来た。
「ちょっと待っとれ」と言って、ロミロフに背を向けて戸棚からお茶を出そうとする。
「来てすぐで悪いんですけど、あなたのところで腕を治してもらった男、どうなったか知ってますか?」
「んん? 確か暫くしてから魔族との戦いで死んだんじゃなかったか?」
振り向きもせずに答える。
「ええ、そうです。では、その時の死に方については?」
「さぁなぁ、ワシもうちで診た奴が死んだぐらいの話しか聞いてない」
医者はヤカンに水を入れ、短い呪文を唱えて魔術で火を付け、お湯を沸かす。
「そうですか、では最後の質問です」
「うむ」
「あなたは、魔人の生まれかたをご存じですか?」
ロミロフは剣に手をかけた、もし医者が図星を突かれたことで、ロミロフに攻撃を仕掛けてきたとしても対応できるようにする。
「魔人? 魔族が人を拐って作るとか、そういう話を聞いたことはあるが詳しくは知らんなぁ、おっとと、湯が沸いたな、茶ぐらい飲んでいくじゃろう?」
「ええ、頂きます」
ロミロフは、医者が振り向く前に剣から手を離し、笑顔で答える。
「さっきは最後って言いましたけどもうひとついいですか?」
お茶を受け取りながらロミロフが聞く。
「あなたが最近脚の欠損を治療した患者で、行方がわからなくなってる人はいますか?」
「最近脚を?いいや、おらんな、そもそも、欠損を治すなどとそうそうできることでもない、持ってる力が足りんよ」
「そうですか」
恐らく嘘は言っていない。
良かった、と思いつつも一応、欠損部位の復元をする魔術の危険性について、教えておくことにした。
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